文研ブログ

2019年10月16日

おススメの1本 2019年10月16日 (水)

#213 平成時代の「放送研究」あれこれ ~放送文化研究所・30年間の論文から~ ⑥「特集 歴史的選挙と有権者 ~'93年7月衆院選~」(平成5年・1993年)

メディア研究部(メディア動向)柳澤伊佐男


平成の30年間、NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた調査研究について振り返るシリーズ、6回目は、平成5年(1993年)の『放送研究と調査』10月号に掲載された「特集 歴史的選挙と有権者 ~‘93年7月衆院選~」を取り上げます。

このリポートは、同年7月18日に行われた第40回衆議院選挙をテーマに選んでいます。この時の選挙は、日本新党、新生党といった「新党」が台頭する一方、自民党が現状維持ながら過半数割れ、社会党が大幅減という結果になりました。このため、与党第1党が自民党、野党第1党は社会党という“55年体制”が崩壊、非自民の連立政権が誕生したことから、論者はこの選挙を「歴史的な選挙」と位置づけています。

特集は2部構成です。第1部は、「非自民政権誕生の構造」と題し、選挙に関する世論調査から有権者の意識や投票行動を分析し、“歴史的な選挙”となった背景に迫っています。また、第2部の「選挙情勢報道はどう行われたのか」では、テレビ各社の選挙報道のうち、全国的な当選者数の予測と、注目選挙区の選挙戦終盤の情勢報道に焦点を当てて考察しています。この中で論者は、「(選挙予測の)報道が有権者の投票行動にまったく影響を及ぼさない、と考えるのは現実的ではない」としつつも、「選挙に関して世論の動向を的確に把握し、報道・評論することは、有権者が選挙に関する関心を高め、理解を深めるうえで不可欠であり、それは報道機関の重要な使命である」などとする日本新聞協会の見解を引用しながら、選挙情勢などを伝える報道の必要性・重要性を主張しています。

テレビの選挙報道をめぐっては、しばしば公平性や中立性に欠けると批判の対象になります。この公平性に関して、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会は、2016年、「テレビ放送の選挙に関する報道と評論に求められているのは(各候補者を同一時間で紹介するといった)『量的公平』ではなく、政策の内容や問題点など有権者の選択に必要な情報を伝えるために、取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をするという『質的公平』だ」との見解を示しています。
各局とも、選挙の公正さを損なわないよう、配慮と努力を重ねながら、選挙報道を行っていますが、選挙そのものに対する有権者の関心や投票率は、年々低下しています。2019年7月の参議院選挙では、選挙区の投票率が48.80%で、国政選挙としては戦後2番目の低さになりました。選挙運動期間中のテレビ各局の放送時間(NHKと在京民放5局の合計)は36時間あまりで、前回(2016年)と比べて5時間以上減ったという調査結果(「エム・データ」社調べ)もあります。

1993年当時の選挙報道について、論者は、以下のような問いを投げかけています。「これまでテレビは、一連の選挙報道の中で、開票速報に特段の力を入れてきた。速報性、広範性というメディアの特性が生かせる格好の機会だから当然であろう。だが、それだけでいいのか。有権者が投票行動を決めるのに役立つ情報をテレビは十分に提供しているのだろうか」。
それから26年たったいま、テレビ各局は、論者の問いかけにどれだけこたえられているのでしょうか。

※今回紹介した論文をお読みになりたい場合は、国会図書館やお住まいの都道府県立の図書館のサイト等で検索・確認していただくか、NHK放送博物館(東京都港区愛宕2-1-1)で、閲覧いただけます。