糾弾される岸田自民党 ~パーティー券裏金問題で政治情勢流動化~【研究員の視点】#516
NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男
久しぶりに「糾弾」という言葉を思い出しました。「罪をおかした人や不正をした人に対して、その行いを問いただし、強くせめること」というのが一般的な意味です。世の中にはさまざまな問題が存在していますが、圧倒的多数の人がけしからんと感じる出来事でないと使わない言葉でしょう。
自民党の最大派閥安倍派「清和政策研究会」が政治資金集めのために1枚2万円のパーティー券を大量に販売。今の政治資金規正法では、その正確な収支を報告書に記載して総務省に提出していれば不正にはなりません。つまり、派閥が政治資金を集める手段として一定のルールのもとに合法化されてきています。
しかし安倍派は所属議員やその事務所が一定のノルマを超えて販売したパーティー券の収入を報告書に記載せず、幹部を中心とする議員側に「キックバック」して裏金収入としてきたのです。つまり派閥のパーティーというイベントを集団的な裏金還流装置に仕立て上げていたということです。
政党や政治家個人、そして派閥という政治団体が集め、政治資金収支報告書で公開している収入については所得税がかかりません。政治資金は「議会制民主主義を育てる財源」として課税されないという特典を与えられているのです。
さらに各政党に対しては、総額で年間300億円あまりの政党助成金が、それぞれの所属議員数に応じて国から配分されています。共産党だけは、この制度に反対して受け取っていません。
この政党助成金収入にも税金はかかりません。政党助成金を受け取った政党は所属議員にも配分していますので、納税者である国民から見れば「そういう税金からの公費支給も受けていながら裏金作りを行うのは言語道断」ということになります。
この安倍派を中心とするパーティー券裏金問題に関する報道が続く中、12月8日(金)から10日(日)にかけてNHKの月例電話世論調査が行われました。岸田内閣の支持率は発足以降最低を更新し、不支持率は最高を更新しました。
☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。
支持する | 23%(対前月-6ポイント) |
支持しない | 58%(対前月+6ポイント) |
この内閣支持率23%というのは、自民党が2012年12月に政権に復帰し、第2次安倍内閣が発足した後の11年間で最も低い数字です。今と同じ自公政権では、2009年に政権交代に追い込まれた麻生内閣の末期以来の低い数字です。
岸田内閣を支持すると答えた人を与党支持者、野党支持者、無党派の別に詳しく見ると、こうなります。
与党支持者 | 51% (対前月-2ポイント) |
野党支持者 | 10% (対前月-2ポイント) |
無党派 | 9% (対前月-3ポイント) |
いずれでも支持すると答えた人の割合は前月より低下していて、パーティー券裏金問題が岸田内閣の最近の不人気に拍車をかけていることは疑いようもありません。
今回の問題は安倍派にとどまらず、二階派、さらには岸田派の政治団体でも同様の収入と支出の不記載や不備が指摘されています。(注:12月12日時点)大小様々の病巣が自民党内のあちこちにありそうな気配です。
☆今、あなたは何党を支持していますか。支持している政党名を一つだけおっしゃってください。
自民党 | 29.5% |
立憲民主党 | 7.4% |
日本維新の会 | 4.0% |
公明党 | 3.2% |
共産党 | 2.6% |
国民民主党 | 2.1% |
れいわ新選組 | 1.7% |
社民党 | 0.3% |
みんなでつくる党 | 0.1% |
参政党 | 0.4% |
支持する政党なし | 43.3% |
自民党は前の月より8.5ポイント下がっていて、30%を割ったのは2012年12月に政権に復帰した後では初めてです。岸田内閣の支持率と同様に、歴史の1ページに残る凋落(ちょうらく)ぶりです。
それもこれも、東京地検特捜部が政治資金規正法違反で詳細に事実関係を調べ上げているのに、指摘されている自民党関係者のだれ一人として進んで自ら非を認めようとしていない点に問題があります。「捜査が続いているので話せない」という逃げ口上を繰り返すだけでは、特捜部に立件されなければ問題はないと言っているに等しい反省のなさが浮かび上がってくるだけです。
☆あなたは政治資金をめぐるルールを厳しくすべきだと思いますか。今のままでよいと思いますか。
厳しくすべきだ | 81% |
今のままでよい | 9% |
厳しくすべきだという回答を詳しく見ると、与党支持者で79%、野党支持者で90%、無党派で80%となっていて、立場による大きな違いは表れていません。大多数の国民の目に、「けしからん問題」「糾弾すべき問題」と映っているということです。
政治資金規正法が今の形に大きく改正されたのは、30年以上前のリクルート事件をきっかけにして盛り上がった政治改革論議の帰結でした。それまでは自民党一党支配と呼ばれる政治構造のもとで企業献金を大量に集め、それが国民の反発を買うに至ったからです。
その時の改正で政治家個人は自分の政治団体で企業からの献金を受け取ることができなくなり、パーティー券の販売収入を政治資金に充てる方法が広がったという経緯があります。派閥のパーティー券販売はそれを大規模に行うもので、派閥から所属議員に渡される活動資金の原資調達方法として温存されてきました。
今回、自民党内でも特に安倍派が矢面に立たされているのには理由があります。安倍長期政権の下で、パーティー券をまとめて購入する企業などの側に、官公庁などへの影響力の強い安倍派と関係を太くしておくのが得策だという判断があったと証言する関係者は少なくありません。
それによって所属議員ごとのノルマを超えるパーティー券が大量に売れるようになり、キックバックされた資金はいわば販売成績に応じた御褒美として裏金化されたという構造です。
岸田総理は臨時国会が閉幕した後、年末恒例の来年度予算の編成作業前に安倍派の閣僚を交代させる方針です。しかし、そんなことで問題解決の道が開かれるわけではありません。
野党各党が政治資金規正法の改正案を提出、あるいは準備して、新たな政治改革を進めるべきだと訴えています。国民の目に触れることのない金の流れを排除すべきは当然です。
岸田自民党は、強い危機感をもって新たな政治改革に乗り出す必要があります。それがいつまでたっても前に進まないならば、政権そのものが国民にそっぽを向かれ空中分解しかねないというのが客観情勢です。崖っぷちに立っていることを強く自覚すべきです。
島田敏男 |