文研ブログ

2020年11月 6日

メディアの動き 2020年11月06日 (金)

#282 これからの"放送"はどこに向かうのか? ~民放ローカル局の現状と今後の可能性②~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


 前回のブログに引き続き、今回も10月に実施された日本マス・コミュニケーション学会秋季大会「ローカルメディアの課題~ビジネスと公共的事業の両立は可能か?~」の報告について紹介します。
下記の4項目の報告のうち、今回は③④です。
①厳しさ増す経営環境
②ローカル局改革議論の方向性
③ローカル局の公益的機能の今日的状況と課題
④地域報道・ジャーナリズムの持続可能性の担保

③ローカル局の公益的機能の今日的状況と課題
 下記は、コロナ禍における全国のローカル局の取り組みの一例です。通常の情報番組だけでなく、サブチャンネルやウェブサイトを活用し、ステイホーム下での人々の暮らしや教育を支援したり、地元の飲食店を応援したりする姿が印象的でした。

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 このように、地域住民を支え地域経済を盛り上げていく機能を、私は「地域のハブ・プロデューサー・デザイナー」と名付け、かねてから注目してきました。今後、ローカル局においては、放送法によって定められてきた「放送の公共性」とその帰結としての「地域の民主主義の基盤」「ライフライン」という機能に加え、3つ目の柱となっていくのではないかと考えています。

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 では、なぜローカル局はこうした機能に傾斜しているのでしょうか。それは、キー局からの配分金やナショナルスポンサーによる広告費の減少という“局の事情”と、課題の増大という“地域社会の事情”の2つが重なりあってきているからだと思います。ローカル局は今後一層、地上波放送の「リーチ」や「局ブランド」を生かしつつ、放送以外のコンテンツ関連事業やイベント等の非コンテンツ事業の担い手として、新たな地域ビジネスを創造していく方向に向かうでしょうし、地域の多様なアクターからもその姿が期待されていると思います。

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 こうした機能は、情報を伝え番組を届けるこれまでの機能とは異なる取り組みで、“広義”のメディア機能と私は捉えています。数年前から、地域のベンチャー支援や特産物の海外販売などに取り組む局が増えてきましたが、今年はこうした事業を専門とする会社を興す事例が増えている気がします。

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<小まとめ>
 ローカル局は今後、より地域に密着し、地域ビジネスを創造する“広義のメディア機能”を拡張していくと思われます。ただ、番組ファーストから地域ファーストへ、と言えなくもないこうした動きには懸念もあります。それは、地域の企業や自治体、つまりローカル局にとっての広告主でもある存在と接近しすぎることが、局が本来実現すべき報道・ジャーナリズム機能をゆがめてしまうことはないのかというものです。学会のワークショップのタイトルにも、そのことを想起する「ビジネスと公共的事業の両立は可能か?」というサブタイトルがつけられました。
 前回のブログで示した通り、広告主のネットシフトとコロナ禍で、今年度のローカル局の広告収入は前年比20%強の減少が見込まれています。そうした中、もともと広告収入につながりにくい報道・ジャーナリズム機能を弱体化させることを厭わない経営者も出てきかねないのではという不安もあります。

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④地域報道・ジャーナリズムの持続可能性の担保
 こうした事態が起きないようにするには、経営者の意識や局自身の気概が大事なことは言うまでもありません。先にも触れたように、報道・ジャーナリズム機能は、放送法で規定された放送局の「一丁目一番地」で、メディアの使命とも言えるものだからです。しかし、最近の取材では、報道部署に対して経営サイドや営業部署からの風当りが強まっているという声も聞くようになってきました。使命だから稼がなくてもいいという考え方が通用しなくなっている中、報道部署であっても“一円でもいいから稼ぐこと”を模索するマインドが求められているのではないかと思います。
 報告ではまず、テレビ宮崎(UMK)が行う、ネットへのニュース展開の事例を紹介しました。UMKではローカルニュースのオンエア後、速やかに、そしてできるだけ手間と人手をかけずに多様なネットプラットフォームに自動展開できるシステムを導入しています。検索でユーザーの目につきやすいよう、ニュースタイトルの頭を「宮崎」にする工夫をしたところ、PV数が大幅に上がったそうです。収益は、自社・他社プラットフォームで得られる広告収入を合わせて月額約30万円程度。広域局や大都市部に拠点を置くローカル局では100万円近くあるということも聞きますが、多くのローカル局ではこのくらいの額が相場なのではないかと思います。

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 こうした広告収入のほか、UMKのニュースのネット展開ではもう1つの収益があります。それが「FNNプライムオンライン」からの配分です。FNNプライムオンラインとは、フジテレビのニュースネットワークによるネットサービスで、2018年4月に開始し、現在は月間で8000万を超えるPV数を稼ぐニュースプラットフォームに成長しています。私も時々活用していますが、他の系列のネットニュースサービスに比べ、ローカルニュース、特に「FNNピックアップ」という深堀り記事の中に地域をテーマにした興味深い内容が多いと感じています。この10月からはBSフジで放送が開始されるという、 “ネットから放送へ”という新たな流れも生まれています。これらのFNNプライムオンラインの収益が、ローカル局各局に配分される仕組みになっているそうです。

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 もう1つの報道・ジャーナリズム機能で稼ぐ取り組みとして紹介したのが、テレビドキュメンタリー映画というジャンルです。このジャンルを切り拓いたのは、なんといっても東海テレビ(在名広域局)でしょう。下記は有料多チャンネルの1つ「日本映画専門チャンネル(日映)」にラインアップされている地上波ローカル局制作のドキュメンタリー及び映画ですが、30作のうち27作を東海テレビ制作作品が占めています。このチャンネルには日本映画もたくさんありますが、日映によると、特に50代以上の世代にはドキュメンタリー視聴が加入動機になっている人が多いそうです。

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 東海テレビに取材すると、ローカル局が映画製作に取り組むということは、少なくても費用的にはそこまでハードルは高くないことがわかりました。東海テレビに限らず、これまでローカル局が制作しているドキュメンタリー映画のほとんどすべてが先に地上波で番組として放送しているものであるため、それをリメイクする費用と、映画の広報・宣伝を担当する配給会社(東海テレビの場合は配給協力会社)に支払う費用があれば映画化は可能だといいます。加えて豊富な映像アーカイブも活用できることも大きな強みだそうです。
 東海テレビがこれまで制作した映画のうち、最もヒットした「人生フルーツ」は3億を超える興行収入をあげています。ただドキュメンタリー映画の世界は、1万人が来場すれば大ヒットといわれる市場のため、その来場者数を超えてコンスタントに稼いでいくことができるほど甘くはないそうです。東海テレビの取材で印象的だったのは、ビジネスありきでこの事業を行っているわけではないけれど、制作費くらいはきちんと稼いで局内でドキュメンタリー制作の持続可能なモデルを構築していくことが大事だ、という言葉でした。

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  また、このジャンルで今年大きな話題を集めているのが、チューリップテレビ(富山)が制作した「はりぼて」です。10月初旬現在で、ドキュメンタリー映画の“1万人”の壁を超える大ヒットを記録しつつあります。この映画については、先日、地元の富山県で映画が公開されるタイミングで現地取材をしてきたので、次回のブログでその様子も含めて触れたいと思います。

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<小まとめ>
 報道・ジャーナリズムで稼ぐ事例として、ネット展開とドキュメンタリー映画化という2つを紹介しました。取り組む局にそれぞれお話を伺いましたが、PV数稼ぎに陥らない、商業主義に走らない、ということを意識しながら慎重に模索をしている姿勢が印象的でした。この分野はテレビの広告収入に比べて収益はまだまだ小さく、学会のワークショップでは、先に触れたキー局の役割のほか、地方紙と連携してローカルコンテンツの課金化を模索したらどうか、ケーブルテレビと連携したビジネスに可能性はないのか、などのアイデアが出されました。引き続き取材を深めていきたいと思っています。

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 最後に私からは、下記の問題提起を行いました。日本のジャーナリズムや地域メディア、放送の将来像に関する議論を取材していていつも気になるのは、これらの議論に国民・住民視点での検討、もしくは参加の場がないということです。少しでもそうした機会を増やしていけるよう、これからもブログなどでこのテーマについて発信し続けていきたいと思います。

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