ものがたり

会津地方

大塩温泉の三瓶さん、横山さん、カツイさん

  • 嗚呼!絶景

温泉は2度湧く

全国でも有数の豪雪地帯、奥会津の金山町大塩地区。
250人ほどが暮す小さな集落に、ぽつりと佇む共同浴場がある。

この温泉を目指し、毎朝決まった時間に現れる一人のおばあちゃんがいる。
星カツイさん、御年86歳。

赤い帽子に紫のサングラス、リュック姿がカツイさんのいつものスタイルだ。
一番風呂に入るため、1.5キロの道のりを軽快な足取りで進む。
集落の人たちにとっておなじみの光景だ。
「この温泉があるために、散歩もできる。調子もいい。ごはんはうまい!」
生活の一部になっている大塩温泉。
これまで消滅の危機が何度もあったが、その都度、集落の人たちによって守られてきた。

大塩温泉は、明治の半ばに整備され、集落の人みんなが利用する共同浴場だった。
温泉があるから、ほとんどの家には家庭風呂はなかった。
みんなの社交場。子供たちの遊び場だった。
しかし昭和6年、戦費がかさむ中で、所有権を国に召し上げられてしまう。
「みんなの温泉を守り抜かなければならない。」
集落の人々は団結し、大金を借金で工面し温泉を買い戻した。

戦後復興期、さらなる危機が大塩温泉を襲う。
電源開発のためダムが建設され、温泉は川底に沈むことになってしまったのだ。
それでも集落の人々は諦めず、ダム湖のほとりを掘削。
温泉を掘り当て、共同浴場を新たに整備した。

60年後、奇跡の物語が待っていた。
2011年に大塩地区を襲った、新潟・福島豪雨。
甚大な被害が出る一方で、人々を驚かせることが起きる。
ダムが決壊し、川の水位が下がったことで、川底に沈んだ集落みんなの共同浴場が姿を現したのだ。
かつての湯船や柱は、当時のまま残っていた。

「感激ですよ!もう二度と見られないと思っていましたから」「鳥肌出てきちゃったな…本当に…」
共同浴場の湯守を務める三瓶修児さん、当時の温泉組合長の横山道伸さんらが口々に言う。
驚いたことに、温泉そのものも昔と同じ勢いで湧き続けていた。
大塩の人たちは、ガレキを取り除き、湖底に沈んだ温泉を復活させる。
ダムが復旧するまでの3年間、人々は懐かしい露天のお湯を楽しんだ。
「勇気づけられた。元気づけられた。これから張ってやれよってことだと思ったね…」
温泉が姿を現したのは、先人からの励ましのエールだと感じたという三瓶さんや横山さん。
温泉は、災害に見舞われた集落の人々を支えたのだ。

湯と共に生きてきた大塩の人々。
「最高だな、最高。おれのお風呂だ、これが」
カツイさんは今日も朝から一番風呂へ向かう。