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調査あれこれ 2023年06月09日 (金)

3年に及んだコロナ禍は、人々に何をもたらしたのか? ~「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第3回)」の結果から~#489

世論調査部(社会調査)中川和明

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新型コロナウイルスの法律上の扱いが5月8日から変更されました。
法律上の扱いが変わったことによって、国が法律に基づいた行動制限を求めることができなくなったほか、医療費の扱いについても見直しが行われました。
また、新型コロナの感染者数は、医療機関などが毎日すべての感染者数を報告する「全数把握」から、指定された医療機関が1週間分の感染者数をまとめて報告する「定点把握」に変更され、3年以上続いたコロナ対策は、大きな転換点を迎えたことになります。

こうしたことを受けて、社会のさまざまな分野で、感染拡大以前の日常に戻そうという動きが加速していますが、3年に及んだコロナ禍は、人々に何をもたらしたのでしょうか。
今回は、これについて、NHK放送文化研究所(以下、文研)が行った世論調査をもとに、少し考えてみたいと思います。

コロナの感染拡大によって、さまざまな社会経済活動が制約を受け、多くの人がこれまでとは違った生活を営まざるを得ず、大きな影響を受けました。

 文研が2022年11月から12月にかけて行った「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第3回)」で、感染拡大をきっかけにした生活の変化は、自分にとって、プラスの影響とマイナスの影響のどちらが大きかったと思うかを尋ねました。
『マイナスの影響が大きかった(どちらかといえば、を含む)』と答えた人が74%で、『プラスの影響が大きかった(どちらかといえば、を含む)』と答えた人の23%を大きく上回りました。これを前回(2021年)、前々回(2020年)の調査と比べてみると、『マイナスの影響』、『プラスの影響』ともに、大きな変化はありませんでした(図①)。

図① プラスとマイナスどちらの影響が大きかったか

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

2022年の調査結果を男女年層別にみますと、各年代とも『マイナスの影響』と答えた人が多くなりましたが、特に、男性の70歳以上と女性の60代で8割を超え、全体の回答値(74%)を上回りました。一方、『プラスの影響が大きかった』は、男性の30代から50代、女性の30代と40代で30%ほどとなって、全体(23%)よりも高くなりました。中でも、男性の30代は『プラスの影響』が大きかったと答えた人が37%で、4割近くの人がコロナ禍での生活の変化を肯定的にとらえていました(図②)。

図② プラスとマイナスどちらの影響が大きかったか
       (男女、男女年層別)

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

この結果をみて、コロナ禍をプラスだと思う人がいるんだ。その理由は何だろうと思われる方も多いと思います。
そこで、『プラスの影響が大きかった』と回答した人に最もあてはまる理由をひとつだけ選んでもらった結果をみてみます。
最も多いのは、「手洗いなどの衛生意識が向上したから」の42%で、次いで、「家族と過ごす時間が増えたから」が21%、「在宅勤務など柔軟な働き方ができるようになったから」が12%、「家でできる趣味など今までとは違う楽しみを見つけられたから」が8%などとなりました(図③)。

図③ 感染拡大による生活の変化『プラスの影響』の理由
(該当者:『プラスの影響が』大きいと答えた人=524人)

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

 回答の多かった「手洗いなどの衛生意識が向上したから」や「家族と過ごす時間が増えたから」など4つの回答について、年層別に詳しくみてみると、「手洗いなどの衛生意識が向上した」は、60歳以上で7割近くに達したのに対し、18歳から39歳では23%と若年層ほど低くなっていて、高齢層など年齢の高い人たちで多く感じられた理由であることがわかります。
一方、「家族と過ごす時間が増えた」は、40代・50代で26%と、全体(21%)を上回ったほか、「在宅勤務など柔軟な働き方ができるようになったから」と「家でできる趣味など今までとは違う楽しみを見つけられたから」は18~39歳でそれぞれ全体を上回っていて、若年層や中年層を中心に、働き方や時間の使い方の変化を肯定的にとらえている人たちが一定程度いることがわかります(図④)。

図④ 感染拡大による生活の変化『プラスの影響』の理由
(「手洗いなどの衛生意識が向上」「家で過ごす時間が増えた」
「柔軟な働き方」「今までと違う楽しみ」:年層別)
(該当者:『プラスの影響が』大きいと答えた人=524人)

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

 さらに新型コロナウイルスの感染拡大による人と人との関係への影響などを考えるため、次の調査結果も紹介したいと思います。
新型コロナの感染拡大の影響に関して、「人と実際に会うことの大切さがあらためてわかった」や「人とつながることに関してインターネットのありがたさがあらためてわかった」など4つの項目を挙げて、自分の考えがあてはまると思うかどうかを尋ねました。
『あてはまる(かなり+ある程度)』と答えた人が最も多かったのは、「人と実際に会うことの大切さがあらためてわかった」の76%で、次いで「人とつながることに関してインターネットのありがたさがあらためてわかった」が48%、「義理で会っていた人に会わなくなってよかった」が45%、「人と会うのがおっくうになった」が36%となりました(図⑤)。


図⑤ 感染拡大の影響に関して『あてはまる』もの

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

 『あてはまる』と答えた項目のうち、「人と実際に会うことの大切さがあらためてわかった」と「義理で会っていた人と会わなくなってよかった」、「人と会うのがおっくうになった」の3つについて、男女年層別にみると、「人と実際に会うことの大切さがあらためてわかった」は、女性の60代で全体を上回っていますが、おおむね、どの年代でも7割から8割ほどに達していて、年層ごとに大きな差はありませんでした。
 一方、「義理で会っていた人と会わなくなってよかった」は、男性の40代、50代、女性の50代以下の年代で、全体を上回って半数を超えていて、これまでの職場や近所、親戚、さらに、子どもを介した親同士のつきあいなどが減ったことで、どちらかといえば、義理で会っていた人たちと会うことがなくなり、かえって、よかったと答えた人が多くなったと考えることもできます。
他方、「人と会うのがおっくうになった」は、女性の30代から50代で全体より高くなっています。この要因について、明確に判断できる材料はありませんが、特に女性で高い傾向が出ていることから、例えば、女性では、コロナ禍で家にいることが多くなった影響で、外出するために化粧をしたり、服装を選んだりすることが面倒になったと感じている人がこうした回答をした可能性も考えられます(図⑥)。

図⑥ 感染拡大の影響に関して『あてはまる』もの
(「人と実際に会うことの大切さがわかった」「義理で会っていた人と会わなくなってよかった」
「人に会うのがおっくうになった」:男女年層別)

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

 新型コロナの感染拡大は、人と人との接触が制限され、多くの人が今までと違った生活を余儀なくされたことで、マイナスの影響が大きかったと感じている人が多くなりました。
ただ、そうした中にあっても、若年層や中年層の人たちを中心に、家族と過ごせる時間が増えたことや、在宅勤務など柔軟な働き方ができるようになったこと。さらに今までと違う楽しみを見つけられたことなど、コロナ禍を前向きにとらえる人たちがいることも、調査結果は示してくれています。

また、社会の分断が指摘されたコロナ禍ではありましたが、人と実際に会うことの大切さがあらためてわかったなど、多くの人が人と人のつながりを大切だと思い、同じ価値観を共有した点も、コロナ禍がもたらしものと考えることができると思います。
さらに、今までの生活を変えざるを得なくなったことで、義理で会っていた人と会わなくなってよかった、かえって面倒なことをしなくてよくなったと前向きにとらえる向きもみられました。

新型コロナの感染拡大の影響について、さまざまな受け止めがあると思いますが、3年に及んだコロナ禍とは何だったのか。
その答えが出るにはもう少し時間が必要なのかもしれませんが、これからも関心をもってみていきたいと思います。

「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第3回)」のその他の結果については、「コロナ禍3年 社会にもたらした影響-NHK」で公開しています。ぜひご覧になってみてください。
また、「放送研究と調査 2023年5月号」では、3年にわたるコロナ禍によって、人々の意識や暮らしがどう変わったかなどについて詳しく紹介しているほか、本ブログでも、「マスクの着用『個人の判断』になってから2か月 その後、どうなった?」などで取り上げていますので、ぜひご覧ください。