文研ブログ

2017年2月 3日

文研フォーラム 2017年02月03日 (金)

#64 テレビのネット同時配信 議論はどこに向かっていくのか?

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

2月2日(木)、NHKは今後の受信料制度の在り方について検討するため、
外部有識者による検討委員会を設置したと発表しました。
テレビ放送の内容をネットにそのまま配信する、いわゆる同時配信にかかる費用を
どのように負担してもらうのかなどについて議論してもらうとしています。

今NHKでは、災害時やオリンピックなどでは同時配信を行っていますが、
“常時”、つまりチャンネル丸ごとを配信することは放送法で認められていません。
しかし今後、人々がネット上で動画を視聴する流れが更に広がっていくとみられる中、
NHKでは、一昨年11月に始まった総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会(諸課題検討会)」において、
常時同時配信が出来るよう法律の改正を求め、議論が続いています。
そして今回、NHK自らも、法律が改正された場合を見据えた検討を開始することになりました。

NHKがこの発表を行ったちょうど同じ日、
総務省では、諸課題検討会とはまた別の会議の場で同時配信に関する議論が行われていました。
情報通信審議会(情通審)の「放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会」です。
この委員会は昨年11月に開始され、2日は第4回目の会合でした。

このように、総務省では今、2つの会議の場で同時配信について議論が行われています。
放送法に関わるNHKの問題を主に扱うのが諸課題検討会、
広く同時配信全般の課題の整理と解決の道筋について議論するのが情通審、と
2つの会議で議論を仕分けつつ、相互に連携をとって議論を積み上げていこうというのが総務省のねらいのようです。

そもそも大前提として、同時配信については、
欧米や韓国などの国々では数~10年前から一般的なサービスとして定着しているにも関わらず、
日本では、NHKだけでなく地上波民放においても、チャンネルを丸ごと同時配信している局がないという状況にあります。
(実験的試みはNHKとTOKYO MXで実施中。)
地上波民放はNHKとは異なり、制度的に同時配信を行うことは可能ですが、行っていません。
なぜ日本では同時配信が行われてこなかったのか、このことについては、
『放送研究と調査』2016年12月号の「「これからのテレビ」を巡る動向を整理するVlo.9でまとめていますのでご参照ください。

筆者は上記の総務省の2つの会議の傍聴や取材を続けていますが、
両会議で有識者から出されている意見は、
「テレビ離れが進む中、できるだけ早く同時配信については実施すべき」
「実施するならNHKと民放一緒で、できるだけ1つのプラットフォームが望ましい」
という趣旨が多くを占めています。
総論では、これらの意見に対する反対はあまりないのですが、
なかなかそこから先に議論は進まず、2つの会議とも足踏み状態が続いているように思います。

今後どのように2つの会議の議論は進んでいくのでしょうか。
常時同時配信の実現に向けて法改正を要望しているNHKと、
動画配信サービス全体のビジネスモデル像を構築する中で、
同時配信をどう位置づけていくのかを考えていきたい地上波民放とのアプローチの違いをどのように調整していくのでしょうか。
この他にも、権利処理や技術的要件などの課題も山積しています。
引き続き議論に注目していきたいと思います。

一方で、筆者は、放送と同じ番組をそのまま配信する同時配信というサービスが
テレビ離れをした人々に対するネットを活用したアプローチの答えとしてベストなのかどうかについては疑問を持っています。
これだけ多様な動画サービスがネット上に乱立する今、
同時配信のみをゴールとして議論を進めるのではなく、
同時配信も含めた、放送事業者のネット展開全体のあるべき姿を議論することこそが、
一見、遠回りのようにみえて、結果的に収れんしていく議論ができるのではないか――、そう思うのは筆者だけでしょうか。

文研では3月1日~3日、「文研フォーラム」で数々の報告やシンポジウムを実施しますが、
3日午後には、総務省の放送行政担当の大臣官房審議官との対論を企画しています。
同時配信についても、総務省の率直なご見解を伺う予定です。
この他、最新の世論調査の結果なども報告しますので、皆様のご参加をお待ちしています。

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(参加申し込みはこちらから↓)

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