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【解説】うなぎ2023 なぜかば焼き? 世界の文化とグルメは?

“ウナギスト”静岡県南伊豆町 髙崎竜太朗研究員に聞く
  • 2023年07月10日

日本のみならず世界のうなぎを調査している自称“ウナギスト”の髙崎竜太朗さん。静岡県南伊豆町の研究機関で、うなぎの完全養殖を研究しているうなぎの専門家です。大学生のころから各地を飛び回り、うなぎに関わる文化や歴史・伝説、グルメなどを調べています。なぜうなぎはかば焼きになったのか、世界ではどういった食べ方があるのか、おなかいっぱいになるまで聞きました。土用のうしの日に、うなぎのうんちくを語りたい方は必見です!

水産研究・教育機構 水産技術研究所の髙崎竜太朗さん

うなぎを食べる文化はいつ始まった?

日本でうなぎを食べるようになったのは、少なくとも縄文時代だと考えられています。全国各地の縄文時代の遺跡およそ130か所からうなぎの骨が見つかっています。川でモリのようなもので刺して捕まえていたのではないでしょうか。当時はしょうゆやみりんはありませんから、かば焼きではなく、塩焼きだったのかもしれません。(髙崎竜太朗さん)

かば焼きになったのはいつ?

かば焼きのたれは、江戸時代に完成したと言われています。当時はいろんな文化が発展した時期で、文献も数多く残されています。研究者などによると、それまでは塩やみそで食べただろうと推測されています。現在のようなうなぎ専用の包丁はなかったので、最初はぶつ切りにして食べたようです。

なぜ かば焼きに?

江戸時代の1700年ごろには、しょうゆやみりんの発達もあり、現在のかば焼きに近い味になったと考えられています。江戸の文化と言ってもいいのではないでしょうか。かば焼きの由来は諸説ありますが、うなぎをぶつ切りにした姿が蒲(がま)の穂に似ているために、蒲焼きになり、漢字はそのまま使われ、かば焼きになったというのが通説です。

がまの穂

うなぎは皮が一般的な魚と比べると厚いため、味をしみ込ませるのが難しく、工夫した結果、今のようなかば焼きの切り方になったのではないかと推測されています。ただ文献情報は断片的ではっきりさせるのは難しいんです。

かば焼きには なぜ関東風と関西風?

正直はっきりとしたことは分かっていません。説としては、関東風の蒸した方が『ふっくら大きく見える』『こげめが少ない』といった見栄えが良いこと。 また江戸っこはせっかちで、『素早く提供できる』ほか、『保温性に優れている』として蒸す方法が好まれたといういくつもの説があります。

うなぎの珍しい料理は?

福岡県柳川の「せいろ蒸し」。全国的にはあまり知られていないかもしれません。しっかりと焼いたうなぎを最後にごはんと一緒にせいろで蒸しています。ごはんにはあらかじめたれで味が付けられていて、そこにうなぎの油が染み渡っています。関東風の蒸しと関西風の焼きのいいとこ取りです。

柳川のせいろ蒸し(提供 髙崎竜太朗さん)

うなぎの刺身も珍しい部類に入ると思います。うなぎの血には、イクチオヘモトキシンというたんぱく毒があります。熱を通せば大丈夫ですが、刺身にするのは、血をきれいに抜く必要があり、職人技が必要だそうです。

浜松のうなぎの刺身(提供 髙崎竜太朗さん)

各地のうなぎを食べない伝説

髙崎さんが大学生のときから調べている得意分野だそうです。日本には群馬県や埼玉県、東京都、岐阜県、山口県など各地にうなぎを食べないしきたり、風習があるそうです。多くは、うなぎを使者などとする虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)に関係しているということです。

宮城県登米市の奥州柳津虚空藏尊(提供 髙崎竜太朗さん)
ここの関係者は土用の丑にはあなごを食べるそうです(提供 髙崎竜太朗さん)

群馬県高崎市の抜鉾(ぬきほこ)神社には、こんな伝説があるといいます。

群馬県高崎市の抜鉾神社(提供 髙崎竜太朗さん)

「ウナギ伝説」(抜粋)

天然痘にかかった2人の子どもの父親が夢の中で、老人から『子どもの天然痘を境内のうなぎを身代わりにして治してやろう』というお告げを受けて、実際に竹筒の中で飼ったところ、うなぎの全身が天然痘にかかったようになり、子どもたちは回復した。

このほか、「洪水を大きなうなぎが身をていして防いだ」とか「主の大うなぎを食べたら、たたりが起きた」という言い伝えが各地にあり、その地域に限ってはうなぎを食べない人もいると言われているそうです。

世界のうなぎは?

うなぎの定義をウナギ属とすると16種類。このうち3種は2つの亜種にわかれているので、全部で19種類のうなぎがいるそうです。ニホンウナギは日本や韓国、台湾などに生息。ヨーロッパにはヨーロッパウナギ、アメリカにはアメリカウナギがいますが、インドネシアを中心とした熱帯地域にはたくさんのうなぎの種類が生息しています。インドネシアだけでも6種類はいるとみられるということです。

インドネシアには模様があるうなぎも(提供 髙崎竜太朗さん)

そもそも うなぎはどこで生まれた?

ウナギ属の起源は、インドネシアのボルネオ島付近と言われています。 そこから派生した1種がニホンウナギとなったと考えられています。現在の大陸がまだ今のような場所にない1億年前ころに、祖先の種の一部が西に移動して、ヨーロッパウナギやアメリカウナギに進化していったと考えられています。このためアメリカの西海岸ではうなぎはみられないんですよ。

世界のうなぎグルメ

欧米ではくん製で食べることが多いそうです。イギリスにはウナギゼリーとも呼ばれるうなぎの煮こごりがあります。うなぎをぶつ切りにして香辛料で煮込んで冷やす、うなぎのコラーゲンがたっぷりだそうです。

イギリスのうなぎゼリー(提供 髙崎竜太朗さん)

フランスには赤ワイン煮。イタリアには南蛮漬けがあります。アジアだとエスニック煮などがありますが、かば焼きが知られているため、現地のうなぎを使ったかば焼きも食べられているということです。なんと、インドネシアではシラスウナギのかき揚げもあるそうです。日本なら、どれだけの値段になるんでしょうか。

インドネシアのシラスウナギのかき揚げ(提供 髙崎竜太朗さん)

世界のうなぎの資源は?

ヨーロッパでは日本と同様に、資源が非常に枯渇しているということです。

スペインには、シラスウナギから少し成長したクロコと呼ばれる稚魚を食べる文化がありましたが、今では見られなくなり、日本で言えば、カニカマのようなうなぎのかまぼこが流通しています。漁を禁止したり、漁獲制限を行ったりしている国が目立ちます。

アジア圏では、フィリピンやインドネシアでシラスウナギなど小さなうなぎの輸出を禁止するなどしていますが、今のところ、資源はまだまだあるようです。中国では日本にニホンウナギのシラスウナギを売り、養殖はアメリカウナギなども使って、育ったら日本や中国国内で消費するというマーケットができあがっています。

インドネシアのうなぎでかば焼きに挑戦(提供 髙崎竜太朗さん)

うなぎの魅力は?

日本人には食べ物、特に魚としてはトップレベルに愛される一方、神の使いとしてまつる地域があること。また、河川や生態の研究では、海から山まで生息するウナギは海と川のつながりを守ろうというシンボルとしての役割もありそうです。謎は多いけれど、多くの方々の純粋な興味や経済的な興味によって、ほかの魚以上に色んなことが調べられ、この先も色んな広がりがありそうです。ウナギストにとっては、もったいないぐらい魅力だらけの最高な恋人ですね。(髙崎竜太朗さん)

うなぎを愛する“ウナギスト”の髙崎竜太朗さん 

まだまだ、知りたいことはたくさんあります。髙崎さん、またお願いします!

  • 長尾吉郎

    静岡局 ニュースデスク

    長尾吉郎

    1992年NHK入局
    初任地大分局で釣り覚える
    報道局社会部・広報局など
    ヤエンによるイカ釣り好き

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