NHKスペシャル

シリーズ東日本大震災 住民合意
800日 葛藤の記録

一向に進まない被災地の復興。今その最大の課題が「住民合意」である。被災地各地で今、行政への住民の不信拡大、さらに住民同士が対立する事態が起きている。
震災直後、ガレキ撤去などを1ヶ月で終えるなど復興のトップランナーだった宮城県名取市。しかし町づくりの議論が始まると、復興は進まなくなった。住民の合意形成が進まず、計画を根底から見直すべきだとの声まで上がっている。さらに「現地再建」や「集団移転」など様々な主張の住民団体が結成され、分裂。市はそうした状況下で現行案にこだわり、復興に向けた話しあいは膠着してしまう可能性をはらんでいる。しかしその中でも、なんとかしたいと考える住民が現れ、「意見の違いをこえて話あいの場を持とう」という自発的な動きも出始めた。
どうしてもぶつからざるをえない利害や思い。今後は土地の権利移転を含むさらに困難な課題が待ち受けている。合意はいかにして可能になるのか。何が鍵となるのか。復興への道に立ちふさがるこの難題を、長期取材を続けてきた名取市のドキュメントを通して、考える。

放送を終えて

私たちがふだん使う「復興」ということば。その難しさを骨身にしみて感じた日々でした。名取市閖上地区は、津波で700人以上の犠牲者を出しました。壊滅した街を一から作り直すという、これまで誰もやったことのない大事業。それをさらに難しくさせたのが、住民一人ひとり被災状況が異なる、という事実でした。家族が行方不明の人。大切な人を亡くし心に傷を抱えた人。家やなりわいをなくし生活再建を急がねばならない人。それぞれが向かおうとする先は一つではありません。そうした中、みなが暮らす街をどうするのか?それを住民がどう合意していくのか?番組は、その記録でした。
番組は、合意の難しさが目立つものとなりました。しかし、これは復興という長い道のりの途中経過に過ぎないと思っています。先日、ある住民が『俺の望みは、ただ新しい町で昔と同じようにみんなでバーベキューがしたいだけなのに』と話していました。誰もが、閖上(ゆりあげ)という街を大切に思いながら、なかなか前に進めない日々。いつかこの葛藤の日々が、むしろ前へと進むために大切なプロセスだったと思える日まで、この記録を続けていきたいと思っています。

ディレクター 大野太輔