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2020年6月24日

調査あれこれ 2020年06月24日 (水)

#256 減少する中流意識と変わる日本人の社会観

世論調査部(社会調査) 小林利行

みなさんは、下の図が何だがわかりますか。

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左の「A」は、底辺が分厚くて、中間が細く、天辺もやや分厚くなっています。
その隣の「B」は、底辺が分厚いのは同じですが、上に向かう程、細くなるピラミッド型です。
反対に、いちばん右の「E」は、逆ピラミッド型で、下が細く、上が分厚くなっています。

実は、これらの図は、下から上に行くほど豊かになる階層社会をイメージした図なんです。
底辺の「下流層」が最も多く、次に「上流層」が多くて、「中流層」が少ない「A」は、
格差が大きな社会を表しています。「B」⇒「C」⇒「D」と右に行くほど格差が小さくなり、
「下流層」が少なくて「上流層」が多い「E」は、格差が小さな社会というわけです。

NHK放送文化研究所では、1993年からISSPという国際比較調査グループに参加して、
10年ごとに、同じテーマで調査を行っています。
去年(2019年)のテーマは、さまざまな格差についての意識を探る「社会的不平等」で、
上の図を示して、どの図が理想の社会で、どの図が現実の社会だと思うか選んでもらいました。

日本の調査結果を示したのが下のグラフです。
20年前(1999年)と10年前(2009年)と比較しています。

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「理想」の社会では、20年前も、今も、「D」が最も多くなっています。
「中流層」が分厚く、「上流層」と「下流層」が少ない社会を「理想」と考える人が多いのです。

ところが、「現実」の社会は違います。今回、最も多かったのは「B」のピラミッド型でした。
2番目に「C」が多く、「D」は3番目になっています。
「現実」の「D」の20年間の変化をみると、1999年は32%だったのが、2019年は20%と、12ポイントも減っています。

これは、日本が「中流層」よりも「下流層」が多い社会になっていると思う人が、20年間で増えたことを示しています。

「中流意識の減少」という変化がみられる一方、日本人の社会観にも注目すべき変化が現れています。


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現在の日本の社会が、「学歴がものをいう社会」だと思うかどうか尋ねたところ、
『そう思う』という人は、20年前の86%から、今回は73%と10ポイント以上減りました。

その一方で、「自然や環境を大切にしている社会」だと思う人は、20年前は21%だったのが、
今回は37%と15ポイント以上増えています。

「出身大学がものをいう社会」「お金があればたいていのことがかなう社会」なども減り、
代わって「人との結びつきを大事にする社会」「人と違う生き方を選びやすい社会」などが増え、
若い年代を中心に、社会に対する見方が変わってきていることが、調査から見えてきました。

この論文は、「放送研究と調査」5月号に掲載しています。是非、ご一読ください!