NHKスペシャル

シリーズ東日本大震災 最後の避難所
~原発事故の町 住民たちの歳月~

震災で2000以上設けられた避難所の中で2年半を過ぎた今も唯一残るのが、埼玉県加須市の旧騎西高校にある福島県双葉町の避難所だ。住民たちは廃校の教室で身を寄せ合って生活してきた。6月、役場機能の福島県内移転を期に、避難所閉鎖へ動き始めた。当初1400人いた住民は福島県内の仮設住宅や親類などを頼り、移っていった。残っているのは、病人を抱えていたり、頼る家族がいなかったり、様々な事情を抱えた平均68歳の107人。住民たちは下駄箱前のラジオ体操で一日を始め、体育館脇で野菜を育て、剣道場で歌い、廃校の空間で「小さな双葉町」を作ってきた。彼らが記録する膨大な写真などからは、ささやかな日常の幸せを求めて懸命に生きてきた姿と事故に翻弄され、深まる傷が浮かび上がる。廃校で仲間と過ごす最後の日々、そして別れ。“最後の避難所”閉鎖までの日々をルポし、原発事故の陰の人間ドラマを描く。

放送を終えて

震災と原発事故から3年が経とうとしています。人々の関心が少しずつ遠のいていることを肌で感じるようになってきました。
今回のNHKスペシャルではまず、とにかく多くの方々に、未だに震災直後と変わらない「避難所」が残っている事実を知ってほしいという思いがありました。その中で、「避難所が2年以上も残り続けた理由」、「住民の方々が廃校の校舎で2年以上も生活を続けた理由」を見ていくことで、ふるさとを追われ今なお原発事故に翻弄され続ける住民が大勢いること、そしてその苦しみは一生背負っていかなければならないということを改めて知ってもらいたい、という思いで番組を制作してきました。
放送日に、最後まで残った住民3人が退去し、今年度中にも避難所は正式に閉鎖されますが、これで「終わり」ではなく、住民同士のつながりさえ失った住民一人一人には、更なる試練が待っています。これは、避難所にいた住民だけでなく、福島県内や全国各地の仮設住宅や借上げ住宅で暮らしている方々、皆さんが向き合い続けている厳しい現実だ、ということを絶対に忘れてはいけないと思います。
今後も、福島局の人間として、「福島の“いま”」を発信し続けられるよう精進したいと思います。

福島局ディレクター
野口翔