みんなでプラス メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなでプラス

歌手AIさん『がん治療研究を応援』 きっかけは「deleteC」中島ナオさんとの出会い

「Story」「ハピネス」など多くのヒット曲で知られる歌手のAIさんは2020年から、がんの治療研究を応援するNPO活動に協力しています。きっかけとなったのはNHKの番組を通じて、ある女性と出会ったことでした。NPO法人「deleteC」の発起人で、自らもがん治療を続けていた中島ナオさんです。ナオさんとの交流を通じて、AIさんは“埋もれていた”楽曲『HOPE』を完成させました。
2021年4月20日、中島ナオさんは38歳で亡くなりました。AIさんは、ナオさんの意思を受け継ぎ、これからもがんの治療研究を応援し続けたいと話します。その胸の内を聞きました。

(2021年5月放送 ひとモノガタリ「がんを治せる病気にしたい〜デリートC ある女性の挑戦〜」をもとに記事を作成しています)

(左・中島ナオさん 右・AIさん 写真提供:NPO法人deleteC )

AIさんと『deleteC』中島ナオさんの出会い

AIさんが中島ナオさんと初めて会ったのは2020年3月、中島ナオさんを取材したドキュメンタリー番組「ひとモノガタリ」でナレーションを担当した時のことです。
AIさんに「少しの時間でも、直接感謝を伝えたい」とナオさんが収録現場を訪れ、収録後に15分ほど話をしました。

中島ナオさんは31歳の時に乳がんが発覚。その後転移が見つかり、ステージ4と診断されました。それでも「がんになってからも感じることができる希望を生み出したい」とNPO法人「deleteC」の立ち上げに奔走してきました。

(ラグビー選手と募金活動を行う中島ナオさん)

「deleteC」は『みんなの力でがんを治せる病気にする』ための仕組み作りを行う団体で、2022年9月からは認定NPO法人として活動を行っています。

がんの治療研究こそ希望の種であると位置づけるdeleteC。
「がん=Cancer」の頭文字Cを商品名や企業ロゴから消したオリジナル商品を販売し、収益の一部を治療研究に寄付するなど、普段がんと接することが少ない人でも気軽に参加できる「新しいがん治療研究の応援の形」を生み出し続けています。

(Cが消えたオリジナル商品例)

ナオさんと最初に出会ったときの印象を、AIさんは次のように語ります。

AIさん

「ナオさんと初めて会ったとき、すごい元気で、ずっと笑顔ですごいと思ったんですよね。私もよく「元気ですね」って言われるけど、ナオさんは本当にすごい。 そのときにデリートCで何を目指しているのかを直接ナオさんから聞いて、シンプルにやるべきことだと思ったんです。やらない理由がないし、いいものはいいって。 その出会いがきっかけでコラボしていこうということになって、私が曲を書いて、デリートCのみなさんと一緒にミュージックビデオを作ろうということになりました 」

「早くがんを治せる病気にしたい」 AIさんも感じていた共通の想い

AIさんにとってドキュメンタリー番組のナレーションは、この「ひとモノガタリ」が初めての挑戦でした。慣れない仕事でしたがオファーを引き受けました。そしてナオさんとの出会いをきっかけに、放送後も「deleteC」の活動に協力し、がん治療研究の応援に参加するようになりました。

なぜここまで積極的に関わることを決めたのか? 話を聞くと、実はAIさんには、これまで明かしてこなかったある経験がありました。

(インタビューに答えるAIさん)
AIさん

「自分の同い年の親友ががんで亡くなったんです。『ほんとに亡くなるんだな』っていうのが分かったというか、もちろん親戚とかには、がんで亡くなっている人とかもいますけど、だいたい高齢になってからだったので、早くして亡くなるというイメージはなかったんです。

若い人でも乳がんになることがあるっていうのは知っていたので、自分も検査とかいつもやってるんですけど、すごく親しくて、元気なときにいつも一緒に過ごしてた人が結構短い期間で亡くなると、まだ一緒にやれていないことばかりが、あれもこれもと、頭に浮かんできてしまうんです。

そうなるとショックがすごく大きいから、仕事が手につかなかったり、ご飯が食べられなくなったりするので、早くみんなにがんのことを知らせたいなって思うようになっていました。

そんなときに、たまたま私のマネージャーが「deleteC」の話があるけどって言ってくれたんです。親しい人をがんで失う経験をするのは本当に嫌だし、みんなにも経験してほしくないと思っていたので、「deleteC」の活動を知り、早くがんを治せる病気にしないといけないという気持ちになって、協力したいと思うようになりました」

埋もれていた楽曲「HOPE」 今だからこそ伝えたいメッセージ

2021年1月にリリースされたAIさんの新曲「HOPE」。『あきらめずに前を向こう』というメッセージが込められたこの曲は、ナオさんとともに「deleteC」とのコラボレーション企画を進める中でできたものです。しかしAIさんによるとこの曲は、数年前に1番の歌詞を書いたまま、いわば“埋もれた楽曲”だったそうです。

『HOPE』 歌詞(1番)
大事な人を亡くした(Keep your hope alive )
お金もない 家もない もう何もない(Keep your hope alive)
勝手に決められた私の未来(Keep your hope alive )
砂嵐に埋められてく頭の中(Keep your hope alive)
きっとその先は何かが違う 必ず変わる 何かが変わる if u don't give up
この先を生きれば諦めなければ あなたも知らないその先へ

When you're feeling low keep your head up high And keep the hope alive
We're saying no, tell the pain goodbye And keep the hope alive Keep the hope alive
AIさん

「『HOPE』はね、やばいよ。すごく想いが詰まった楽曲です。 最初、一番の歌詞を書いたのは、妊婦の時でした。妊婦って喜びに包まれてるって思われるかもしれないけどそれだけじゃなくて、すごいたくさんの不安があるんです。妊婦だけじゃなくて、生きているとみんないろんな問題があって、借金がある人もいるし、ドラッグから抜け出せない人もいれば、病気で苦しんでいる人もいる。そういう人たちに向けた気持ち全部をぎゅっと凝縮させたのが『HOPE』の1番でした。

『HOPE』がなくなると、「もう死んでもいいや」みたいな気持ちになってしまう。だから、それを阻止する曲にしたくて、“死んでほしくない、生きていてほしい”と伝えたくて、作っていました」

最初の歌詞を書いた後、AIさん自身の出産や子育て、さらに新型コロナウイルスの感染拡大などが続き、この曲を世に出すことはできずにいました。

そんな中で中島ナオさんと出会い、がんの治療を続けていることを一切感じさせないほど、目標に向かって奔走するその姿に、強い影響を受けたと言います。そしてこれをきっかけに、AIさんは『HOPE』の2番の歌詞を書き上げました。

ナオさんや「deleteC」の活動から感じたこと、そしてコロナ禍で多くの人に伝えたいメッセージが詰まっていると言います。

『HOPE』 歌詞(2番)
触れたい触れられない 逢いたいのに会えない (Keep your hope alive )
責められる毎日 どうして? 誰か 助けて  (Keep your hope alive)
信じてたものが全てが崩れていった、、(Keep your hope alive)
人が嫌い 自分が嫌いなんで生まれてきたんだろう? (Keep your hope alive)
きっとその先は何かが違う 必ず変わる 何かが変わる if u don't give up
この先を生きれば諦めなければ あなたも知らないその先へ
When you're feeling low keep your head up high
And keep the hope alive
We're saying no, tell the pain goodbye
And keep the hope alive
顔上げよう 今だけでも
Just keep the hope alive
いい日にしよう 明日へと
Let's keep the hope alive

When you're feeling low keep your head up high
And keep the hope alive
We're saying no, tell the pain goodbye
And keep the hope alive
Just keep the hope alive
(AIさんとナオさん ミュージックビデオ撮影の控え室にて)

ナオさんが見守る前で『HOPE』を熱唱

そして2021年1月に行われた『HOPE』のミュージックビデオの撮影現場には、ナオさんの姿が。いつもと変わらない笑顔で、AIさんの歌を見守っていました。

(『HOPE』ミュージックビデオ撮影の様子)
AIさん

「ナオさんが目の前にいて、彼女に歌う感じでした。あの日を思い出すと、涙が出てきてしまう。この前のライブもやばかったんです。2番を歌うときに、ナオさんのあのにこやかな感じの顔を思い出すでしょう。優しい感じのね。

ビデオ撮影の現場でも、ずっと二人でしゃべってて、『疲れたらやめてくださいよ』って言ってたんだけど、『もう全然大丈夫』って、変わらない笑顔で話されていました。いま思うと大丈夫じゃないのにそうしてたのかなとか思って、本当にすごい人だったんだなと思っています。

飲みに行ったりごはんを食べに行ったりはできなかったけど、関わった全ての瞬間で素敵な人だったし、LINEとかでも私の友達の話も聞いてくれたり、絵本を娘達にくれたりとかとにかく優しいですよね。いつも人のために頑張ってるなっていう感じで、なので、あのビデオ撮影の日は、今も忘れられないです」

音楽を通して「がんを治せる未来」を作っていきたい

その後行われた「deleteC」のオンラインイベントで、AIさんは『HOPE』をライブで披露。さらに、この曲とdeleteCが支援した4人の医療者や研究者の映像を合わせて作られたミュージックビデオも完成し、映像を見た人が、ネットでがん治療研究者に寄付ができるコラボ企画も立ち上げました。

このイベントに向けてAIさんが寄せたメッセージです。

音楽を通して「がんを治せる未来」を作っていきたい。もちろん”がん”だけじゃなく今はコロナだってある、全ての人達の苦しみをとってあげることができたら、、今も時間がない人達がたくさんいる。どうにかできるかもしれない、そんな希望を持っていて欲しい、持っていたいって思いながらHOPEって曲もできました。みんなで力を合わせたら少しでも多くの人たちを、誰かを喜ばせられるかもしれない。苦しみを消してあげられるかもしれない。Let’s delete all the sickness,and Let’s delete the C together!!!! 】

『がんを治せる病気にしたい』

このイベントから3ヶ月ほど経った2021年4月20日。
AIさんの活動に大きな影響を与えた中島ナオさんが、亡くなりました。
乳がんの治療を続けて7年。38歳でした。

「心の中のナオさんとこれから一緒にやっていきたいことはありますか?」
私がこう問いかけると、AIさんは次のように答えてくれました。

AIさん

「ナオさんと初めて会った日に、デリートCのシールをもらったんです。今も私の携帯電話に、たくさん張っています。私は亡くなった人ってすごいパワーを持つと思っていて、ちょっとサボろうとしても、見られているようで、『もう分かったよ、やるよ』みたいな背中を押される感じがするんです。

ナオさんも、どこからか見ていると勝手に思っているので、『あんたちょっと手伝うって言ったくせに、ちゃんと手伝ってよ』って笑いながら言われ続ける気がするので、もう忘れたくても忘れられないし、結局思い浮かべちゃうんだろうなと思うので、それに身を任せてやるだけですかね。

だから彼女が思っていた『がんを治せる病気にしたい』という目標が達成できれば一番いいですね」

(AIさんのスマホ ナオさんにもらったdeleteCのシールが貼ってある)

中島ナオさんを取材したドキュメンタリー番組
ひとモノガタリ選「がんを治せる病気にしたい~デリートC ある女性の挑戦~」
5月15日(土)NHK総合 午前0:55~(14日深夜)

担当 藤松翔太郎ディレクターの
これも読んでほしい!

この記事の執筆者

首都圏局 ディレクター
藤松 翔太郎

「#がんの誤解」「みんなのネット社会」担当。
2012年入局、宮城・福島で勤務し津波・原発事故の取材を行う。その後、クローズアップ現代、NHKスペシャルなどを担当後、「フェイク・バスターズ」「1ミリ革命」を立ち上げ。継続取材テーマ(がん/フェイク情報/原発事故/性教育/子ども)

みんなのコメント(0件)