文研ブログ

2020年10月 9日

調査あれこれ 2020年10月09日 (金)

#275 高齢者の「情報ライフライン」としてのテレビ

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか


 東日本を中心に記録的な豪雨をもたらした昨年10月の台風19号(東日本台風)からまもなく1年を迎えます。台風19号では84人(災害関連死除く)が亡くなり、65歳以上の高齢者がその6割以上を占めていました1)。NHK放送文化研究所が被災地で行った調査から、高齢者の「情報ライフライン」としてのテレビの重要性が改めて浮かび上がってきました。

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写真1:国土交通省の河川カメラで阿武隈川の氾濫発生を伝えるテレビ画面
      多くの文字・画像が盛り込まれている
     (2019年10月13日午前2時半ごろ NHK総合テレビ)


■「テレビの映像が唯一の頼れる手段です」
 NHK放送文化研究所は、台風19号で被災した長野県長野市、宮城県丸森町・石巻市、福島県本宮市・いわき市で、浸水したとみられる地域の20歳以上の男女計3,000人を対象に、郵送による世論調査を行いました。地元の自治体が発表した「避難勧告」を知った手段を聞いたところ、いずれの自治体でも、年代層が高くなるほど「テレビ」の割合が高くなる傾向がみられました。
さらに今回の調査では「台風19号のような豪雨災害のおそれがある時、テレビやラジオはどのような放送をすべきだと思いますか」という質問に自由に答えてもらいました。その回答には、高齢者からの切実な訴えが数多く記されていました(すべて原文ママ)。高齢者にとってはテレビが情報の「ライフライン」であることに改めて気づかされる内容でした。

 「私達夫婦二人生活 80才近くの者です。テレビとラジオが知るすべてです。あまり難しい
  表現でなくとにかくわかりやすい言い方等で知らせてください」(宮城県石巻市・70代女性)

 「アプリ・ラインなど使えないのでテレビの映像が唯一の頼れる手段です
  (福島県本宮市・70代以上女性)

 「高齢者に情報を届けたいのであれば『スマホを利用して』ということは除外すべき
  持っていたとしても使いこなせていないのが現状」(福島県いわき市・70代以上男性)

■テレビ画面にあふれる情報 高齢者に届いているか?
 災害時のテレビ放送について、高齢者からの具体的な要望も多く書かれていました。

 「一覧表が流れる帯状のテロップだと他の多くの地名にまぎれて、自分の地区を見落とした」
 「画面の文字をもう少し長く残してほしい」
 「重要なことは大きな文字で知らせてほしい」
 「高齢者は音を聞き取りにくいので、もっとゆっくり・はっきり話してほしい」
 「『越水(えっすい)』ではなく『水が堤防越しました』など、普段の使い慣れた言葉で呼びかけてほしい」

 今回、改めて台風19号の際の放送を見直してみると、テレビ画面にはL字スーパーやレーダー画像、二次元コードなどのさまざまな文字情報や画像があふれています(写真1)。近年、防災気象情報が高度化・細分化され、放送を出す側も、できる限り地域に密着したきめ細かい情報を届けようと努力しています。それが高齢者にとって見やすい・聞きやすい放送になっているか、今一度立ち止まって考える必要があるのではないでしょうか。

■避難情報の「見逃し」を防ぐ取り組みも
 災害時に命を守るために欠かせないのが避難に関する情報です。避難勧告や避難指示(緊急)の「見逃し」を防ぐ取り組みが始まっています。朝日放送テレビ(ABC)が2017年に全国に先駆けて導入した「災害情報エリア限定強制表示」やNHKが2020年6月から全国展開している「エリア限定地域避難情報自動表示」です。これらのシステムでは、避難勧告などが出た時、対象となる地域にだけ、テレビ画面上に文字スーパーが表示され、視聴者がリモコンを操作しなければ一定時間は消えません(写真2)。放送メディアは、インターネットによる情報発信を展開しながらも、テレビをライフラインとしている高齢者の切実な声にも応えていかなければなりません。

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写真2:NHKの「エリア限定避難自動表示」画面のイメージ
     (画面左側の枠で囲んだ部分が表示される)

 詳しくは、今回の調査の結果をご一読ください。
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告①(長野県長野市)
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告②(宮城県丸森町・石巻市)
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告③(福島県本宮市・いわき市)


1) 内閣府「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難に関するサブワーキンググループ」
  第1回資料(2020年6月19日)