
子宮頸がん・HPVワクチンとは 感染の原因やワクチンの効果などを解説
子宮頸がんとは、日本で毎年1万人以上がかかり、およそ3000人が亡くなっている病で、HPVワクチンはその子宮頸がんの原因となるウイルス感染を防ぐワクチンです。
いま子宮頸がんは「予防できるがん」と言われ、国や自治体は2022年4月から、HPVワクチンの積極的な接種の呼びかけを再開しています。
女性だけでなく、実は男性にも関わる「子宮頸がんとHPVワクチン」についてイチから解説します。
(2022年4月15日放送のニュースウオッチ9をもとに作成しています)
監修:宮城悦子さん(横浜市立大学医学部 産婦人科学教室 主任教授)
若尾文彦さん(国立がん研究センター がん対策研究所事業統括)
「子宮頸がん」とは? 早期発見でも子宮全摘の可能性がある
そもそも子宮頸がんはどんな病気なのか。
子宮頸がんは「子宮の入り口」にできる「がん」で、日本では、患者数は年間でおよそ1万1000人にのぼり、毎年3000人近くが亡くなっています。
ただ、「がんになったらすぐに亡くなる」というものではありません。
下の表に、子宮頸がんと診断された後、「10年生存した人の割合」を表にまとめました。
がんが初期に見つかった「ステージ1」から、進行した状態で見つかった「ステージ4」まで、ステージ別に示します。

子宮頸がんと診断された後、多くの人は、治療と定期的な経過観察を受けながら、仕事や恋愛、育児など、それぞれの生活を続けています。
その一方で、「治療を終えたらすべて解決」ということでもありません。
子宮頸がんの発症は20代から増え、40代までにピークを迎えます。

2022年3月に発表された国立がん研究センターの論文では、子宮頸がんの増加率が最も高いのは20代とされています。
さらにステージ1という比較的早期に発見できた場合でも、子宮をすべて摘出するケースも多いのが現状で、毎年1000人ほどが40歳になるまでに子宮を失っています。
子宮を摘出することで出産の機会を失うことになるほか、さまざまな合併症が生涯にわたり続くことも少なくありません。
子宮頸がんの「合併症」とは? 23歳で発症した女性が知った“生きづらさ”

阿南さんの特集記事「23歳で子宮頸がんになった私が伝えたいこと」
23歳で子宮頸がんと診断された阿南里恵さんは、手術などの治療でがんは完治しましたが、子宮はすべて摘出するほかありませんでした。
子宮頸がんの治療に伴う合併症で、足が2倍以上の大きさにむくんでしまう「リンパ浮腫」に長い間苦しめられてきました。
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阿南里恵さん
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「突然足が腫れて高熱が出ることがあって、仕事を急に休むことが続いたことで、何度も転職を繰り返しました。あたたかい家庭を築きたいという思いがあって、いいお父さんになりそうな人を好きになるのですが、その人まで子どもを持つことを諦めなきゃいけないと思うと、私から身を引いてしまうという感じでした。将来もどう築けばいいのか、何を希望に生きていけばいいのか分からなくなった時期もあります。
私の場合は検診で見つからなかったので、あの時ワクチン接種という選択肢があったらと思ってしまいます。この長い年月すごく苦しんできたので、予防できるっていう方法があるということをまず知ってほしいです」
「子宮頸がん」の原因はウイルス? 感染で男性もがんになる?
子宮頸がんはそのほとんどが、あるウイルスの感染が原因で起きます。
ヒトパピローマウイルス(HPV)です。
実は、このHPVに感染することで、男性もがんを発症することがあります。

HPVは主に性交渉によって感染します。
男性の場合、HPV感染が原因で、中咽頭がん、陰茎がん、肛門がんなどになります。
さらに、男性も女性も性交渉を通じて、パートナーにHPVを感染させてしまいます。
女性の子宮頸がんを防ぐためには、女性自身だけでなく男性も感染を予防することが重要です。「女性だけの問題という誤った認識は改めていくべき」と専門家は指摘します。
また、性行為によって感染し、がんを発症するということから、「子宮頸がんは性生活が活発な人がなる」という誤解が広がっています。
この認識も改めるべきだといいます。

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日本産科婦人科学会 特任理事 横浜市立大学医学部教授 宮城悦子さん
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「子宮頸がんという病気は、1回でも性交渉の経験がある女性なら誰でもなる可能性のある病気だということを理解してもらうことが必要です。
HPVの感染は、男性から女性に起こることも、女性から男性に起こることもあるわけなので、男性も、疾病への理解やHPV関連がんに対しての理解を深めることも非常に重要だと思っています」
「子宮頸がんは撲滅できる」ってほんと?
日本で、若い世代の子宮頸がん患者が増えている一方、世界的には「子宮頸がんは撲滅できる」といわれています。

2020年8月、WHO(世界保健機関)では、「子宮頸がん撲滅のための世界戦略」が採択されました。
子宮頸がんをなくしていくために、「ワクチン」「検診」「治療」の3つの目標が全世界で共有されました。

接種率が80%ほどとなり、この目標の達成が現実的になってきたオーストラリアでは、「2028年には子宮頸がんが撲滅できる」と言われています。
では、日本の現状はどうでしょうか。

WHOの目標には遠く及ばないのが現状です。
特に、子宮頸がんを予防するHPVワクチンの接種率は世界の中でも突出して低いのが現状で、WHOが世界87か国の接種率を比べたデータを見ると、「このままだと日本の女性では子宮頸がんの患者が増え続けてしまう」と、専門家は警鐘をならしています。
子宮頸がんを防ぐ「HPVワクチン」とは? 2価、4価、9価ってなに?

HPVワクチンは、名前の通り、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するためのワクチンです。
このHPVは、200種類以上のタイプが見つかっていますが、子宮頸がんなど、がんの原因となるタイプは「ハイリスクHPV」と呼ばれていて、その数はおよそ10種類あると言われています。
このハイリスクHPVの感染を予防するのが、「HPVワクチン」です。

HPVワクチンには「2価」、「4価」、「9価」の3種類があります。
「○価」とは、「○種類のウイルスの感染を予防できる」ということを表しています。
子宮頸がん全体の実に50~70%の原因とされる2種類(HPV16型とHPV18型)を防ぐのが、2価ワクチン。これを含む4種類を防ぐのが、4価ワクチンです。
積極的な接種の呼びかけが再開したいま、日本ではこの2価と4価が、小6から高1にあたる女性が定期接種の対象で、呼びかけが止まっていた間に接種の機会を逃した女性も、キャッチアップ接種として無料で接種することができます。
ただし、全国の自治体に取材をすると、接種券をまだ発送していない自治体も数多くあるのが現状です。
お住まいの地域の状況を知りたい方は、直接、自治体にお問い合わせください。
【厚生労働省 「HPVワクチンに関するリーフレット」より】
<定期接種の対象>
現在小学6年生から高校1年生の女性は無料で接種ができます。
<9年間の未接種者・キャッチアップ接種の対象>
・誕生日が1997年4月2日から2006年4月1日までの女性
・これまでにHPVワクチンの接種を合計3回受けていない
※2006・2007年度生まれは、2025年3月末まで無料接種可能
そのほか、9種類のHPV感染を予防する9価ワクチンの接種希望者や男性の接種希望者などは全額自己負担です。
「HPVワクチン」の効果は? 世界中でデータが蓄積
HPVワクチンはどれくらい子宮頸がんのリスクを減らすことができるのでしょうか。
各国でHPVワクチンの接種が開始されてから15年以上たち、接種率の高い国々からHPVワクチンの子宮頸がん予防効果に対する報告が出てくるようになりました。
英国やスウェーデンやデンマークで、ワクチン接種の対象となっている世代に対して行われた研究では、適切な年齢でワクチンを接種することで、子宮頸がんのリスクを9割近く下げることができるというデータが示されました。「今後適切なタイミングでの検診と組み合わせることによって子宮頸がんを撲滅できると考えられる」と、専門家は言います。

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国際パピローマウイルス学会評議員・ケンブリッジ大学病理学部 江川長靖さん
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「HPVは感染すると長期間にわたって感染が持続し、子宮頸がんの発症へとつながります。
子宮頸がんの発症を防ぐためには、感染の機会である性交渉の経験がなるべく少ないうちに接種を完了することが 、最も効果的です。
性交渉をするから・するためにワクチンを接種するのではなく、性交渉をしていないうちから考えることが重要で、先延ばしにするのではなく、早めに親子で一緒に話し合う場をつくることが大切だと思います」
「HPVワクチン」の安全性は? 接種者・非接種者を比較し分かったこと
接種を検討する上で、やはり気になるのが、HPVワクチンの安全性です。
9年前、HPVワクチン接種後に体の痛みなどを訴える女性が相次ぎ、メディアで大きく伝えられました。
世間に不安が広がり、国は接種の呼びかけを一時的に中止すると発表。
接種後に体の痛みなどが出たとして国を訴える裁判も起こされました。
その後、専門家の会議などで安全性などの議論が続けられ、今回、再開に至りました。
この背景にあるのは、国内外での科学的なデータの蓄積です。
HPVワクチン接種後に、体の広い範囲に広がる痛みや手足の動かしにくさなど、「多様な症状」が起きたとして、国に報告が上がっています。厚生労働省によると、接種した人1万人のうち約10人は、接種後に何らかの症状が報告され、このうち、約6人は入院など、重篤な症状と判断されています。
これだけを読むと、「ワクチンのせいで起きた症状」に見えるかもしれません。
しかし、こうした多様な症状が実際に起きていることは事実でも、これが「HPVワクチンそのもののせいで起きた症状とはいえない」 というデータが次々と出てきています。
国がHPVワクチンの安全性を確認するために行った調査では、次のような結論が発表されました。

つまり、ワクチンを接種した後に出たと報告されたさまざまな症状がワクチンを接種していない人にもいたことが確認されたのです。
「HPVワクチン」世界での安全性検証は?
2021年に発表された韓国の調査では、HPVワクチンを接種した人と、日本脳炎などHPV以外のワクチンを接種した人、合わせて44万人を対象に、重篤な症状の発生頻度に差があるのかを確かめています。
その結果、HPVワクチンを打っていても、他のワクチンを打っていても、重篤な症状の発生頻度に差はありませんでした。
つまり、「HPVワクチン特有の症状が起きているとは言えない」とされたのです。
こうした国内外の調査などを分析した結果、「安全性について特段の懸念が認められないこと」、さらに「ワクチンの有効性が副反応のリスクを大きく上回る」ことなどを理由に、今回、9年ぶりに、積極的な接種の呼びかけが再開されることになったのです。
“接種との関係が不明でも症状が出たら医師に相談を”

HPVワクチンとの因果関係は分からなくても、こうした多様な症状が出た場合、医療機関でどう対応するかということも、9年の間に体制が整えられてきました。
2022年4月、富山県の婦人科クリニックを取材した際、HPVワクチンを接種を希望する中学生と母親に、医師からこんな説明が行われていました。
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産婦人科医 鮫島梓さん
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「ワクチンを打った後に、なんか調子悪いなということがあったら、ワクチンと関係があってもなくてもいいから、私に何でも電話してきていいから」
中止された当時、問題となっていたのが、さまざまな症状が出た女性たちのたらい回し。
病院を受診した際に「痛みは気のせい」「痛いふり」などと言われ、病院を転々とするケースがあったといいます。
かつて起きた問題を繰り返さないようにと、地域のネットワークで患者を見続ける体制作りです。

かかりつけ医が対処できないケースが起きた場合は、各都道府県ごとに1カ所以上設けられた、「協力医療機関」につなぎ、より知識のある医師が対応。さらに、この協力医療機関などを支援する「拠点病院」も、全国7つのブロックごとに設けられ、地域で連携しながら治療に当たる体制が作られています。
この「拠点病院」の一つ、富山大学付属病院の痛みセンター長、川口善治医師は、同じことを二度と繰り返さないために、さまざまな診療科の医師と連携。
多様な専門分野で意見を交わしながらチームで診療に当たる準備を進めています。

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富山大学付属病院 痛みセンター長 川口善治さん
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「とにかく適切な治療に早い段階でつなげることがこうした原因不明の痛みや症状を治していく上では不可欠。どんな症状であっても患者を一人にしない体制を作っていきたい」
今回、HPVワクチンの積極勧奨が再開されたことをきっかけに、子宮頸がんのことも、HPVワクチンについても、検診についても、もっと学ぶ機会を増やしていかなければいけないと専門家はいいます。
「#がんの誤解」では、今後もがんに関する最新の情報を取材し、
随時記事を更新します。
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