文研ブログ

2022年1月12日

メディアの動き 2022年01月12日 (水)

#358 "岸田総理を襲う"コロナ感染第6波 ~オミクロン株をかわせるか~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男


「とうとう来たか」と実感した2022年の正月松の内でした。

 昨年10月4日の岸田内閣の発足前後から新型コロナウイルスの感染拡大は鳴りを潜め、いわば小康状態が続いてきました。この間隙を突く形で衆議院の解散に打って出たことが功を奏し、岸田氏は総選挙での勝利を足掛かりに危なげない本格的な政権スタートを切っていました。

 しかし年が明け、新型コロナウイルスとの戦いは終わっていない現実が噴き出したわけです。当研究所の月報「放送研究と調査」1月号掲載の拙稿「コロナ禍と政治意識の揺れ」で指摘せざるを得なかったオミクロン株の脅威が、沖縄県などで一気に目に見える形になりました。

 12月に入ってから世界各地で爆発的な感染拡大を引き起こしていたオミクロン株が日本列島の各地に襲来。沖縄県などでは先に感染が広がったアメリカ本土のウイルスが、入国時の検査が緩いと指摘されている在日アメリカ軍関係者によってもたらされたと見られています。


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 そういう中で1月8日(土)~10日(祝)の3日間、NHK月例世論調査が行われました。

☆「あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか」という質問に対する答えには少々当惑しました。

「支持する」57%(対前月+7ポイント)
「支持しない」20%(対前月-6ポイント)

岸田内閣の支持率は、昨年10月の49%で始まり、ほぼ横ばいで推移していましたが、ここへ来て上向き傾向を示しました。

“誰の眼にも第6波の襲来が明らかになってきたのに支持率が上がるの?”というのが私の素朴な実感でした。しかし、世論調査結果のいくつかの数字を見ると、安倍内閣、菅内閣の教訓を生かしながら、慎重かつ大胆にコロナ対応を進めている姿勢への一定の評価だということが分かります。

☆「あなたは新型コロナウイルスをめぐる政府の対応を評価しますか」という質問に対する答えです。

「評価する」65%、「評価しない」31%で、昨年10月の調査以降、「評価する」が徐々に上がり、「評価しない」が徐々に下がってきています。

 オミクロン株感染者が11月30日に国内で最初に確認されるのと同時に外国人の新規入国停止を打ち出すなど、「やりすぎ批判」を恐れずに対策を打ち出したことへの評価が支えになっていると言えます。ただ、それでもオミクロン株はやってきました。


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 岸田総理は1月4日の伊勢神宮での年頭会見で、感染状況の変化を見ながら水際対策から国内対策に重点を切り替えていく考えを表明。翌日には後藤厚生労働大臣が「感染したら入院」としていた原則を緩和し、感染者が急拡大している地域では、感染していても無症状の場合などには条件付で宿泊施設や自宅での療養を許容する方針を公表しました。

 菅内閣当時の感染第3波、4波、5波の反省を踏まえ、入院病床の不足に陥らないように先手を打ったとも言えます。

☆「オミクロン株に対する医療提供体制を確保するため、政府が行ったこの見直しを評価しますか」という質問に対する答えです。

「評価する」68%、「評価しない」28%。これを詳しく見ると、岸田内閣を支持する人では8割、支持しない人でも5割が、この見直しに肯定的な態度を示しています。

 岸田内閣の支持率は、第6波襲来の試練にさらされ始めた1月上旬の段階では、コロナ対策の臨機応変な見直しが功を奏していることに大きく支えられているようです。


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 けれどもこの先はどうでしょう。ワクチン接種は進んでいますが、1月12日、大阪府では前日の613人から一気に増え、1700人超の感染者が確認されました。

 WHO(世界保健機関)は、感染力は強いが重症化しにくいのがオミクロン株の特徴としています。これを国民がどう受け止めるかです。

 「重症化しないなら風邪と同じ」「かかってしまえばワクチン接種と同じ」といった安易な受け止めが広がると大変なことになるでしょう。

 感染症の専門家が口をそろえるように、感染者数が爆発的に増えれば、高齢者や病気を抱える人たちの中から一定割合で重症者は現れてしまいます。

 さらに、感染によって仕事を休まなければならない人が続出すれば、アメリカなどで見られるように公共交通機関など社会インフラが機能しなくなる危険が顕在化します。経済的には大打撃をこうむることになります。

 岸田総理にとって正念場はこれからです。丁度1年前、菅総理が安全安心と経済活動の両立を意識するあまり、Go Toトラベルキャンペーン一時停止のタイミングを誤ったことを思い出します。判断の遅れが結果として感染を全国に広げてしまった苦い経験です。

 日本の医療提供体制と社会機能を十分に維持するために、岸田総理が政府の総合力を発揮して、果断な対処を続けていくことができるかどうかが問われます。