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9価HPVワクチンが定期接種へ 詳しく知りたい!

子宮頸がんなどを防ぐためのHPVワクチン。
従来のワクチンよりも高い感染予防効果があるとされる「9価HPVワクチン」について、厚生労働省は来年(2023年)4月1日から無料の接種の対象に加えることを決めました。

これまでのワクチンとどう違うの?来年まで接種を待ったほうがいいの?
気になる情報をまとめました。

(この記事は11月8日のNHKニュースに追加取材を行い作成しています)

HPVワクチンとは

HPVワクチンは、子宮頸がんなどを防ぐためのワクチンです。
子宮頸がんは、主に性交渉によってHPV=ヒトパピローマウイルスに感染することが原因で発症します。子宮の出口付近にがんができ、年間およそ1万1000人の女性がかかり、毎年およそ2900人が亡くなっています。

HPV=ヒトパピローマウイルスの画像 写真:グラクソ・スミスクライン
HPV=ヒトパピローマウイルスの画像 写真:グラクソ・スミスクライン

HPVはごくありふれたウイルスで、80-90%の女性が生涯で一度はHPVに感染すると推定されています。性交渉の経験があれば男女を問わず多くの人々が感染しうると言われていて、この感染を防ぐためのものがHPVワクチンです。

このワクチンはすでにHPVに感染してしまった状態を治すものではなく、あくまで未然に感染を防ぐものなので初めて性交渉を経験する前に、接種することが最も効果的です。

2013年、HPVワクチンを接種したあとに体の痛みなどを訴える女性が相次いだことを受けて、厚生労働省は積極的な接種の呼びかけを一時的に中止しました。

このとき、接種との因果関係についてはいまほど研究が進んでいませんでしたが、
当時、ワクチンの副作用ではないかという指摘が相次ぎ、大きく報道されました。
また、接種で体の痛みが出たとして、130人の女性が国と製薬会社を相手に治療費の支払いなどを求める訴えを起こしています。

しかしその後、国内外で安全性や有効性に関する研究が進み、厚生労働省は「子宮頸がんを予防する効果のほうが副反応などのリスクよりも大きい」などとして、2022年4月に積極的な接種の呼びかけを再開しています。

新しい「9価HPVワクチン」ってなに? HPVワクチンが3種類に

いま小学6年生から高校1年生の女性を対象に定期接種で使われているのは、「2価HPVワクチン」と「4価HPVワクチン」と呼ばれるものです。
そして、来年(2023年)4月から定期接種に加わることになったのが「9価HPVワクチン」です。

「○価」とは簡単に言うと「○種類のタイプのウイルスを対象にしている」ということを表しています。

2価HPVワクチン

子宮頸がんを引き起こしやすい2種類のタイプのウイルス (HPV16・18)への感染を防ぐためのワクチン。子宮頸がんの原因のおよそ60-70%を防ぐとされています。

4価HPVワクチン

4種類のタイプのウイルス(HPV16・18・6・11)への感染を防ぐためのワクチン。
性器や肛門周辺に、トサカのようなイボができる「尖圭コンジローマ」という病気を防ぐ効果もあります。子宮頸がんの原因となるウイルスを防ぐ効果は2価ワクチンと同程度です。

9価HPVワクチン

9種類のタイプのウイルス(HPV16・18・6・11・31・33・45・52・58)への感染を防ぐためのワクチン。子宮頸がんの原因のおよそ約80-90%を防ぎ、感染予防効果は2価・4価ワクチンより高いとされています。一方、厚生労働省によりますと「安全性については4価ワクチンと比べ、接種部位の痛みや腫れなどが出やすいが、頭痛や発熱、吐き気などの全身症状が出る割合は同程度」と報告されています。

9価ワクチンはいつから誰が接種できるの?

9価HPVワクチン

9価ワクチンの定期接種の対象は、これまでと同じ小学6年生から高校1年生にあたる学年の女性です。
また、積極的な呼びかけが中止されていた8年あまりの間に、接種機会を逃した人(平成9年度から平成17年度に生まれた女性)についても、無料で接種できるいわゆる「キャッチアップ接種」ができるようになります。
いずれも来年(2023年)4月1日からですが、自費であれば、現時点でも接種が可能です。

現段階でのHPVワクチンの対象について知りたい方はこちらをご覧ください。

今の対象者はどうすればいい?来年まで待つ?

9価ワクチンの定期接種化が決まったことによって、かえって「悩ましい」との声も聞かれています。
接種を検討する人や保護者は「いま接種するのがいいか、4月まで待った方がいいか、決めるのが難しい」というのです。

こうした声に医師たちはどう答えているのでしょうか。

10月、若い世代の接種希望者が相次いで訪れている藤沢市の産婦人科に話を聞きに行きました。

産婦人科医 門間美佳さんの説明の様子

この日、高校1年生の女子生徒が病院を訪れていました。

高校1年生の女子生徒

「これまで副反応が出るのではないかとためらう気持ちもあって、接種を迷っていました。でも、定期接種の最後の学年なので接種せずに将来がんになって後悔したくないと思ったので接種することに決めました」

女子生徒が選択したのは「4価ワクチン」。

医師から「9価ワクチン」についての説明を受けましたが現時点では自費であり、このクリニックでは3回接種で約10万円の費用がかかることなどから、4価に決めたといいます。

来年まで待つことも検討しましたが、このクリニックの門間美佳院長は、定期接種の最終学年である高校1年生以上には「接種を先延ばしにしないことが大切」と説明しています。

産婦人科医 門間美佳院長
門間美佳院長

「まず大切なのはセクシャルデビュー前に1回でも接種を終わらせることです。
HPVは主に性交渉で感染するので、9価を待って接種のタイミングを逃してはいけません。4価ワクチンであっても性交前に接種することで、高い予防効果が得られます」

さらに、性交渉を経験していてもワクチンを接種することでまだ感染していない種類のHPVへの感染を防ぐことは期待できるため、早めに接種について検討することが大切だと言います。

一方、門間院長は中学3年生以下で接種の予約をしていた全員に電話をかけ、情報提供を進めています。

「来年から9価ワクチンも無料で接種できるようになる」と説明。
様々な選択肢があることを丁寧に伝えています。

キャッチアップ接種対象者は早めの検討を

取材した日には大学生2人も「キャッチアップ接種」のために来院していました。

21歳の女性は「9価の費用は高すぎる」と無料で接種できる4価を選択。

20歳の女性は「接種するならより良いものを」と自費で9価を接種することを選択しました。

この4週間後、厚生労働省はキャッチアップ接種対象者も9価を無料で接種できるようにするとの方針を示しました。

厚労省に聞く 「9価を待つべき?」「償還払いは?」

厚生労働省 専門家部会の様子

今、接種の対象年齢の人はどうすればいいのでしょうか。
厚生労働省に話を聞くと次のような回答がありました。

厚生労働省

「どのワクチンでも感染予防効果があることは証明されているので、対象となっている人はなるべく早い時期に打てるワクチンを打つことを検討してほしい。すでに1回目や2回目に2価や4価を接種した人については同じ種類のワクチンで接種を終えることを原則としますが、医師とよく相談の上で残りは9価を接種することも可能になります」

一方、すでに自費で9価を接種した人への費用補助などはあるのかと尋ねると。

厚生労働省

「9価の無料の定期接種は来年4月からとなりこれまでは定期接種として認められていないため、キャッチアップ接種の2価や4価で認められているような償還払いは難しいと考えています」

では、9価ワクチンをめぐってまだ検討が続いている課題はあるのでしょうか。

今後の課題① 海外では2回接種?

ひとつは、接種回数です。

国内での9価の接種回数はこれまでの2価や4価と同じ3回となっています。
しかし欧米など外国ではおおむね11歳から13歳ごろの女性に対し、主に9価ワクチンで「2回接種」が推奨されています。

11月8日に開かれた厚生労働省の専門家部会では、「国内でも2回接種を標準とするべき」という意見が相次ぎました。

専門家部会 委員

「痛みのあるワクチンを2回で済むところを3回接種しないといけないのは手放しでは喜べない」

専門家部会 委員

「接種回数が増えると副反応のリスクも増える。一日でも早い2回接種の導入を求める」

厚生労働省はこの部会で、「製造販売業者であるMSD社が9価の2回接種について製造販売承認に向けた申請中である」と明らかにしました。

その上で「承認後速やかに、部会で定期接種の導入に向けた議論を行いたい」としています。

今後の課題② 9価の男性接種は?

もうひとつの検討課題は、男性の接種です。

現在進められている2価、4価、そして来年4月から進められる9価のワクチンについて、定期接種の対象は女性のみとなっています。

このうち4価ワクチンについては男性の接種についても薬事承認されていて、自費で任意接種ができますが、9価ワクチンの男性の接種について国内では現時点で承認がされていません。

専門家部会では次のような意見も出ました。

専門家部会 委員

「性交渉でHPVを女性に感染させないためにも男性も定期接種の対象とすべきだ」

厚生労働省は将来的な9価の使用を念頭に、薬事承認の申請の状況を踏まえながら今後男性へのHPVワクチン定期接種化の検討を進めていくことにしています。

さいごに

来年4月から定期接種の対象となる9価ワクチンについて取材をすると「効果の違いや、接種の対象者などについて、わかりにくい」という声が多くありました。

いつ、どのワクチンを接種するのか、それぞれが適切な判断ができるよう国や自治体にはわかりやすい情報発信が求められます。

ワクチンを接種するかどうかは個人の自由です。
接種を検討する人はかかりつけ医やお住まいの地域に設置されている窓口で相談したり、家族で話し合う場を設けたりしながら、納得のいく選択に近づけていくことが大切だと感じました。

もし検討するにあたって「ここがわからない」「もっとこういう情報がほしい」ということがありましたら、#がんの誤解のコメント欄にぜひご意見をお寄せください。
いただいたご意見をもとに新たに取材をすすめ、可能な限りお答えしていきたいと思います。

この記事のコメント投稿フォームからみなさんの声をお待ちしています。

担当 藤松翔太郎ディレクターの
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みんなのコメント(3件)

質問
ジョー
40代 女性
2022年11月19日
息子にも自費でも良いので大学生になる前に接種させたいと考えています。もっと男性に打ってくれるところのアナウンスをしてほしいです。
また、以前、日本はHPVワクチン接種を忌避し過ぎて、購入したのに使わずたくさん廃棄し、そのせいで全世界でHPVワクチンの需要が高まる中、ワクチンを海外から売ってもらえなくなるのではないか、という報道を見たのですが、供給量の不足という問題は実際にあるのでしょうか?
提言
まりあ
20代 女性
2022年11月19日
私も高校生のときにHPVワクチンの接種の話がありましたが、その時には親に接種を止められてしまいました。
しかし今はHPVワクチンの接種をしていないことを後悔しています。私自身も医療従事者として働くようになり、子宮頸がんは身近なものだと考えるようになったからです。
HPVワクチンのキャッチアップ接種が決定したとき喜びました。が、平成6年生まれの私はその対象には入っていませんでした。接種の副作用が騒がれていた当時高校生で接種対象だったにも関わらずです。
自費で接種を行うことも考えましたが負担が大きすぎなかなか踏み出せません。
対象年齢ももちろんですが、男性への負担補助など政府が更なる接種対象の拡大を行なってくれることを願っています。
質問
大学生
20代 男性
2022年11月18日
対象者の説明画像で、一部自治体では男性接種の補助があるとありますが、そのような自治体ではどんな議論を経て、いち早く補助を始められているのでしょうか。また、男性キャッチアップ接種の議論等を行っている自治体などはあるのでしょうか。