文研ブログ

放送ヒストリー 2023年11月21日 (火)

『いないいないばあっ!』のはじまり② ~どきどきあそび・擬音のうた~#511

計画管理部 久保なおみ

 11月20日は「世界子どもの日」です。子どもたちの相互理解と福祉の向上を目的として、国連によって制定された日で、世界各地で子どもの権利や未来に関するイベントが開かれています。
 NHKでも11月13日から25日までの間を「スゴEフェス」と題して、さまざまな番組で「こどもたちのハートをうごかそう!」をテーマに発信しています。またNHKテレビ放送開始70年となった今年、放送博物館では、2024年1月28日までNHKキャラクター展を開催しています。
 その「スゴEフェス」とNHKキャラクター展の両方に参加している番組のひとつが、世界初の赤ちゃん番組である『いないいないばあっ!』です。前回のブログでは、具体的な制作のベースとなった研究をご紹介しました。番組開発プロジェクトでは、研究の成果を反映して、複数の短いコーナーから成る15分の試作番組を2本作りましたので、今回のブログでは1本目の試作の中心的なコーナーだった「どきどきあそび」と「擬音のうた」について、また次回のブログでは、2本目の試作で特に印象的だった「いないいないばあ」コーナーについて、みていきます。

dokidokiasobi1.png「どきどきあそび」 構成:きむらゆういち アニメーション:きらけいぞう


【0~2歳児の発達の特徴をふまえて~「どきどきあそび」~】
 『いないいないばあっ!』開発プロジェクトでは、「2歳児テレビ番組研究会」の成果をふまえ、そのメンバーで当時はお茶の水女子大学の発達心理学教授だった内田伸子先生や、国立小児病院の谷村雅子先生、さらに保育園や民間の託児施設などに、乳幼児の特徴を取材しました。そして、2分以内の複数のコーナーで構成することや、「感情・心・感性を揺り動かす」ことをねらいとするなど、方針を固めていきました。
 (詳しくは『いないいないばあっ!』のはじまり①をご覧ください)

 それらの取材結果やねらいをふまえて制作したコーナーのひとつが、「どきどきあそび」というアニメーションです。赤ちゃんの遊び絵本などを手がける絵本作家の、きむらゆういちさんの提案でした。「どきどきあそび」は、「追いかける・追いかけられる・つかまえる・つかまえられる・見つける・見つけられる」という"どきどき"を基本コンセプトにしていました。

〇0~2歳児の発達の特徴をふまえて「どきどきあそび」が工夫した点
・対象が多いと注視できないので、マンツーマンで直接話しかけた方がいい 
  → キャラクターが、テレビの前の子どもたちに呼びかけながらストーリーを展開していく
・繰り返し、反復することによって覚えていく
  → 「追いかける」「見つける」など、毎回ひとつの動作を繰り返して、展開を予想させる
・単色のやわらかな色づかい、単純な形の方が認識しやすい
  → キャラクターの造形を、〇△□をベースとしたものにする
・聞く力が弱く、BGMがあると、ことばをうまく聞き取れない
  → ことばと音楽とは重ねず、それぞれ単独で聞かせる
・カットの切り替えやズームは理解できず、別なものと認識してしまう
  → キャラクターの目線で、ワンカットで進行する

 そうして、見ている子どもたちにも、キャラクターと一緒に追いかけたり、追いかけられたりする感覚を体験してもらうことを目指しました。


【実現できるアニメーターを探して】
 当時はまだCGがあまり発達していなかったので、セルアニメでこのコンセプトを実現するのは、簡単なことではありませんでした。そこで、NHK内のアニメスタジオで撮影などを担当していた方に「番組が目指す世界観を実現してくれそうなアニメーターはいませんか」と尋ねたところ、きらけいぞうさんを紹介されました。きらさんは1968年からアニメーターとして活躍し、今もNHKや民放、CMの数々のアニメーションやキャラクターデザインを行っている方です。
 絵本作家のきむらさんと一緒にきらさんと初めて打ち合わせをしたとき、二人とも、とても驚いていました。なんと二人は、同じ大学・同じサークルの、先輩・後輩の間柄だったのです。そんなこともあって、きらさんはこの難題をおもしろがり、快く引き受けてくれることになりました。

 2分間、ワンカットのアニメーションをつくる。1秒間に何十枚もの動画を必要とするアニメーションでは、通常、動作のポイントとなる原画と、間をつなぐ動画の部分があり、それぞれ別の人が担当しますが、カットの切り替えもなく、キャラクターの目線で進行していく「どきどきあそび」では、ひとりの原画担当者が、すべて一筆書きのようにつなげていかなければなりませんでした。キャラクターの目線が変わっていく流れでも、背景+人物A+人物B+人物C...のように何層も重なる複雑な作画でも、何があってもワンカット。手書きの時代に、何百枚もの動画をつなげていくのは、とても大変な作業でした。そうしてできた試作「おどろかす」は、キャラクターがテレビの前の子どもたちに「しー」と話しかけながら、お友達の背後にそっと近づいていき、次々とおどろかしていく...という構成。最後は、おどろかそうと思った相手に逆におどろかされてしまう...という内容で、大人の私たちも"どきどき"してしまう、とてもすばらしい作品でした。

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【擬音のうた】
 『いないいないばあっ!』の歌を作る上でポイントとしたのは、"擬音をテーマにする"ことでした。1歳児の発達の特徴として、擬音が大好きな点が挙げられていたからです。
(詳しくは『いないいないばあっ!』のはじまり①をご覧ください)
 最初に作ったのは「それがママから聞いたこと」という歌でした(のちに「ママから聞いたこと」と改題)。作詞は三浦徳子さん。赤ちゃんがおなかの中で聞いていた、お母さんの鼓動をテーマにした歌でした。
 "擬音をテーマにする"というお題はなかなか難しく、何人かの作詞家から断られましたが、三浦徳子さんはおもしろがって、快く引き受けてくれました。

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【子どもたちの反応】
 1996年1月15日と16日に試作を放送したあと、番組開発プロジェクトでは、ふだんはテレビを見せていない園や、保育の中にテレビ番組を取り入れて放送教育を進めている園など、さまざまな園を訪れて、子どもたちが番組を見る様子を観察して、その効果を検証しました。
 当時、1月から2月にかけて保育園でメモした記録が残っています。

231121monitor.jpg

代表的な園の反応を、比較のために他のコーナーも入れて、抜き出してみました。

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 「どきどきあそび」では、0~2歳のどの年齢でも、どの園でも、子どもたちがじーっと注視して、次もおどろかすだろうと予測してにやっとしたり、登場人物と一緒に笑ったりする様子が多数みられました。まさに、ねらいどおりの反応でした。
 「擬音のうた」でも、体を揺すったり、ジャンプしたりしながら、子どもたちは全身で喜びを表現していました。

 三浦徳子さんは、その後も「チーしちゃおう」「ワンワンパラダイス」「カエデの木のうた」など、多くの『いないいないばあっ!』の代表曲を作詞しています。また、別の子ども向け番組『にほんごであそぼ』では、古語を取り入れた「TOBALI」や、「シェイクスピアのうた」など、奥深い詞で、子ども向けの歌の新境地を開拓しました(「亜伊林」名義で作詞)。
 今月6日に亡くなった三浦徳子さんのご冥福をお祈りするとともに、子どもたちのために作詞した歌が、これからも歌い継がれていくことを願っています。


◎次回は2本目の試作で特に印象的だった「いないいないばあ」というコーナーについて、ご紹介します。
 こちらもぜひご覧ください。
『いないいないばあっ!』のはじまり①  ~きっかけとなったテレビ研究~
『いないいないばあっ!』のはじまり③  ~いないいないばあ~
 『いないいないばあっ!』が生まれるまで ~ワンワン誕生秘話~ | NHK文研

【久保なおみ】
子ども番組が作りたくてNHKに入局。『いないいないばあっ!』『にほんごであそぼ』などを企画・制作。
2022年夏から現所属。月刊誌『放送研究と調査』や、ウェブサイトなどを担当。
好きな言葉は「みんなちがって みんないい」

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