
9価HPVワクチンが「無料」・「2回接種」に 詳しく知りたい!
子宮頸がんなどを防ぐためのHPVワクチン。
従来のワクチンよりも高い感染予防効果があるとされる「9価HPVワクチン」について、厚生労働省は2023年4月1日から無料の接種の対象に加えました。
さらに従来は3回の接種が必要でしたが今回、接種回数が2回に変更されました。
これまでのワクチンと何が変わったのか、気になる情報をまとめました。
(この記事は2022年11月8日のNHKニュースを元に作成。その後、国の方針が変更された部分が出たため2023年4月に内容を一部修正しています)
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#がんの誤解では、国がHPVワクチンの積極的な呼びかけを再開した2022年4月から、子宮頸がんの当事者の声や予防についての情報を随時お伝えしています。
新しい「9価HPVワクチン」ってなに? HPVワクチンが3種類に
HPVワクチンは、子宮頸がんなどを防ぐためのワクチンです。
これまで小学6年生から高校1年生の女性を対象に定期接種で使われていたのは、
「2価HPVワクチン」と「4価HPVワクチン」と呼ばれるものでした。
そして、2023年4月から定期接種に加わることになったのが「9価HPVワクチン」です。

「○価」とは簡単に言うと「○種類のタイプのウイルスを対象にしている」ということを表しています。
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2価HPVワクチン
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子宮頸がんを引き起こしやすい2種類のタイプのウイルス (HPV16・18)への感染を防ぐためのワクチン。子宮頸がんの原因のおよそ60-70%を防ぐとされています。
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4価HPVワクチン
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4種類のタイプのウイルス(HPV16・18・6・11)への感染を防ぐためのワクチン。
性器や肛門周辺に、トサカのようなイボができる「尖圭コンジローマ」という病気を防ぐ効果もあります。子宮頸がんの原因となるウイルスを防ぐ効果は2価ワクチンと同程度です。
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9価HPVワクチン
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9種類のタイプのウイルス(HPV16・18・6・11・31・33・45・52・58)への感染を防ぐためのワクチン。子宮頸がんの原因のおよそ約80-90%を防ぎ、感染予防効果は2価・4価ワクチンより高いとされています。一方、厚生労働省によりますと「安全性については4価ワクチンと比べ、接種部位の痛みや腫れなどが出やすいが、頭痛や発熱、吐き気などの全身症状が出る割合は同程度」と報告されています。また、2023年に国の承認を受け、3回接種から2回接種に変更されました。
9価ワクチンはいつから誰が接種できるの?
9価ワクチンの定期接種の対象は、これまでと同じ小学6年生から高校1年生にあたる学年の女性です。

また、積極的な呼びかけが中止されていた8年あまりの間に、接種機会を逃した人(平成9年度から平成17年度に生まれた女性)についても、無料で接種できるいわゆる「キャッチアップ接種」ができます。
このキャッチアップ接種の対象者についても、2023年4月1日から無料で9価ワクチンの接種が可能となりました。

【解説】そもそも子宮頸がん・HPVワクチンとは?

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子宮頸がん・HPVワクチンとは
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子宮頸がんは、主に性交渉によってHPV=ヒトパピローマウイルスに感染することが原因で発症します。子宮の出口付近にがんができ、年間およそ1万1000人の女性がかかり、毎年およそ2900人が亡くなっています。
(HPV=ヒトパピローマウイルスの画像 写真:グラクソ・スミスクライン)
HPVはごくありふれたウイルスで、80-90%の女性が生涯で一度はHPVに感染すると推定されています。性交渉の経験があれば男女を問わず多くの人々が感染しうると言われていて、この感染を防ぐためのものがHPVワクチンです。
このワクチンはすでにHPVに感染してしまった状態を治すものではなく、あくまで未然に感染を防ぐものなので初めて性交渉を経験する前に、接種することが最も効果的です。2013年、HPVワクチンを接種したあとに体の痛みなどを訴える女性が相次いだことを受けて、厚生労働省は積極的な接種の呼びかけを一時的に中止しました。
このとき、こうした接種後に報告された症状と接種との因果関係についてはいまほど研究が進んでいませんでしたが、当時、『ワクチンの副作用ではないか』という指摘が出され、大きく報道されました。
また、接種で体の痛みが出たとして、130人の女性が国と製薬会社を相手に治療費の支払いなどを求める訴えを起こしています。
しかしその後、国内外で安全性や有効性に関する研究が進み、厚生労働省は「子宮頸がんを予防する効果のほうが副反応などのリスクよりも大きい」などとして、2022年4月に積極的な接種の呼びかけを再開。2023年4月からは9価ワクチンも新たに無料の接種の対象に加えられました。
いま産婦人科医が伝えたいことは?

若い世代の産婦人科受診に力を入れている藤沢市の産婦人科医・門間美佳院長です。
4月から9価ワクチンが定期接種の対象になったことの周知が行き届いていないと感じています。
HPVワクチンの接種を希望してこのクリニックに来る人でさえも、特に知られていないのが、
▼9価ワクチンの接種回数が2回になったことや、
▼キャッチアップ接種でも9価ワクチンが選択できるようになったこと。
その原因として、9価ワクチンが定期接種になったことについて、必ずしもすべての自治体が対象者に個別に通知しているわけではないことが考えられるといいます。

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門間美佳院長
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「定期接種を受けることは権利なので、住んでいる自治体によって情報の差があることで、健康の格差につながってしまってはいけないと思います。国が作った新たなパンフレットを印刷すると時間も予算もかかってしまうかもしれませんが、QRコードを載せたはがき1枚でいいので、ぜひ個別の通知を検討してほしいです」
なぜ接種回数が3回から2回に?
これまでも国内では自費で9価ワクチンの接種が可能でしたが、接種回数は2価や4価と同じ3回となっていました。
しかし欧米などでは、9価ワクチンについてはおおむね11歳から13歳の女性に対し、「2回接種」が推奨されています。

3回接種を2回に減らしても、接種に伴う予防効果が同程度見込むことができるとの研究結果が示されているためです。
2022年11月に開かれた厚生労働省の専門家部会では、「国内でも2回接種を標準とするべき」という意見が相次ぎました。

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専門家部会 委員
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「接種回数が増えると副反応のリスクも増える。一日でも早い2回接種の導入を求める」
厚生労働省は2023年2月、ワクチンを製造販売する製薬メーカーMSDから出されていた2回接種の申請を承認。
4月1日から15歳未満は「2回接種」とすることになりました。
具体的には、
▽15歳の誕生日よりも前に1回目の接種を行ったうえで、
▽5か月以上あけて2回目を接種します。
15歳以上の女性は3回の接種が必要となります。
厚労省に聞く①「2価や4価を接種した人は9価ワクチンの接種も可能?」
2価や4価をすでに接種している人は、9価の接種についてどう考えればいいのか。
厚生労働省に話を聞くと次のような回答がありました。
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厚生労働省
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「どのワクチンでも感染予防効果があることは証明されているので、対象となっている人はなるべく早い時期に打てるワクチンを打つことを検討してほしい。すでに1回目や2回目に2価や4価を接種した人については同じ種類のワクチンで接種を終えることを原則としますが、医師とよく相談の上で残りは9価を接種することも可能になります。ただし、9価以外のHPVワクチンで過去に3回の接種を完了した人の9価の接種は、定期接種として受けることはできません。それでも自費で9価の接種を希望される場合は、有効性や安全性のデータは限られていることを踏まえ、医師と十分に相談の上、接種をご検討ください」
厚労省に聞く②「自費で9価を接種した人の償還払いは?」
すでに自費で9価を接種した人への費用補助などはあるのか、厚生労働省に尋ねると。
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厚生労働省
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「9価の無料の定期接種は2023年4月からであり、それまでは定期接種として認められていなかったため、キャッチアップ接種の2価や4価で認められているような償還払いは難しいと考えています」
厚労省に聞く③「男性接種が無料になる可能性は?」
これまでの2価・4価に加え、2023年4月からの9価ワクチンについても、実質無料で接種できる定期接種の対象は女性のみとなっています。
しかし、ワクチン接種によってHPVへの感染を防ぐことは、女性の子宮頸がんを防ぐだけではなく、男性にとっても中咽頭がんや肛門がん、尖圭コンジローマなどを防ぐ効果があると言われています。
男性が自費で任意接種を行うことができるのは、男性に対しても薬事承認されている4価ワクチンだけです。
9価ワクチンの男性の接種について国内では現時点で承認がされていません。

専門家部会では次のような意見も出ました。
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専門家部会 委員
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「性交渉でHPVを女性に感染させないためにも男性も定期接種の対象とすべきだ」
厚生労働省は将来的な9価の使用を念頭に、薬事承認の申請の状況を踏まえながら今後男性へのHPVワクチン定期接種化の検討を進めていくことにしています。
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さいごに
4月から定期接種の対象となった9価ワクチンについて取材をすると「効果の違いや、接種の対象者などについて、わかりにくい」という声が多くありました。
いつ、どのワクチンを接種するのか、それぞれが適切な判断ができるよう国や自治体にはわかりやすい情報発信が求められます。
ワクチンを接種するかどうかは個人の自由です。
ワクチンを接種してもHPVに感染する可能性は完全には排除できず、
厚生労働省はワクチンを接種していてもしていなくても、20歳になったら2年に1回、必ず子宮頸がん検診を受けるよう呼びかけています。
接種を検討する人はかかりつけ医やお住まいの地域に設置されている窓口で相談したり、家族で話し合う場を設けたりしながら、納得のいく選択に近づけていくことが大切だと感じました。
もし検討するにあたって「ここがわからない」「もっとこういう情報がほしい」ということがありましたら、#がんの誤解のコメント欄にぜひご意見をお寄せください。
いただいたご意見をもとに新たに取材をすすめ、可能な限りお答えしていきたいと思います。