#138 ひ孫たちの著作権?
メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇
ある日、テレビ局の者だと名乗る男から電話がかかってきた。
「あなたのひいおじい様の番組を再放送したいので許可をいただきたい。怪しい者ではありません」
いやいや怪しい! なんで俺の連絡先知ってるの? テレビ局を名乗る男は、なんとかという出版社やら、なんとかという骨董屋に聞き回った結果、教えてもらったという。怖えーーーし。怪しすぎだろ!!
怪しい男によると、ひいじいちゃんは亡くなる直前の昭和43年、インタビューを受け、ひいじいちゃんの描いた絵を何枚か紹介する番組に出演していたという。
昭和43年は俺の生まれるずっと前。だからひいじいちゃんとの思い出は何もない。ひいじいちゃんがどんな人で、何をしてたか興味もなかったし、親父やおふくろはもとより、親戚のおじさんたちから話を聞いたこともない。あったけど忘れているだけかもしれないが。ただ、100歳近くまで長生きしたことは知っている。
怪しい男の電話をいったん保留にし、急いで検索。……おお、けっこういろいろ出てる。
明治初期に生まれ、明治・大正期に活躍したとか、俺でさえ知ってる有名芸術家とも仲が良かったとか。男の言っていた番組が放送されたのもどうやら本当だ。え!? 俺って「画伯の子孫」!? ……でも、昭和以降はほとんど描いてないらしく、正直、忘れられた人扱いになってる。飽きっぽいのか、俺みたく。
ともかく、男との通話再開。「再放送、全然オッケーです。俺も観てみたいし」
男「ありがとうございます! 探した甲斐がありました」
俺「しかし、わざわざ連絡していただかなくともよかったのに。俺、ひいじいちゃん全然知らないし」
男「いえいえ、そうはいきません。ひいおじい様がお亡くなりになってから50年間は、著作権を継承しているあなた様の許諾が必要です。法律ですから」
俺「死んだあと50年も許可必要なんすか!? 明治時代の絵とかも?」
男「そうなんです。いつ描いたかじゃなく、いつお亡くなりになったか、です。昭和43年にお亡くなりですので、今の時点で死後49年。今年の大晦日まで、あなた様は権利者です」
俺「へえ~。じゃ、俺的にはギリギリセーフっていうか、来年になったらもう関係ないんですね」
男「あ、一応そうですが、このたび法律が変わって死後70年まで伸びそうなんですよ。今年中に改正法が施行されれば、さらに20年間、あなた様は権利者です」
まじ!? あと20年も『権利者』! なんか急に肩書きできちゃって嬉しいような、でも、こういう連絡がまた来るのかとビクビクするような……とか考えてたら、
男「では、使用料などをお振込みいたしますので、銀行の口座番号を教えてください」
ちょっと待て! 口座番号って簡単に教えちゃっていいんだっけ? やっぱ、この男……怪しくね!?
TPP関連法成立で著作権保護期間延長へ。放送番組の再利用に大きな影響をもたらします。
詳細は『放送研究と調査』8月号掲載の「“著作権70年時代”と放送アーカイブ活用(前編)~深刻化する「権利者不明問題」~」にて! ぜひご一読ください。