G7サミット終えて内閣支持率足踏み ~財源問題先送りはどう影響?~【研究員の視点】#490
NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男
岸田総理大臣はG7広島サミットの議長を務め、ウクライナ支援で足並みをそろえつつ、核兵器のない世界実現の機運を盛り上げようというメッセージを発信。ゼレンスキー大統領が急きょ広島に駆けつけたことも大きなインパクトをもたらしました。外務省幹部は「このところ影が薄くなっていたG7サミットだが、今回は世界に向けた強い発信に成功した」と胸を張りました。
ただ岸田総理自身は「それなりの成果はあった」とやや控えめの評価に終始していました。被爆者団体の人たちから「核兵器の廃絶に向けて一歩前進したとはとても言えない」と厳しい評価が発せられたこともあるでしょう。そしてロシアのプーチン大統領がG7に反発するかのように、ウクライナと国境を接するベラルーシに核兵器の配備を打ち出したのも暗い現実です。
サミット閉幕直後には支持率が急上昇した新聞社の世論調査もありました。しかしその直後に総理秘書官を務めていた長男が公邸の公的スペースで親族による忘年会の記念写真を撮っていた問題が発覚し、更迭されました。「はしゃぎ過ぎの岸田一族」とも評され、その後の各種世論調査には支持率低下のものが目立ちました。
サミットからちょうど3週間後の6月9日(金)から11日(日)にかけて行われた6月のNHK月例電話世論調査も、岸田総理にとって少々厳しい結果になりました。
☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。
支持する | 43%(-3ポイント) |
支持しない | 37%(+6ポイント) |
2月から5月にかけて4か月連続で上向いていたNHK世論調査の内閣支持率が、ここで足踏み状態になったように見えます。この数字を年代別に見ると、40歳以上では「支持する>支持しない」なのですが、18歳から39歳の若い世代では「支持する<支持しない」となっているのが目立ちます。
もろもろの出来事に対する反応が絡み合って出てくるのが内閣支持率ですが、今回は6月1日に政府の「こども未来戦略会議」が少子化対策の方針を発表した動きも一つの要素になっていそうです。
こども未来戦略会議(6月1日)
☆少子化対策について、政府は今後3年をかけて年間3兆円台半ばの予算を確保し、児童手当の拡充策などに集中的に取り組む方針です。あなたは、この少子化対策に期待していますか。期待していませんか。
期待している | 39% |
期待していない | 56% |
こちらはすべての年代で「期待している<期待していない」となっています。政府が手当てをばらまくだけでは少子化に歯止めはかからないと冷静に受け止めている人が結構多いことがうかがえます。
☆政府は、少子化対策の財源を社会保障費の歳出改革や新たな支援金制度で確保するとしていますが、具体的な内容は今後検討を進めるとしています。あなたは財源確保をめぐる政府の対応についてどう考えますか。
すみやかに全体像を示すべきだ | 44% |
時間をかけて検討すべきだ | 48% |
これはちょっと分かりにくい数字です。与党支持者では「すみやかに<時間をかけて」ですが、野党支持者では「すみやかに>時間をかけて」となっていて逆の傾向が出ています。無党派層は相半ばです。
「少子化対策の財源確保の方法まですみやかに示すべきだ」と考える人たちには、国民に新たな負担を求めるのかどうかを誠実に示してくれないと、いくら良い話でも賛否を判断できないという気持ちがあるのでしょう。
この新たな国民負担のありなしに向けられる厳しいまなざしは、終盤国会で大詰めの論戦が続いている防衛費大幅増額の財源問題とつながっているように思います。
終盤国会の与野党対決法案として参議院財政金融委員会で審議が続く防衛力強化財源確保法案は、国の無駄な歳出を減らして防衛費増額の財源にするというものですが、結論が先送りされている増税の中身と一体のものです。
この防衛費増額のための増税について、財務省や自民党税制調査会は東日本大震災の復興財源に充てている復興特別所得税(基準所得税額に2・1%相当を上乗せ)の仕組みを部分的に転用する案を示し、結論が先送りされているという問題があります。
12日に福島市で開かれた参議院財政金融委員会の地方公聴会では、「復興の財源を国防の財源に充てるというのは筋違いだ」といった反発が相次ぎました。
参院財政金融委 地方公聴会(福島市 6月12日)
このところ足並みがそろわない野党各党ですが、この問題では「先に防衛費を対GDP2%にするという目標ありきで、後から国民負担の中身がついてくるというのでは不誠実だ」「取りやすい方法で取るというのは姑息(こそく)だ」という批判は共通です。
通常国会の会期末21日が近づくにつれ、与党側からは衆議院の解散・総選挙もありうるという発信が相次いでいます。
ただ、少子化対策でも防衛費増額でも、必要な財源のよりどころとなる国民負担の中身を示すことなく、『つけの先送り』が次々と国民の目に見えてくると岸田政権の先行きに対する不信感は増してくるでしょう。
こういう状況を背負ってでも、岸田総理が会期末の衆議院解散・7月総選挙を選択するのかどうか。
自民党内には、財源問題を先送りし続けて時間を作れば選挙に影響はないという楽観論もあります。一方で、サミット後に表面化した東京都での自民党と公明党の与党内選挙協力を巡る行き違いの影響を懸念する声もあります。
岸田総理の自民党総裁としての任期は来年9月まで。政権の先行きをどう考え、どういう判断を示すか。注目の会期末1週間になりそうです。
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島田敏男 |