【被災地の声】輪島市渋田町 出口彌祐さん 妻と長男を探し続け… 「ごめん、だけど、ありがとう」能登半島地震
- 2024年02月01日
2024年1月1日に発生した、石川県能登半島地震。
2月1日午後2時の時点で、石川県内で「災害関連死」の疑いを含め、240人の死亡が確認されています。
こうした状況の中で取材にこたえてくださった被災者の方たちがいます。
輪島市渋田町の出口彌祐さんの声です。
輪島市渋田町家族4人で集まろうと
話を聞かせてくれたのは、輪島市渋田町の出口彌祐さん(77)です。
出口さんは妻・正子さん(74)と一緒に、毎年の正月、2人の息子が帰ってくるのを楽しみにしていました。
長男の博文さん(49)は年に2回、次男は年1回、お正月のときだけ。それが家族4人の時間でした。
出口さん
「妻もなんかかんか文句言いながら、何しようかとか言って、いろいろ楽しみにしていつも待っていました」
地震があった日、正子さんは夕食の準備をしていたといいます。
「もう田舎料理ですよ。子どもらが小さい時から食べていたようなものばっかりですけど、素朴なものですけれども、やっぱり“おふくろの味”と言うんですか、それを楽しみにしながらくるんだろうと思いますけどね」
出口さんは、妻と長男を自宅に残し、市内のバス停まで帰省してきた次男を車で迎えに行きました。
そこから戻る時でした。大きな揺れに襲われました。
出口さんは、自宅にいた正子さんと博文さんの無事を確認しようとしましたが、連絡が取れません。
道路は土砂で寸断。
次男と歩いて自宅に向かったということです。
妻が残した笛が
倒壊する建物の間や田んぼを通り抜けてようやくたどりついた自宅。
その姿は、裏山の土砂崩れによって原形をとどめないほどに押しつぶされていました。
出口さんは、2人が生きていることを信じ、手に持っていた笛を吹き鳴らしたといいます。
それは、妻の正子さんが「何かあったときに、助けを求めるために使う」と言って、車の中に備えていたものでした。
何度鳴らしても反応はありません。
それでも諦められず、笛を鳴らしては手がかりを見つけるため付近を歩き回るしかなかったということです。
「ぼう然とするばかりで、何もできなくて悔しかった」
出口さんは当時の状況を振り返ります。
誕生日が過ぎても…
その後も、道路の寸断で重機が使えずに捜索は難航。
1月16日になって、妻と長男とみられる2人が遺体で発見されました。
身元はなかなかわからず、1月29日に取材した際、出口さんはこう話していました。
出口さん
「もうそろそろ2週間ぐらいになるので、もうすぐかなぁとは思っていて、今週中にはあるんじゃないかなと思ってるんですけど…私はわかんないんで、もっと長引くのか、どうなのか、待ってるところです」
しかしその後、遺体は2人であることが確認されたということです(※2月1日追記)。
妻の正子さん妻の正子さんは、1月11日が75歳の誕生日でした。
「お正月は妻の作る料理を楽しみに毎年必ず、家族4人で集まっていた。おいしいものを食べさせてもらったおかげでいままで健康でいられた。50年つきあってきてけんかもしたことないし幸せでした」
「ごめんねと言うしかないね…助けられなくてごめんなさい。だけど、今までありがとう、と言うしかない」
出口さんは、目元を何度も拭っていました。
「そろそろ田舎に帰ってこないか」
長男の博文さんのことも、話してくれました。
出口さん
「おとなしく優しい子で、よく顔が私とそっくりだと言われていました」
長男の博文さんは“団塊の世代”の子どもの世代。
大みそかの日には、一緒にお酒を飲みながら、これからのことについて話していました。
「私はもう歳なんで『そろそろ田舎に帰ってこいよ』『帰ってきたら仕事いっぱいあるから』と冗談半分に言ってたんだけれども、『いやーまだなぁ』といって、本人は今の仕事はやりがい持ってやっているような雰囲気でした。『父ちゃん、1000万円くれたら俺も帰ってきてもいいよ』なんて、冗談言っていましたね」
インタビューの途中から、出口さんは涙を流したままでした。
博文さんのことを聞くと、途中で言葉を詰まらせながら、こう答えてくれました。
「人生100年ですから、長男もこれからだもんね。能登に帰ってきて一緒に何かやれればよかったかなぁとは思いますね。会社に定年もあるんだから、いずれは帰ってくるもんだと思ってますからね。一緒に人生を楽しめればよかったんだけどね…仕方ないですね…」
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