文研ブログ

2019年3月26日

おススメの1本 2019年03月26日 (火)

#177 「北海道胆振東部地震」で拡散した流言

メディア研究部(メディア動向)  福長秀彦

フェイクニュースや流言、デマの研究をしています。去年9月6日の「北海道胆振東部地震」でも数多くの「流言」が飛び交いました。その事例研究を『放送研究と調査』2019年2月号に書きました。

流言とは、推測による根拠のない情報が、人びとの不安や恐怖、怒りなどの感情によって拡散するものです。流言のほとんどは誤報ないしは著しく不正確な情報です。

北海道胆振東部地震で発生した流言は、「全域で断水する」「○○地域でこれから断水する」「○○時から断水する」(札幌市や旭川市、帯広市、小樽市など12市町)、「8日に本震が起きる」、「苫小牧で地鳴りがしているので大地震が起きる」などで、Twitter上で拡散しているのが確認されました。

北海道胆振東部地震による土砂崩れを伝えるNHKニュース(9月6日放送)
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(注)画面逆L字の一部を割愛


「小樽 断水」のキーワードでTwitterの投稿を検索してみると、地震発生の直後には、水を貯めておくなどの用心を呼びかけるツイートが多く、「これから断水する」という投稿は見当たりませんでした。ところが、しばらくすると「断水するらしい」という推測形、さらに時間が経つと「10時半から断水する」という確定的な表現の投稿が現れました。もちろん、いずれも事実無根です。

「8日に本震」のキーワード検索で最初に現れたツイートは、“熊本地震や東日本大震災のように、2日後に本震が起きなければいいが”と単に心配した投稿でした。しかし、このあとすぐに「8日に本震くるの?」という疑問形、「8日に本震くるかもしれない」という推測形のツイートが次々と現れました。また、それらに交じって「怖い」という恐怖感を訴える投稿が多数ありました。SNSは文字で伝えられるので、口伝てに比べて流言が変容しにくいとされていますが、トーンが次第に強くなっていく傾向が窺えました。

自治体やNHKなどのメディアがSNSで発信した、流言を否定する情報には流言の拡散を抑制する効果がありました。否定情報がTwitter上で伝播してゆくスピードは、「8日に本震」「苫小牧で地鳴り」など恐怖感情の強い流言ほど早い傾向が見られました。

放送の逆L字画面に二次元コード貼り付け
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(注)NHK総合テレビ9月6日の放送画面に加筆


北海道胆振東部地震では、大規模停電によって多くの人びとが長時間にわたってテレビから情報を得ることができませんでした。先行研究によると、流言の拡散を抑制する基本は、「正確な情報を十分に伝え、情報の曖昧さをなくすこと」とされています。

NHKはテレビ・ラジオの放送をインターネットで同時配信するとともに、ライフライン情報などのきめ細かなコンテンツをウェブサイトやスマホのアプリでも提供しました。Twitterのツイートにそれらへのリンクを貼ったり、北海道以外の人たちが札幌放送局のウェブサイトにアクセスして、詳しい情報を道内の人たちに伝えることができるようにと、全国放送のテレビ画面に二次元コードを貼り付けたりしました。

北海道胆振東部地震は、ネット時代の流言の拡散抑制を考えるうえからも、重大な災害であると思います。