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調査あれこれ 2023年04月11日 (火)

統一地方選挙で見えてきたもの~自公政権の経年劣化か?~ 【研究員の視点】#472

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 3月21日に訪問先のインドからのウクライナ電撃訪問を果たし、ゼレンスキー大統領との対面会談を果たした岸田総理大臣。その1週間後の28日には令和5年度予算も成立し、胸を張って統一地方選挙の前半戦に臨んだはずでした。

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 しかし、41道府県議会議員選挙や9道府県知事選挙などの結果を見ると、目立ったのは自民党の底力よりも日本維新の会の勢いでした。報道各社の受け止めには「維新、全国政党化に弾み」「全国へ足がかり」といったものが目立ちました。

 確かに41道府県議選の結果集計を政党ごとの獲得議席で見ると、日本維新の会(大阪維新の会を含む)は前回4年前の2倍近くに増えました。これに対し自民党、公明党は前回と比べてほぼ横ばい、立憲民主党は増えましたが、共産党は減りました。

 ここから浮かび上がるものをどう見るかです。私は日本維新の会が近畿圏一円に勢力を拡大しているのは確かだが、全国政党への道のりはまだまだ険しいと見ています。大阪府知事、大阪市長、奈良県知事を押さえ、大阪府議会と大阪市議会で共に過半数を制しました。そして首都圏などでも議席を増やしていますが、全国を俯瞰して老舗の他党と比較すれば地域限定的です。

0411_2_W_edited.jpg 横山英幸 大阪市長   吉村洋文 大阪府知事

では、維新の会の勢いを見せつけた背景には何があるのでしょうか。他の国政野党が躍進できなかったのは確かですが、国政与党の自民・公明も地力の強さを感じさせるものがありませんでした。自民党と公明党が衆参両院で安定した勢力を維持するために連立を組んでから20年以上になります。その間に民主党政権の時期がありましたが、安倍長期政権を支えたのも自公の協力でした。

 こうして見てきた時、今回の選挙結果で私が最も注目したのは、大阪市議会で維新の会が初めて過半数を制したことです。これまで公明党は維新の会の市長が進める大阪市政の運営に協力する立場をとり、それによって衆議院選挙の際に大阪府と兵庫県の6つの小選挙区で維新の会との競合を避けて議席を確保してきました。

 地方選挙の結果を受けて、この関係が崩れると国政で何が起きるかです。自民党幹部の一人は「公明党が近畿で小選挙区議席の確保が難しくなると、他の地域で自民党に小選挙区議席を譲ってくれと迫ってくるかもしれない」と警戒感を口にします。

 公明党幹部に取材すると「国政の安定のために、我々が候補者を立てない多数の小選挙区で自民党の候補者を応援しているのだから、もう少しこちらに小選挙区議席を回してくれてもいいはずだ」といった本音が漏れてきます。

 一票の格差是正のため、去年の暮れに公職選挙法が改正され、衆議院の小選挙区の線引きを変更した10増10減の新しい区割りが次の総選挙から導入されます。これに備える中で、公明党は都市部での議席確保のために自民党との調整が整わなくても独自の候補を新たに擁立する動きを進めています。

 今回、日本維新の会が示した勢いの背景には、こうした自民党と公明党の連立与党内でのきしみ、言いかえれば「自公政権の経年劣化現象」が垣間見え始めたことがあるのかもしれません。

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 日本維新の会の馬場代表は、9日夜の記者会見で「公明党との関係はリセットする」と述べ、独力での党勢拡大を目指す考えを表明しました。今後の政治の動きの中で、台風の目になりそうなことは確かです。

 そこで岸田内閣です。統一地方選挙前半戦の終盤4月7日(金)から投開票日9日(日)にかけてNHK月例電話世論調査が行われました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか
  支持する   42%(対前月+1ポイント)
  支持しない  35%(対前月-5ポイント)

先月と比べて支持しないが5ポイント減ったのが目立ちますが、支持するは横ばいに近い変化で一気に上向く勢いはありません。41道府県議選の獲得議席で、与党の自民党と公明党がほぼ横ばいだったのと似ています。

 岸田総理は4月23日に行われる統一地方選挙後半戦と5つの衆参補欠選挙を乗り越えて5月19日~21日のG7広島サミットに臨み、6月の国会会期末の頃には先々を見据えた政局判断の時期を迎える腹積もりだという見方があります。

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 ただ、岸田総理の足元で一気に上向く勢いが出ていないという点には注意が必要になるでしょう。5つの衆参補欠選挙の結果にもよりますが、年明け以降、盛んに強調している「異次元の少子化対策」も財源の裏付けが不透明なため、国民の多くが喝采をもって迎え入れるという状況にはなっていません。

 特に若い世代には「先にいろいろな手当ての給付を受けても、結局、後で政府に回収されるだけではないのか」という素朴な疑問や懸念があるようです。岸田総理は令和6年度の予算編成に向けて6月に示す骨太の方針で「少子化対策の大枠を示す」と繰り返していますが、その大枠で国民が納得するのかどうかは不透明です。

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 岸田総理大臣の自民党総裁任期は来年9月までですので、先々のことを考える時間は十分にあります。とはいえ衆議院の10増10減の新しい区割りが国会で決まった後、「新しい民意の下で政治を行うべきだ」という声は政党関係者の間で次第に強まっています。

 岸田総理が自らを支える与党内の様子、そして野党各党の動きを見ながら、衆議院の解散・総選挙のタイミングを、いつ、どう判断するのか。これが次第に具体的な政治テーマになってきたようです。

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NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。