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おススメの1本 2018年07月20日 (金)

#137 放送をやめたBBC Threeの2年

メディア研究部(海外メディア研究) 田中孝宜


公共放送から公共メディアへ」。
2016年2月、イギリスの公共放送BBCは、決断をしました。若者向けチャンネルBBC Threeのテレビ放送をやめて、インターネットやソーシャルメディアだけの提供にしたのです。BBCがテレビチャンネルを閉じるのは初めてで、30万人にのぼる反対署名が集まる中での決断でした。

2年たっての状況を見てみようと、ロンドンに行ってきました。
写真は、ロンドンのウッドレイン駅前にあるBBCのテレビジョンセンターです。ここにBBC Threeのオフィスが入っています。

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放送をやめた一番の理由は予算削減です。
ネットのみでの提供にしたことで、番組編成はなくなり、制作する番組数のノルマもなくなりました。年間予算は、ネット化する前年の8,200万ポンドから、3,000万ポンド(約45億円)に削減されました。そのうち8割は従来と同様の長尺番組の制作に、算の残りの2割は、SNS向けに作られる短いコンテンツに充てられることになりました。

では、BBC Threeはこの2年間、どんな番組を制作してきたのでしょうか。

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ホームページには番組ジャンルの一覧が記されています。コメディ、ドキュメンタリーなど、通常のジャンルのほか、セックスと男女関係、犯罪、ドラッグ、LGBTQなど、テレビとは違ったインパクトがある分け方がされています。

この2年間でいくつも話題になった番組があります。
例えば、ドラマ「Thirteen」。13歳の時に誘拐され、誘拐犯の自宅に閉じ込められた女性が、脱出後、人生を立て直しながら犯人を捜す物語ですが、BBC Threeでは、放送に合わせて、実際に行方不明になっている少女らを紹介し、「娘を探し出そう」キャンペーンを行い、話題を呼びました。

また、SNS向けコンテンツとして開発された「Things Not to Say(言ってはいけないこと)」は、当事者に言われて嫌だったことを本音で語ってもらう番組です。「HIVの人に言ってはいけないこと」、「自閉症の人に言ってはいけないこと」など、議論を呼ぶテーマが多く、視聴後にSNS上で様々なやり取りがされます。BBC Threeでは視聴率では計れないインパクトがあると見ています。

視聴リーチはどうなのでしょうか。
かつて約20%あったリーチは、テレビ放送をやめた直後に1.8%にまで落ち込みました。現在はほぼ9%で着実に伸びています。BBCでは、BBC Threeのネット化は「成功だった」と評価しています。

BBC Threeのネット化は、当初は予算削減の目的が強かったのですが、2年たって、別の目的へと比重が移ってきているようです。
BBC3の責任者ダミアン・カバナ―氏に話を聞きました。
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私たちはパスファインダー(先駆者)です。これまでと違った方法を試行しています。BBC Threeは若い視聴者に合わせて、番組の幅や境界を広げているのです。BBCブランドを守りながら番組づくりの現状を変えるため挑戦しているのです。

今の若い視聴者は、将来の中心的な視聴者です。
ネット化から3年目。BBC Threeの予算は1000万ポンド(約15億円)増額されました。次世代の公共メディアBBCの姿を切り開く先遣隊として、さらに挑戦的な試行錯誤を繰り返していくようです。

詳細は、『放送研究と調査』7月号「公共メディアBBCのマルチプラットフォーム戦略をごらんください。