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メディアの動き 2023年12月18日 (月)

【メディアの動き】パレスチナ犠牲増加で報道の困難増す

 パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエル軍(IDF)による攻撃の応酬で,10月7日から11月30日までに1万6,000人以上が死亡し,このうちガザ地区のパレスチナ人が1万5,000人を超えた。この間,ジャーナリストの犠牲者も増え続け,CPJ(ジャーナリスト保護委員会)によると隣国レバノンを含め,報道関係者58人が死亡。このうち51人がパレスチナ人で,多くが家族や親族とともにイスラエル軍の空爆で死亡した。報道分野の死者数はCPJが1992年に記録を開始して以降,同期間の戦闘としては最大になった。

 外国籍を持つ人はガザ地区から出ることが11月1日から認められ,メディア関係者も脱出した。残ったジャーナリストたちは衛生環境や通信条件なども悪化する中で家族とともに毎日の避難先,水や食料の確保に追われながら直面する現実を伝え続けているが,状況はさらに厳しさを増している。日本メディアでも,転々と避難しながら情勢を報じてきたNHKガザ事務所のプロデューサーのムハンマド・シェハダがエジプトに退避し,カメラマンのサラーム・アブタホンが残り取材を続けている。

 IDFは11月に入って一部のメディアのガザ地区への同行を認め,BBCやCNNの記者がガザ最大のシファ病院の施設や周辺を取材し,同行の条件とされた映像の検閲を受けたうえで放送した。銃やトンネルは映っていたものの,IDFが病院攻撃の大義とした「ハマス司令部」の存在を示す明確な根拠は確認されていない。

 RSF(国境なき記者団)は同月21日,イスラエルを支援するアメリカに対し「世界はガザで何が起きているかを知る必要がある。客観的な報道がなければプロパガンダがまん延する」と述べ,ガザのジャーナリストを保護し,国際メディアによる取材を可能にするよう促した。

 イスラエルが占領するヨルダン川西岸地区でもパレスチナ人に対するユダヤ人入植者による攻撃やIDFの弾圧は激しさを増しており,11月7日,同地区で農業を営むパレスチナ人を,そのオリーブ畑が見える場所でインタビューしていた全米公共ラジオNPRの取材班がIDFの兵士に銃を向けられ,目の前で取材相手を拘束される事件も起きた。RSFはヨルダン川西岸地区で同月8日までに拘束されたパレスチナ人ジャーナリスト14人の即時解放を求めている。

 欧米では,取材者の中立性や報道の公平性をめぐるメディア内の対立も表面化している。アメリカでは同月,ジャーナリストを含めた市民への暴力の停止をイスラエルに求めるとともに,パレスチナ人への暴力を正当化するような報道を行ってきた欧米メディアの責任を問う公開書簡にジャーナリスト1,000人以上が署名した。一方で,イスラエルを軍事的に支援するアメリカでは,停戦の呼びかけは政治的言動ともみなされるほか,報道の中立性を損なうことは取材活動を妨げ,安全を脅かすとの懸念もある。このため,一部のメディアではこうした公開書簡に署名した記者が関連する取材を外されたり,退職を余儀なくされたりした。

 デジタル空間や一部メディアではAIを使った偽情報やユダヤ人,イスラム教徒への憎悪をあおる発信も増え,アメリカ東部ではパレスチナ系の学生3人が銃撃される事件も起きた。11月末,現地は一時停戦に入っているが,戦闘が長引いて犠牲者が増え,世論の対立が深まるにつれ,報道にはさらに厳しい目が向けられることが予想される。