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春休み 桜の花を“石の博物館”で楽しむ? 桜石 自然の不思議

江戸時代から知られた不思議な石「桜石」 奇石博物館と木内石亭 富士宮市
  • 2024年04月01日

桜の季節到来!華やかで気持ちも高まりますね。ただ開花は短く、はかなさも。でも何万年ものあいだその花びらの形をとどめた“石”があるそうです。その名も桜石(さくらいし)。京都府の産地では古くから不思議な石が出る場所として神社が建てられ、国の天然記念物に指定されています。
桜のシーズンにあわせ、その不思議な石が展示されている富士宮市の奇石博物館を訪ねました。

いざ富士宮市の奇石博物館へ

奇石博物館からみた雄大な富士山

3月下旬。奇石博物館を訪ねました。富士山はまだ多くの雪をかぶり、青空に白く輝いています。その裾野、標高およそ500mにある奇石博物館は、まだ寒さが残ります。

富士宮市山宮にある奇石博物館

石の桜は暖かい博物館の中にありました。入口を入ると、さっそく所せましと多くの化石や水晶などの貴重な鉱物が出迎えてくれます。その部屋の一角に展示されていました。

これが桜石(さくらいし)

桜石

こちらが桜石です。本当に花びらの形をしています。桜の花よりも小さく、1センチに満たない大きさです。色も均一ではなく、形も同じではありませんが、もしや花びらの化石?なんでしょうか。

採取は昭和60年 歴史を感じる標本資料です
桜石の花びらは6枚

形にばらつきもありますが、中には桜の花そっくりのものもあります。中心から放射状に6枚の花びらが付いて…あれ?…6枚?
ソメイヨシノなどの花びらは5枚ですから1枚多いですね。

石の色もさまざま。ピンク色というよりオレンジから黄色っぽい色をしています。
ただ、鉱物としてはスミレ色(青紫色)に分類され、菫(すみれ)の漢字をあてた菫青石(きんせいせき)に分類されるそうです。

産出されるのは日本だけ

桜石の含まれた岩石が展示されていました。

産地:京都府亀岡市稗田野(ひえだの)

黒い岩石の中に黄色っぽく見える、長さ数センチの円柱状のものが桜石だそうです。どうも花の化石ではなさそうです。この円柱の断面が花の形をしています。金太郎あめのように、パキッと折ると花びらの形が現れます。

現在確認されている産地は日本だけとのこと。形だけでなく、その点でも日本らしい石なんですね。

奇石博物館展示パネルより(データ:益富地学会館)

展示では、この形がどうして生まれるのか解説したパネルも展示されていました。

成り立ちには諸説あるようですが、地中の深いところで圧力や熱を受けた岩石の中で、まず六角柱状の核ができ、そこから同じ化学組成を持つ菫青石が細長く成長。その後、菫青石が熱水などによってキラキラ輝く雲母(うんも)や粘土鉱物に置き換わってできるそうです。

中心の小さな核から縦、横と円柱状に成長するので、厳密には金太郎あめではなく、切る場所によって花びらの形や、中心の円の大きさが違うんですね。

この桜石、国内で何か所か産出する場所がありますが、特に京都府中西部の亀岡市薭田野町柿花(かいばな)地区の一帯から産出される桜石は酸化鉄のため、淡紅色が発色。桜の花びらに似るため「薭田野の菫青石仮晶(ひえだののきんせいせきかしょう)」という国の天然記念物に指定されています。

桜石 江戸時代の石の愛好家も魅了

不思議な断面を持つ、かわいらしい石。このような話を伺うと、石がとても不思議でありがたいものに感じてきます。でもそう感じるのは私たちだけではありません。京都にある産地の神社には古くからこの石の伝説や言い伝えが残され「桜天満宮」という神社も建てられています。

日本最古の岩石・鉱物の専門書「雲根志(うんこんし)」

江戸時代中期に書かれた日本最古の岩石や鉱物の専門書「雲根志」にもこのような記述があります。

「雲根志」桜石に関する記述

「柿花村という小村ありて、山の麓に天神の小祠あり。当社の境内山中残らず櫻石なり よって櫻の天神と号す。全体青し、砕く時は破れ肌に銀色にて、指頭の大きさなる花形石中にあり」
木内石亭 『雲根志』より

(訳)
柿花村(かいばなむら)という小さな村があり、その柿花の天神山のふもとにある寺の境内に「桜天満宮」と呼ばれる小さな祠(ほこら)があります。
その桜天満宮周辺の至るところに桜の形をした「桜石」が見られます。したがって、そこでは「桜の天神」と言われています。

石全体としては紫がかった青色で、割って表面を見ると、銀色をした指先くらいの大きさで花の形をしたものが見られます。

江戸時代には石の愛好家も魅了される石だったことがわかります。

奇石博物館と「雲根志」木内石亭

木内石亭(1725~1808)奇石博物館提供

実はこの『雲根志』を執筆した木内石亭(きうちせきてい)こそ、「奇石(きせき)」という名前の生みの親なんだそうです。

いまでこそ化石が古い生き物の名残であることや、岩石の分析が進み、不思議な形の石のなりたちがわかってきましたが、江戸時代中期はまだまだ石は謎に満ちた存在です。

まんじゅう石(ギブサイト アルミナ球顆)

おまんじゅうにそっくりな石をそのまま「まんじゅう石」と名付けたり、サメの歯の化石は「天狗(てんぐ)の爪」だと考えられていました。当時の人にとって奇石はまさに奇跡の産物だったんでしょうね。

お菓子の石についての記事はこちら↓
"お菓子"なスイーツ激似! 不思議な石の博物館

奇石博物館は、専門の学芸員を置く岩石や鉱物の博物館ですが、木内石亭のように、すなおに石を見て想像力をふくらませて石に興味をもってほしいと、「奇石」の発想を基本にして展示に工夫をこらしています。

木内石亭 生誕300年 
いま石や鉱物に熱い視線が!

その木内石亭。ことしは生誕300年の節目の年だそうです。博物館では新年度から年間を通して木内石亭の企画展を開催するそうです。彼が生涯を通して魅了された石のワンダーランドはどんな形で展示されるのでしょうか?

大勢の人が訪れる東京のミネラル(鉱物)ショー

木内石亭の誕生から300年。実はいま、改めて水晶を含む岩石や鉱物などの石に注目が集まっています。ネット上ではオークションなどで活発に鉱物の取引きが行われ、各地で開催されている“ミネラルショー(Mineral Show)”という宝石や鉱物の大規模な展示販売会には多くの人が訪れます。

販売されていた3センチほどのオパール

近年、コレクションから興味を持った石や鉱物のファンが富士宮の博物館を訪れるケースも増えているそうです。
特に、水槽の砂利の中から宝石を探す体験ができる「宝石わくわく広場」は大人気。水晶やジャスパー、ガーネットなど40種類以上の石が入っていて、見つけた石は持ち帰ることができるため、子供だけでなく、大人まで夢中になってしまうそうです。

「宝石わくわく広場」奇石博物館提供

春分の日(3月20日)には行列ができるほどの賑わいで、例年、春休みには多くの人がこの施設を楽しみに博物館を訪れるそうです。

桜石の解説してくれた森井健士郎さんと北垣俊明副館長

石や鉱物のファンが増え、博物館に足を運ぶ人も増えている状況に、北垣副館長はぜひ自然にも足を運んでほしいといいます。特に山からの岩石が小石となって広がる河原は石を観察するのにもってこいの場所だそうです。

「静岡県は東から狩野川、富士川、興津川、安倍川、大井川、天竜川と大きな川がたくさんあり、川ごとに石の種類が違います。川を歩いて好きな石を拾い、いろいろと想像を膨らませてぜひ石の宇宙を楽しんでほしいです」(北垣副館長)

桜が咲いたら本格的な芽吹きの季節。生き物も活発に動き出します。桜石も自然の不思議ですが、ぽかぽかの日差しのもと、河原で石の不思議や魅力に触れるのも楽しそうですね。

  • 田中 洋行(たなか ひろゆき)

    NHK静岡 アナウンサー

    田中 洋行(たなか ひろゆき)

    大学時代は海洋生物を専攻。もともと生き物の進化や自然史には興味がありましたが、最近は人を含めたさまざまな歴史に興味が出てきました。
    知識が増えて縦軸と横軸がつながると世界がより豊かに見えてきますね。

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