【被災地の声】輪島市 被災した酒造会社 新酒の「初搾り」迎える 倒壊した蔵から取り出した米で醸造
- 2024年04月03日
2024年1月1日に発生した、石川県能登半島地震。
輪島市にある「中島酒造店」は、地震で蔵などが倒壊する被害を受け、醸造ができなくなりました。
杜氏の中島遼太郎さんは、小松市の酒造会社の設備を借りて酒造りを再開。使ったのは、倒壊した蔵から取り出したお米です。
3月26日、ついにその新酒の「初搾り」を迎えました。
米は全壊した蔵の下に…
今回、新酒を仕込んだ杜氏の中島遼太郎さんは、地震に見舞われた後の様子をこう振り返ります。
中島さん
「蔵のほうはすべて全壊に近い状態。もともと使ってないような部分だけちょっと残ってるっていう状態で。酒の醸造に使うような蔵はすべて潰れています」
1月上旬、重機のボランティアの人たちが入ってきました。
人命救助や道路の片づけなどが落ち着いたタイミングで「気になっているところはないですか」と言われ、中島さんは「じつはお酒造りが始まっていて、雨が降るたびに倒壊した建物の下の米がどうなっているのか気になっている」と伝えました。
その後、20人ほどの方に協力してもらい、重機を使って米を運び出してもらうことができたということです。そうやって取り出したお米の状態は・・・
中島さん
「ずっとぬれてないかなということが心配で、開けたときにびちゃびちゃになっていたら僕は諦めたと思うんですけど、お米自体は袋に入って、埋まる前、震災前のお米と変わりない状態で出てきてくれたので。
ああ、すごいよかったなあ、これでまたお酒が造れるかなと思いながら見られるくらい、いい状態で出てきた」
「ちょっと見に来んか」
しかし、米を取り出したものの、まだ道が開けたわけではありませんでした。
中島さん
「お米が出てきて、でも設備がないんですよ。お米が出てきたタイミングっていうのは水道もない、電気もない状態。
夜になったら月明かりしかないような状態で、お酒を造る道具も全部埋まってしまって、口では『造れるな』と言ってるけど、全然見えないんですよ」
そんなとき、金沢の酒造組合から「ちょっと休憩がてら一回外出てこんか」と声をかけられました。
被災状況を報告し、関係者と昼食をとっている時、電話がかかってきました。小松市の酒造会社の杜氏からでした。
「うちの蔵も場所を提供できるから、ちょっと見に来んか。社長もそういうふうに動いてくれとって『なんかできることないか』って言ってくれているから」
そして、小松市にある酒造会社からの支援を受けて設備を借り、2月から酒造りを再開することになりました。
中島さん
「もともとつきあいがすごい深いところやったら何かあるかと思うんですが、そんなに面識もなかったなかでもすごくいろいろと考えてくださって、手を差し伸べていただいたというのがすごくうれしくて。
大変な状況で取り出していただいたお米なので、どうしてもこのお米をお酒にしたい。そのときに(小松市の酒造会社の)東社長が自分で造るように迎えたいと言ってくださって。本当にありがたかったです」
「初搾り」 できた新酒は
そして26日、新酒の「初搾り」が行われました。
中島さんは蒸した米やこうじを混ぜて発酵させた「もろみ」を、酒と酒かすに分離するため搾り器にかけたあと、試飲をして味や香りを確かめていました。
中島さん
「すごくおいしく仕上がっていて、その中にもうちの輪島の蔵で造っていたときのお酒の感じも少し見える、すごくいい出来に仕上がりました」
設備を貸した小松市の「東酒造」の東祐輔社長も笑顔です。
東社長
「すごく思いの詰まったお酒という感じでね、本当に味がしっかり出ていておいしかったです。
やっぱりみんなの思いが詰まったお酒ですから、より一層おいしく感じたかもしれません。
中島遼太郎くんがうちの蔵に来て2か月間、ずっと住み込みしながら酒造りしてきた。正真正銘、本当の中島くんのお酒です。
中島酒造の技術と、今までの経験が全部詰まったお酒です。私らは酒を造ることしか今回は支援できなかったんですけども、今後も石川の方に遼太郎くんをどんどん応援していってほしいなと思います」
中島さん
「すごく安心した気持ちが強いです。
今までどおりのことが全然できないなかで、僕の日常の中の一個の、毎年一本目のお酒を搾るっていうのはすごい緊張することで、例年感じられている緊張感をやっときょう感じることができて一安心です。
このドキドキという、味わいたかったものが本当に今味わえている。すごくうれしいです」
石川県酒造組合連合会によると、今回の地震で奥能登にある11の酒蔵すべてが被災し、このうち8社が県内のほかの酒蔵と協力して酒造りを行うことになっています。
できあがった新酒は、4月3日から石川県内の酒店などで販売されるということです。
被災地の状況について、こちらから情報をお寄せください
避難生活での困りごとや悩みごと、相談できずに困っていることなども含めて、こちらの「ニュースポスト」へ情報をお待ちしています。
あわせて読みたい
-
【被災地の声】珠洲市 400年続く天然の塩づくり 守ってきた職人が犠牲に 受け継ぐ女性の思い
NHK金沢・石川WEBノート
-
【被災地の声】 珠洲市 ステキな能登の写真をSNSで募集 始めた岩城慶太郎さんの思いとは?
NHK金沢・石川WEBノート
-
【被災地の声】輪島市 給水支援で歯科医院が再開 断水続く中「無理矢理にでも開院」
NHK金沢・石川WEBノート
-
【被災地の声】珠洲市大谷地区 再開した学校に通う子ども 半数以下に 離れた友達に会える日は…
NHK金沢・石川WEBノート
-
夫婦で炊き出し 能登半島地震の被災地で 杉良太郎さんと伍代夏子さん 石川県七尾市の避難所
NHK金沢・石川WEBノート
-
【被災地の声】穴水町 「店を再開してもいいのか…」復興クッキーに思い込めて 滝川若葉さん
NHK金沢・石川WEBノート
-
【被災地の声】穴水町 地震で被害受けた道路が復旧 循環バスが再開「復興へ、小さな一歩」
NHK金沢・石川WEBノート
-
【被災地の声】輪島市町野町 スーパー2代目店主 本谷一郎さん 被災直後から営業続ける「だから私が頑張らなきゃ」
NHK金沢・石川WEBノート
-
【被災地の声】能登町 池崎万優さん デザインの力で町を元気に「忘れてほしくない」
NHK金沢・石川WEBノート
-
【被災地の声】能都郵便局長 尾形優さん 「少しずつお客さんの期待に応えていきたい」
NHK金沢・石川WEBノート
-
【被災地の声】石川県かほく市 「繊維工場 修復が…」一時休業も操業再開
NHK金沢・石川WEBノート
-
【被災地の声】石川県内灘町 断水の牛舎 水を求め鳴く牛たち「早く元どおりに」川上充紀さん
NHK金沢・石川WEBノート