【被災地の声】珠洲市 400年続く天然の塩づくり 守ってきた職人が犠牲に 受け継ぐ女性の思い
- 2024年03月26日
2024年1月1日に発生した、石川県能登半島地震。
地震で亡くなった珠洲市大谷町の中前賢一さん(77)は、地元に400年以上続く手法で塩づくりを行ってきた職人でした。
中前さんの塩にほれ込み、7年前、協力を得ながら自らも塩づくりを始めた中巳出理さん(76)は「中前さんの意志を継ぎ、伝統をつないでいきたい」と話しています。
中巳出さんの声です。
「親を失ったみたいな」
珠洲市大谷町の中前賢一さん(77)は、能登半島地震で倒壊した自宅の下敷きになり、亡くなりました。
中前さんは、砂を敷き詰めた塩田に海水をまいて天日で乾燥させる「揚げ浜式製塩」を引き継ぐ職人でした。
揚げ浜式塩田による天然の塩づくりは国内で珠洲市だけに残っていて、中前さんは50代で地元に塩田を開き、400年以上続く地元の伝統を守っていたということです。
石川県産の素材で加工品の製造・販売を行う中巳出理さん(76)は、取り扱う機会のあった中前さんの塩にほれ込んだ1人でした。
中巳出理さん
「中前さんはおいしい塩にこだわっておられました。今度の震災で、うちの師匠の中前さんがこんなふうになられて、親を失ったみたいな気持ちです」
師であり、兄のよう
石川県加賀市で経営する会社でも伝統の塩づくりに挑戦したいと、中巳出さんは中前さんに協力を仰ぎました。
「こういう塩田の風景というのは、能登独特の風景ですよね。能登にしかない風景。
日本中探しても、能登にしかない風景なので、これを絶対残していきたいと」
中前さんは中巳出さんの気持ちを受け止めてくれたといいます。
「中前さんはね、とってもフレンドリーな方で、どなたでも割とウェルカムで。人気だったので、いろんな方が出入りなさってたんですね。
でもはじめは私は『よそ者』なので。ただ彼は、あまりそのことに違和感は無かったようで」
「中前さんと本音で話をできるようになって、なんとか、この揚げ浜式製塩法を後世に伝えていくためにも、若い人たちに引き継いでいきたい、景観を守っていきたいと言いました。
いろんなところから『揚げ浜式製塩法は時代と逆行していて大変だ』などと言われました」
中巳出さんは1年近く中前さんの元に通い、頼み込んだ末に塩づくりを了承してくれたといいます。
7年前の2017年、珠洲市内に塩田を開きました。
中前さんは手書きで図面をひいたり、みずから工事の作業にあたったりすることも多く、また社員を預かって育成にあたってくれたほか、施設の設計も担ってくれたということです。
年齢が近いこともあり、中巳出さんは中前さんを師と仰ぐとともに、兄のように慕っていたということです。
「社員も交えて食事をするなど仲よくしてもらっていました。とても優しくすてきな人で、『よそ者』の私が伝統の塩づくりに取り組めているのも中前さんがいたからこそと感謝しています」
“中前さんが守ってくれたから”
能登半島地震では中巳出さんの塩田も何か所もひびが入るなど大きな被害を受け、海底が隆起した影響で海水をくみ上げることが出来なくなりました。
「途方に暮れます。だからわれわれの力だけではどうにもならない。やっぱり、皆さんのお力を借りなければどうにもならない。
今、業者さんもみんな被災しながらも能登の復興のために頑張っていらして、ライフラインの立て直しを一生懸命やっている中で、われわれのところまで回してもらうのは難しいと思います。
でも、われわれもことし作らなかったら、来年は無くなってしまうので、何とかことしの夏までに復興したいと。
塩づくりは天気がよくなって、塩が乾くようになる4月の終わり頃から9月末、10月の中頃までです。
過酷な自然と対じしてやるので。自然の太陽と風の力と、そして人力と、海と山と。気が遠くなりますね、すごく」
一方で、建屋や釜には被害がなく、中巳出さんは中前さんが守ってくれたと考えています。
「被害の状況を見ると、現実はとても厳しいです。どれだけ時間がかかるかは分かりませんが、中前さんの遺志を継ぎ、中前さんが後世に残そうとした伝統の塩づくりを絶対に絶やさないよう、なんとしてでも塩田を再開させたいです」
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