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中村松夫さん

  • ポジぃちゃん図鑑

70歳、踊る

【70歳、踊る。】
そのじいちゃんは、70歳にしてキレッキレのダンスを踊る。同世代からは、憧れの眼差しを向けられる。
ボールルームダンス、いわゆる社交ダンスの競技に出場する現役選手なのだ。

中村松夫さん、昭和23年に福島市生まれの70歳。今も工場で、旋盤の熟練工として働いている。
松夫さんは、中学の時に父親を亡くし、進学を断念。工場でハンマー振りやヤスリがけの仕事をはじめた。鉄くずと油にまみれる辛い仕事に、誇りを持つことが出来ない日々が続いた。
ある日同僚が汗を流して、一生懸命仕事する姿を目撃する。素直にキレイだな、と松夫さんは感じた。
以来、辛い仕事への向き合い方が変わった。辛い仕事を乗り越えて、辛いと感じないようになるまで頑張った時に、はじめて人間として一歩前進できるのだと、感じるようになった。
30代で競技ダンスに出会う。仕事と同じように辛いダンスは、松夫さんの眼にはとても魅力的に映った。
「辛いから楽しい。辛いから、今まで続けることができたんだ」

2017年まで、原発事故の影響で避難区域だった、浪江町。原発事故まで、松夫さんが通うダンス教室は、ここにあった。久々に訪ねた松夫さん、仲間と切磋琢磨した日々が思い出されて、こらえても涙が出た。
もしも、原発事故が無ければ・・・。でも、松夫さんはポジぃちゃん、そんな後ろ向きなことを考えたりしない。
「起こった事は仕方ない。前進あるのみ。仕事だってそうだ。失敗しないってことはないんだから。やってない人は失敗もしないんだ」
何かをやれば、失敗したり、時には悲しい出来事に直面することだってある。でもやらなきゃ失敗すらできない。

4月、東北最大のダンス競技会が開かれた。選手として出場する松夫さんは、20代、30代のライバルと競い合う。出場した80組は、どんどんと予選で姿を消していく中、70歳は頑張った。最後の6組が踊る決勝に駒を進めた。そして、結果は3位。次の大会からは、ひとつ階級をあげて、B級での闘いになる。
「もっと上を目指したい、A級。どや?」
70歳、限界なんてどこにもない。

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