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文研フォーラム 2017年02月17日 (金)

#66 台湾新政権は「メディアの公共性」を実現できるか

メディア研究部(海外メディア研究) 山田賢一

台湾では去年5月、民進党の蔡英文新政権が発足しました。親が政治家でない、かつ女性の最高指導者は、アジアでは珍しいとして注目を集めましたが、この新政権の特色として指摘されるのは、「メディアの公共性」を重視していることです。
従来、台湾では、メディアは財閥オーナーの所有物という側面が強く、2008年に中国時報グループという大手メディアグループの経営権を食品事業者の旺旺が握った際は、中国をほめたたえる報道が急増、中国事業で多大な利益を上げる旺旺のオーナーの意向が働いたとして、メディア関係者や市民の警戒が高まりました。
こうした声に配慮する新政権は、メディア政策として①公共放送の充実②「財閥のメディア支配」排除、の2点に力を入れています。このうち①に関しては、新理事の選出にあたって、多くのメディア関係者や女性を候補者としてリストアップ、これまでより大幅に「若返り」と「多様化」が進みました。また②に関しては、財閥の通信事業者「遠傳」によるケーブルテレビ事業者最大手「中嘉網路」の買収に政府の投資審議委員会が待ったをかけ、独立規制機関のNCC(国家通信放送委員会)に審査のやり直しを求めています。

こうした新政権の政策について、与党民進党や、与党に近い政党の時代力量はおおむね肯定的ですが、商業局や野党国民党それにメディア研究者の一部は、①の公共放送の規模拡大について、民業圧迫や官僚主義による非効率につながると批判しています。一方②に関しては、与野党を通じ「遠傳」の買収に否定的な見方が多く、ある程度のコンセンサスが得られる可能性もあります(その後2月8日に中嘉が売却断念を発表)。
当面新政権のメディア政策で最も大きな課題は、公共放送充実のために必要とされる【公共テレビへの政府交付金増額】と【公共放送グループ(現在は公共テレビを中心に、中華テレビ、少数派住民向けの客家チャンネル、国際放送の宏観チャンネルで構成)の構成員拡大】に向けての公共テレビ法改正です。しかし台湾では現在、年金改革や同性婚合法化といった社会の関心の高い案件が目白押しで、公共テレビ法改正案がいつ立法院(国会)に上程されるかメドはたっていません。政策の実現にはまだまだ山あり谷ありの状態で、今年どのような動きが見られるか注目されます。

詳細は、3月1日から3日にかけて行う「NHK文研フォーラム2017」の最終日(3日)午前10時から報告いたします。ぜひご参加ください。

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