内閣改造を"ばね"にできるか? ~自民党総裁選まで1年~【研究員の視点】#504
NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男
岸田文雄氏が第100代内閣総理大臣に就任し、岸田内閣が発足したのがおととしの10月4日。来月で丸2年になります。その先の来年9月には3年間の任期満了を受けての自民党総裁選が予定されています。
この2年間、内閣支持率は一進一退と言わざるをえません。それでも経済の回復基調と税収の増加、それにG7広島サミットなど首脳外交での手応えを感じながら、岸田総理は次の総裁選での再選を視野に入れているというのが大方の永田町関係者の見方です。
そうした状況のもとで、9月8日(金)から10日(日)にかけてNHK月例電話世論調査が行われました。
☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。
支持する | 36%(対前月+3ポイント) |
支持しない | 43%(対前月-2ポイント) |
6月以降、3か月連続で支持率が低下していましたが、今月はわずかながら持ち直した形です。各種の世論調査でも同様の傾向が現れていて、「一旦底を打った模様」という受け止めが出ています。
この1か月間で、岸田内閣の姿勢が評価され、若干の支持回復につながった動きは何だったのか考えてみます。
今回の世論調査で質問を重ねた調査項目に、8月24日に開始された福島第一原子力発電所の処理水放出に関するものがあります。
☆東京電力福島第一原発の処理水の海への放出が始まりました。あなたは、この対応が妥当だと思いますか。妥当ではないと思いますか。
妥当だ | 66% |
妥当ではない | 17% |
これを与党支持者、野党支持者、無党派の別に見てみると、「妥当だ」は与党支持者79%、野党支持者65%、無党派60%となっていて、いずれでも「妥当ではない」を大きく上回っています。
この問題では、風評被害を心配する国内の漁業者から依然反対の声が上がっています。これに対し政府は、IAEA=国際原子力機関の全面的な協力を得て、安全性に問題がないことを科学的なデータで示す努力を継続することで理解を得ようとしています。
国際標準を十分に満たす安全性が確保されていることを具体的なデータで公表する対応によって、国民の間に理解が広がっていると言えそうです。
そしてもう一つ重要なのは、風評被害が起きないようにするために欠かせない国際社会への説明の努力です。
☆岸田総理大臣は、ASEAN=東南アジア諸国連合と日中韓の首脳会議で、中国による日本産の水産物の輸入停止は「突出した行動だ」と指摘し、処理水放出の安全性について理解を求めました。あなたは、こうした働きかけを評価しますか。評価しませんか。
評価する | 75% |
評価しない | 14% |
9月6日に岸田総理が行った説明に対しても、国民から肯定的な評価が示されました。
トリチウム以外の放射性物質を取り除き海水で希釈した処理水を、中国政府は一方的に「汚染水」と表現して批判を強めていました。これまでのところ、中国側の公式発言に変化はありません。
ただ、上記のASEANと日中韓の首脳会議に先立って岸田総理が中国の李強首相と15分ほど立ち話をした際には、処理水問題で激しいやりとりにはならなかったということです。
この問題に詳しい外務省幹部は「国際社会の中で日本への反発が拡大していかない状況を見て、中国側も徐々に冷静な対応を模索しているようだ」と分析しています。日本の取るべき態度は、科学的データを開示しながら冷静な対応を促し続けることに尽きます。
さらに処理水を巡る対応の他にも、今回の調査で政府の姿勢を支持する傾向が示された項目がありました。旧統一教会の解散命令を巡る設問です。
☆旧統一教会を巡る問題で、政府は質問権の行使などによる調査をふまえ、教団に対する解散命令を裁判所に請求するか検討を進める方針です。あなたは解散命令の請求に賛成ですか。反対ですか。それともどちらともいえませんか。
賛成 | 68% |
反対 | 1% |
どちらともいえない | 24% |
反対はわずかに1%。この問題では一部に信教の自由を巡る議論もありますが、その点に重きを置く人も反対ではなく「どちらともいえない」に回っているようです。長年にわたって強引な勧誘や多額の寄付の強要などが問題視されてきただけに、政府が旧統一教会に対して厳しい姿勢で臨むことを期待する声は強いといえます。
以上見てきましたが、この世論調査の結果が公表された11日に、岸田総理は内閣改造と自民党役員人事を行うための調整に入りました。
党幹部と相次いで会談し、麻生副総裁、茂木幹事長の続投が早々と固まりました。つまり岸田政権の土台は大きく変わらないということですので、改造による閣僚の入れ替えがあっても党内の安定優先に変化はないでしょう。
つまり、岸田総理としては来年秋の自民党総裁選での再選を視野に入れて、いわゆる「総主流派体制づくり」を目指すということです。
岸田総理の足元の岸田派は党内第4派閥です。党内最大派閥の安倍派、第2派閥の麻生派、第3派閥の茂木派などの協力を得ながら、衆議院の解散・総選挙のタイミングを探ることにもなります。
連立を組む公明党の山口代表との間では、一旦宙に浮いた東京での選挙協力を復活させることを確認し、9月4日に合意文書に署名しています。
これまで支持率は一進一退だった岸田内閣が、内閣改造の機会を"ばね"にして安定度を増すのか。対する野党は次の衆議院選挙に向けて、若干なりとも足並みをそろえる方向に進むのか。
まずは10月のNHK世論調査での、岸田改造内閣に対する有権者の評価に注目したいと思います。
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島田敏男 |