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静岡食の応援団 こだわりグルメ「旬の会」1万5000人以上参加 その秘密は?

  • 2024年04月04日

こだわりが詰まった厳選グルメ。食材の宝庫といわれる静岡の食の応援団としてあるグループが10年以上にわたって活動を続けています。通称「旬の会」。富士山や駿河湾といった自然に育まれたおいしいものを楽しみながら、生産者と飲食店、それに消費者を結びつけています。これまでに1万5000人以上が参加。なぜそんなに続くのでしょうか?

“応援するだけでいい!”

「旬の会」の正式名称は、「ふじのくにの旬を食べ尽くす会」。614回目の開催となったこの日は、静岡市清水区のうなぎ店で開催。生産者を含めおよそ15人が参加しました。責任者の岩澤敏幸さん(64)は冒頭、参加者に呼びかけました。

「旬の会」岩澤敏幸さん(右)

(岩澤さんあいさつ)「食べること、飲むこと、静岡が好きな方なら、だれでも参加できます。みなさんは食べて、飲んで、応援してくれるだけでいいんです」

うなぎパイ

料理には、ふだんのメニューにないものも。特製のタレを使った本物のうなぎ入りのうなぎパイなどが提供されました。食事の合間には一人ひとりが近況報告や活動のPRを行い、会話のきっかけを作っています。

広がる食の輪

月に1度、県内3か所を中心に開催する「旬の会」。2010年の発足以降、参加者は延べ1万5000人を超えています。生産者と料理人、そして消費者が参加しながら、食の輪が広がっています。

生産者も料理人も一生懸命になる

岩澤さんは、静岡市駿河区の料亭に足を運んでいました。旬の会開催の打ち合わせです。

どんな食材を使うのか、メニューを考える上で会いたい生産者はいるか、念入りに確認していました。旬の会には消費者だけじゃなく、食材を提供する生産者も参加するのが大きな狙いです。

料亭2代目の大村健太さん(左手前) 岩澤さん(右)

(岩澤さん)体に入れるものはいいものじゃないとだめじゃないですか。だから頑張っている生産者を応援したいんです。生産者が会に参加すれば、自分がつくったものがどんな料理になるか励みになります。飲食店も生産者が来ているとなれば、一生懸命腕を振るいます。そうして連携が生まれるんです」

“県産食材で店の方向性変えたい”

この料亭は、これまで法事や葬儀の会食で利用されることが多かったといいます。しかし京都で修行した2代目になって、店の方向性を変えようとしています。料理そのものを食べに来る店にしたいと考えています。

2代目の大村健太さんは、豚肉に県産のよいものはないか、おいしい野菜はどこか、ノンアルコール飲料は何がお勧めか、岩澤さんに次々と質問し、食材が決まって行きました。

料亭2代目 大村健太さん

(大村さん)県産の食材にはストーリーがあります。それを京風にアレンジして、静岡ではなかなか食べられない料理を開発したいと思っています。生産者と顔をあわせることで、気持ちが入るし、半端な仕事はできません」

県OB “行政じゃ無理”

藤枝市の山あいで育った岩澤さん、父親が猟をしていたため、猟犬や猫など動物に囲まれ、山と川で遊んでいたそうです。

子ども時代の岩澤さん

大学卒業後には畜産獣医師として県に就職。作業を手伝うちょっと変わった公務員として畜産農家や養蜂農家などと関係を深めたといいます。

(提供:岩澤敏幸さん)

退職の9年前、経済産業部に所属していたとき、県政の柱の1つに「食の都づくり」がかかげられ、「静岡の食材を食べるぞ!」と始まった県職員の飲み会の幹事を任されました。しかし、行政は縦割りで肉、野菜、魚などは別々の部署が担当するなどしていて連携が深まらなかったそうです。それでも1人で活動を続けるうちに民間企業や飲み仲間が参加し、今の「旬の会」の形になりました。岩澤さんは退職後も活動を続けています。

「旬の会」岩澤敏幸さん

(岩澤さん)「自分が食べること、飲むこと、人が好きだったので、本当にいいことだと思ったんです。この人が作った農産物だから、この人が調理した料理だからを大切にしたくて続いているんです」

豚熱からブランド化?

店の方向性を変えたいという静岡市の料亭に勧めたのは、富士宮市の農場で飼育された「三元豚」の肉です。

農場の3代目、瀧下貴之さんが岩澤さんの協力を得て、3年前に「EーREX(いー・れっくす)」と名付け、ブランド化しました。

瀧下さんの農場 (提供:瀧下貴之さん)

そのきっかけは、2019年に静岡県内で野生のイノシシで確認されたブタの伝染病=豚熱。当時、保健所の所長だった岩澤さんがワクチン接種のために農場を訪れ、「自分ところの豚は食べたことがあるか」と瀧下さんに問いかけました。エサと飼育環境を見て、おいしい肉だと思ったからだそうです。

(瀧下さん)これまで食べたことがなかったので、肉には何の評価もありませんでした。でも目が届く環境で育て、工夫した自家配合のエサを与えていたので自信はあったんです」

うまみは溶ける温度

みずから育てた豚を食べたことがなかったという瀧下さん、その味について調べ始めました。

(提供:瀧下貴之さん)

岩澤さんの紹介で県立大学の食品栄養科学部に分析を依頼すると、脂が溶け始める温度が平均で26.2度と一般的な豚の肉と比べると、2度以上低く、溶け終わる温度は6度近くも低いことがわかりました。脂の甘みが瞬時に口の中に広がり、あっさりとした味わいになることがデータでも裏付けられたそうです。大学生約10人に4種類の豚肉を食べ比べてもらっても、いずれも1番の評価だったといいます。

飲食店と直接、取り引きへ

これまで横浜市の食肉処理場に出荷し、だれの手にわたり、どんな料理になるのか全くわからなかったという瀧下さん。今では「旬の会」を通じて10軒以上の飲食店などと直接取り引きしています。

瀧下貴之さん(左上)

(瀧下さん)こだわって育てた豚を、こだわって料理にしてくれる料理人たちに出会えて本当によかったと思っています。これは営業ではなく、もうけなくてもいい。おいしかったというひと言が自分のプラスになっています。次の目標も生まれています」

妻の仁美さんは、ハムやベーコンなど、生産から加工、販売までを行う「6次産業化」を2年前から手がけています。イベントでの販売も始めました。

(仁美さん)「お客さまとの距離が近くなるなど、これまでと違う形で消費者に届けられる道ができたのは本当にありがたいです。なにより、いろんな人とのつながりが増えたことがよかったです」

瀧下貴之さん(右) 妻の仁美さん(左)

“こだわりがこだわりを呼ぶ”

瀧下さんの肉を扱う静岡市の飲食店の佐野正一さんは、生産者のこだわりを大切にしたいといいます。

佐野正一さん

「(佐野さん)豚肉は胃に重いというお客さんが多いので、少しためらいましたが、この肉は重くないんです。それに、豚に対する思い、育てることへのこだわり、そこに共感できました。いろんな料理で死ぬまで使う気でいます」

岩澤さんは、「ヒントは異業種の交流から生まれる」と、生産者と料理人をつなぐ意味を見いだしています。

お茶 生産県でなく文化へ

次に紹介したのは、島田市で67年続く製茶会社の「ボトリングティー」。ワインのように楽しんでもらおうと開発されました。

お酒を飲まない人にも満足できるものを提供したいと、大村さんが試飲を希望しました。「旬の会」で使うかどうか決めるためです。

ボトリングティーを試飲 香りと味に驚いたようでした

4代目の小松元気さんは、5種類を用意。地元のお茶を大井川の水を使って丁寧に抽出し、香りや味をじっくりと味わってもらえるお茶だとアピールしました。

4代目の小松元気さん(右)

数々の賞を受賞している「ボトリングティー」。味や香りはもちろんインパクトを感じてもらえると、複数のお茶を提供することになりました。

(岩澤さん)京都の人はお茶にお金を払ってくれます。でも静岡ではお茶はただ。まだまだお茶の生産県でしかありません。いいものがいっぱいありますから、生産県を脱却し地域の文化にしていきたいと思っています」

ライフワーク “人が財産”

岩澤さんは、「旬の会」以外にも、その土地の食文化を楽しんでもらうことで地域の活性化を目指す「ガストロノミーツーリズム」にも携わっています。県内のあちこちに広がる人脈。すでにライフワークになっています。

島田市のレンタルきもの 小澤京子さんと一緒に

(岩澤さん)「食というキーワードを通じて、業種や肩書きに関係なく、いろんな人が集まってくるのがおもしろいです。多くの人と仲よくなれたのが財産です。これからは県外にもどんどん出て行って、静岡の食材を知ってもらいたいと思っています。目標はとりあえず1000回、もうすぐですけどね」

こだわりを楽しむ人たちが集う「旬の会」。草の根的に続くのは、その思いが料理となって多くの人に伝わっているからかもしれません。

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  • 長尾吉郎

    静岡局 ニュースデスク

    長尾吉郎

    1992年NHK入局
    初任地大分局で釣り覚える
    報道局社会部・広報局など
    ヤエンによるイカ釣り好き

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