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10人に1人 新人看護師離職の背景は?

  • 2023年06月15日

「10人に1人」
この数は、2021年度に病院で働き始めた新卒の看護職員が1年間に離職した割合です。
同様の方法で調査を始めて以降、最も高くなっています。
背景にあるのは、コロナ禍で学生時代に病院などでの実習ができなかったことでした。

”教科書では学べない”  看護実習

2023年5月、愛知県一宮市にある一宮市立市民病院の呼吸器科病棟では、看護師を目指す学生が、3週間にわたって実習を行っていました。
現場の看護師の指導を受けながら、看護に必要な技術を実践的に学んでいきます。
 

指導する看護師 須崎泉さん
「もう少しゆっくり説明したり、耳元でしゃべったり、そこがもう少し意思疎通が図れると、難しいかもしれないけれど、いいのかなというところがあるので、またちょっと見直して」

看護学生 矢田悠馬さん
「修正してきます。ありがとうございます」

看護学生 早崎映里奈さん
「ひとつ呼吸苦をとっても軽いものから重いものまであって、症状が全然違うので、その幅を見られるのも臨床ならではかと思う。3週間の実習で、その人に合ったことができるようになったかなと」

看護学生 尾関由姫美さん
「指導者さんにアドバイスとか頂きながらやっていってだんだん自信がつくというか、実習に来れてよかったなって思います」

コロナ禍で実習ができず

看護師になるために、通常学生はこうした現場での実習を、合わせて1年ほどかけて行っていきます。
しかしコロナ禍では、感染対策を理由に実習ができない時期がありました。

20年以上看護師の養成に携わってきた、修文大学看護学部の相撲佐希子教授です。

コロナ禍でできなくなった実習の代わりに、学内で模擬患者を使って実習を行うなど、現場に近づける工夫をしてきましたが、限界を感じています。

相撲佐希子教授
「コロナで実習ができなかったというところは、やっぱり私たち教育者にとっても非常に痛手であったし、リアルな場所を、ものを学内で同じようにすることは絶対にできない」

”実習に行けていたら…” 辞めた看護師

ことし3月、勤めていた病院を辞めた24歳の女性です。

24歳看護師
「これは学生の頃に、国家試験の勉強で使っていた参考書です」

看護師だった母親の背中を追いかけ、おととし国家試験に合格。
就職した病院で、呼吸器などの患者を担当する病棟に配属されました。

24歳看護師
「患者さんは疾患がメインで治療に来られているんですけれど、やりたいこともいっぱいあると思うし、そういうのを一緒にかなえてあげられるような看護師を目指していました」

しかし現実は、思い描いていたものとは違うものでした。
複数の患者を受け持つことになった女性。
どの患者に何から対応すべきか分からず、戸惑うばかりだったといいます。
看護師の先輩から怒られることも多く、働き始めてから3か月後、女性はうつ病と診断され休職。
ことし3月退職しました。

24歳看護師
「突然泣き出してしまったりとかごはんも食べれない、夜も寝れない。患者さんの病気を治すために看護師になったと思ってたら、ちょっとこちらが病んでしまって、自分に対しても腹が立つような状況でした」

女性は、学生の時、複数の患者をひとりで受け持つ実習が受けられなかったことが、現場でスムーズに適応できなかった原因だと感じています。
別の病院で働き始めましたが、今後も実習不足の影響が出るのではないかと、不安を抱えています。

24歳看護師
「座学とか、オンラインの実習では学べないことっていうのはいっぱいあると思います。実習に行けていたら、もうちょっとこう、職場でもうまく業務していくことができたんかなって」

相次ぐ相談  支える体制を

看護師を養成してきた相撲さんのもとには、コロナ禍で看護師になった卒業生から、病院を辞めたいという相談が相次いでいます。
現場での実習を満足に受けられないまま働き始めた看護師たちをどう支えていくのか。その体制作りが必要だと考えています。

修文大学看護学部 相撲佐希子教授
「せっかく希望を持ったのにすごく看護師に向いてるなと思う子でも打ちのめされて、”私は向かないから”って辞めていく姿を見るともったいないなと思うので、病院側とも相談しながら、辞めるっていうことじゃなくてできるだけ生かしていけるような、そういう連携がとれる形がとれたらいいなと思う」

編集後記

新人看護師の離職が増えている要因は、現場での実習が十分にできなかったことだけではありません。
医療現場がコロナへの対応で混乱し、新人を教育したり、サポートしたりする余裕がなく、そういった環境が離職につながっている可能性が指摘されています。
今回の取材を通して、病院では新人看護師だけでなく、中堅の看護師の離職も相次いでいて、看護師が不足して、一部の病棟を閉鎖せざるをえなくなっている病院が少なくないことがわかりました。

看護師の離職にはどういう背景があるのか、現場の実態について、「マチコエ」の投稿フォームからお寄せください。皆さんからの声をもとに、取材を続けていきたいと思います。

  • 松岡康子

    NHK名古屋放送局記者

    松岡康子

    静岡局、豊橋支局、名古屋局、科学文化部、生活情報部を経て、2013年から再び名古屋局。 
    主に医療分野や介護分野の取材を担当。 
    愛知県小牧市出身で、2人の息子の母親。

  • 阪野一真

    NHK名古屋放送局 ディレクター

    阪野一真

    福岡局、東京・社会番組部を経て、2022年から名古屋局。
    看護師や医師の働き方について取材中。

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