文研ブログ

2020年11月20日

メディアの動き 2020年11月20日 (金)

#285 公共放送に家宅捜索が入った! ~オーストラリアの気になる事件~

メディア研究部(海外メディア) 佐々木英基


公共放送に警察が踏み込んだ

 2019年6月、オーストラリアで気になる事件が起きました。公共放送ABCが家宅捜索を受けたのです。

 なぜ? 理由は、ABCが軍の“機密文書”を基におこなった調査報道にあります。

 リポートには、“アフガニスタンに派遣されたオーストラリア軍兵士が、2009~13年にかけて非武装の民間人を殺害した”という衝撃的な内容が含まれていました。
 “機密文書”によって初めて明らかにされたものでした。

 この報道には「機密情報を公開した疑い」があり、「機密の不正開示」を罰する法律に違反するというのが、家宅捜索をおこなった連邦警察の主張です。

 捜索令状には、報道に関わった3人の名前が記されていました。
 捜査員は、ABCのコンピューターシステムにアクセスし、一部のデータを持ち帰りました。

 日本人である私からみても、ABCが報じた内容は、主権者であるオーストラリアの人々の「知る権利」に応えるものであり、家宅捜索は重大な問題をはらんでいるのではないかと思えました。

 「なぜ“民主主義国家”オーストラリアでこんなことが起きたのか?」

 「家宅捜索のあと、いったいどうなったのか?」

 事件の概要や問題点を『放送研究と調査』の10月号に「"知る権利"と"国家安全保障"の相克~豪公共放送への家宅捜索から浮かび上がった論点~」としてまとめました。

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ABC(オーストラリア放送協会)


“知る権利”は“風前の灯”!? 日本は…


 今回の調査では、オーストラリアの有識者にも話を伺いました。

 ある法学者は「9.11(2001年の同時多発テロ)が転機になった」と証言しました。
 彼は、「9.11以降、“国家安全保障”の名のもと、多くの立法がなされ、“報道の自由”は後退し続けている」と指摘しています。

 加えて、新型コロナウイルス感染対策の一環として政府が国民の行動を制限するようになったことにも触れ、「政府の強権主義が拡大し、“知る権利”の後退につながる恐れがある」とし、「これは、オーストラリアだけで起きている問題ではない」との懸念を示しました。

 彼の懸念は、はたして杞憂だと言えるでしょうか?

 また、軍事史やインテリジェンスに詳しい日本の学者からも、興味深い見解を伺いました。
 「オーストラリア政府が文書を“非公開”とした背景には、“米国の存在”があるのでは」と言うのです。

 オーストラリアと米国は同盟国で、軍事情報を共有しています。
 「軍人による民間人殺害を記したこの文書は、非公開にすべき」という決定に際し、米国の意向が働いたのではないか、というのが、彼の見立てです。

 つまり、オーストラリア軍の情報にもかかわらず、“公開か非公開か”を決める事実上の決定権は米国が持っているというのが実態ではないか、という見解です。

 事態はいまも動いています。

 そしてついに、11月19日、オーストラリア軍の制服組トップが会見を開きました。
アフガニスタンに派遣されていた兵士が、民間人など合わせて39人の殺害に関わっていたことを明らかにし、国民に謝罪したのです。

 “知る権利”に対する内外のジャーナリストたちのこだわりが、今回は“機密の壁”に風穴を開けたようです。