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奥様?ご主人?なんと呼べば・・・100年前からの悩み!?

  • 2023年10月06日

「配偶者のことを、人との会話の中で、なんと呼んでいますか?」
そんな疑問が、マチコエ取材班に寄せられました。

奥様? ご主人? 旦那様? 他にいい呼び方はあるのでしょうか?
記者も長年感じていたモヤモヤを、取材しました。

私は奥様? 疑問の発端は1本の電話

NHKに配偶者の呼び方について質問を寄せた、愛知県豊田市に住む古久保裕美さんです。
古久保さんが配偶者の呼び方について疑問に思ったきっかけは、1本の電話でした。

古久保さん
「電話でセールスの人から、『奥様ですか?』と言われて、奥様なんだけど、奥様なのかな私って思って。奥様ということばには、ちょっと男性よりかは女性の方が下というイメージがあって。今はそういう時代でもないから」

古久保さん自身、自分の配偶者の呼び方が、「主人」から「夫」に変わってきたと言います。

「子どもが小さかったころは、『主人』と呼ぶことに何の違和感もなかった。やっぱり自分も子育てで必死だったし、外に出ていなかったし、夫の収入が全てだったというのもあって」

特にいま、古久保さんが疑問に思っているのは、ほかの人の配偶者をどう呼ぶかです。

古久保さん
「『ご主人さん』とか『奥様は』とか、自分が違和感を感じていることに関して、他人に言っていいのかなというのがあって。だからみなさん、どうしているのかなというのが知りたいなと思って投稿しました」

町の人は配偶者をどう呼ぶ?

人との会話の中で、配偶者をなんと呼んでいるのか。
「自分の配偶者」と「他人の配偶者」に分けて、街の人たちに聞いてみました。

記者「人との会話の中で、自分の配偶者をなんと呼んでいますか?」
40代男性「かみさん」
記者「他人の配偶者についてはなんと呼んでいますか?」
40代男性「奥様。だんなさん。会社の人とかで、自分の配偶者をよく『嫁さん』とか『かみさん』とか呼んでいる人がいるが、正しいのがどれか分からない」 

60代女性「(他人の配偶者は)『ご主人』が多い。私は言いたくないんだけど」
記者「なんでご主人と呼びたくない?」
60代女性「ご主人じゃないもんね」

20代女性「だんなさんが電話をしている時とかに、上司とかに『嫁が』と言っています。『嫁』と言われるのは、上から目線でちょっとイヤ」

20代男性「『だんなさん』『奥さん』って普通には言うんですが、確かに気をつけるというかジェンダーのあれで気をつけることもあるので、悩みながら言いますね」

結果はこう。

自分の配偶者の呼び方はいろいろありましたが、他の人の場合は、「旦那さん」「奥さん」が多く、選択肢が少ないようでした。

100年以上前からの悩みの種

この疑問について、ことばとジェンダーが専門の、関東学院大学経営学部の中村桃子教授に聞きました。
配偶者の呼び方は、実は100年以上前から続く悩みだといいます。

関東学院大学経営学部 中村桃子教授
「みんながずっと悩んでいる問題なので、いったいいつごろからなんだろうという興味があって、さかのぼっていきました」

中村さんが見せてくれたのは、明治38年(1905年)の「婦女新聞」。

家庭欄に載った「夫の三人称」という記事です。

「他人に対して語る場合、夫のことをなんと言えばよろしいでしょう?
今日は、職業等によって、いろいろに分かれております。『夫』『良人(やど)』『旦那』『主人』『亭主』『あるじ』『うち』『わたしとこ』などが一般に用いられているようです」
(明治38年2月27日 「婦女新聞」より)

「夫」「旦那」「主人」という、今よく使われている呼び名は、100年以上前には出そろっていたのです。

"主人"  高度経済成長期に台頭?

このうち「主人」ということばは、大正時代に上流婦人がよく使っていましたが、1960年代頃から一気に広がったといいます。

「戦後、日本が負けてから10年くらい経ってから、『主人』ががーっと台頭してきた。なぜかというと、戦後ずっと高度経済成長期が続いて、一億総中流時代なんて言われましたね。まだ私の推測なんですが、ことばでも中流意識を演出したのではないかと思うんですよ。自分は中流であることを人に伝えるために、その上流婦人が使っていたような『主人』を使うっていうことが行われるようになったのかな」

多くの人が迷う、他人の配偶者の呼び方についても、意見を聞いてみました。

「私もよく講演会などでこの話をすると、参加者の方から、”本当に何の主従関係も表さない、ニュートラルないいことばを先生決めてください”と言われるんです。
でもね、パートナーの呼び名を決めてしまうことほどつまらないことはないんですよね。どうしてかっていうと、唯一の正しいパートナー関係を決めてしまうことになるんですね」

中村さんは、複数の呼び名があることを、むしろ楽しんでほしいと呼びかけます。

関東学院大学経営学部 中村桃子教授
「ここで私たちは、発想の転換をしなければいけない。世の中にはいろんなパートナー関係があって当たり前。いろんなパートナーをさすことばがあるのは、当たり前。いろんなことばから選ばなきゃいけないという、とっても面倒くさくて大変なことだけど、少し考え方を変えれば、たくさんのことばがあるのはすてきなことって思って。それはいろんなパートナー関係を受け入れることになる。そういう社会につながることになる」

編集後記

取材の中で、中村さんから、NHKでは放送の表現で、配偶者の呼び方に何か決まりがあるのかと聞かれ、高山哲哉アナウンサーに聞いてみました。
「客観的な表現は『夫』『妻』。一人一人お名前があるので、名前がわかる方は○○さんと呼べば、不快な思いをする人はいないのかな」との回答でした。

配偶者の呼び方は、どんな呼び方をするかで、その人の価値観がにじみ出ます。

記者自身も、「ご主人」「旦那さん」「奥さん」という呼び名にはずっと違和感があり、今回の取材を通して、今後は上下関係のない「夫さん」「妻さん」「お連れ合い」などを使っていこうと心に決めました。

しかし、放送直後に投稿してくれた古久保さんにお礼のお電話をした最後、「ご主人によろしくお伝え下さい」と話している自分が…。慣れないことばを使うのは難しいと痛感しました。

無理なく少しずつ、自分なりの呼び方を探っていく。それを楽しもうと思いました。

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  • 松岡康子

    NHK名古屋放送局記者

    松岡康子

    静岡局、豊橋支局、名古屋局、科学文化部、生活情報部を経て、2013年から再び名古屋局。 
    主に医療分野や介護分野の取材を担当。 
    愛知県小牧市出身。2人の息子の母。

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