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静岡市清水区出身 落語家・春風亭百栄さんインタビュー(2)

新作落語を手がけるようになったきっかけ ふるさと・静岡県への愛を語る! 【後編】
  • 2024年04月23日

静岡市清水区(旧清水市)興津出身の落語家、春風亭百栄さんのインタビュー【後編】です。

→【前編】はこちらから!

3月9日(土)に公開収録したラジオ第1の演芸番組「真打ち競演」では、百栄さん自ら考えたオリジナルの噺(はなし)=新作落語の「桃太郎後日譚(ももたろうごじつたん)」を披露し、会場に集まったおよそ600人を沸かせました。

落語ファンの間では「百栄さんといえば新作落語」というイメージが定着していますが、かつては古典落語にも取り組んでいたといいます。新作落語の「だいご味」や、ふるさと・静岡県に寄せる思いなどをうかがいました!【取材:NHK静岡 後藤康之アナウンサー】

素朴な疑問から生まれた新作落語「桃太郎後日譚」

ーー「桃太郎後日譚」、どんなお話なのか教えていただけますか?
(百栄さん)
子どものころにおとぎ話とか聞きますと、必ず最後は「めでたしめでたし」で終わる。「ああなるほど、めでたく終わったんだな」と子ども心には思っておりましたけれども、大人になってよくよく考えてみると「本当にめでたく終わったのかな?あのあと何かもめごととかなかったのかな?」…そういうような発想からできたお話で。
犬、サル、キジですね、この人たちがちょっと謀反を起こすというような。「このままではちょっと俺らは引かないよ、俺たちもだいぶ働いたからね」みたいな感じでね。

「桃太郎後日譚」でキジを演じる百栄さん

古典落語をアレンジしているうちに目覚めた「新作落語」

ーー百栄さんというと新作落語のイメージが強いんですけれども、どういうときに思いつくんですか?
(百栄さん)
僕の場合、古典落語が大好きなんですね。ずっと聞いていましたし、自分でもやっておりました。二つ目の途中までは新作(落語)なんてまさか「自分がやる」とは思っていなかったんですよ。やるつもりもまったくなかったですね。
…ところがですね、やってるうちに行き詰まってきたりするんです。

ーー古典に行き詰まる?
(百栄さん)
そうなんですね。古典にもいろいろ噺はあるんですけど、やっているうちに「このままで面白いのかな?」とかいう風になってくるんですね。いろいろ考えているうちに「この話をこうやって変えてみよう」とか「ちょっとセリフや立場を変えてみよう」とか、色々細かいことを考えたんです。そのうちに「全部総とっかえしちゃった方がいいかな」とか、そういうような形でどんどん話が変わっていったんですね。
新作もいま、たぶん(持ちネタが)70本かそれくらいはあると思うんですけども、はじめのうちは古典落語をちょっともじったものですとか、そういったものが多かったんです。けれども途中からは、町を歩いていて面白い人だとか「ちょっとあそこでもめているけれども、あの人たちはこのあとどうなるんだろう?」とか…。ずっと見ているわけにもいかないですけど、頭の中でそのあとの物語を考えてみたり、そんなところからですかね。

ーー新作落語の面白さや難しさって、どんなところですか?
(百栄さん)
まず、誰もやっていない話ですから、受けるか受けないかはとても大事なことなんですよね。「こいつは何を勝手に自分で好きなことをしゃべりだしてひとりで喜んでるんだ」みたいなことになっちゃいますから。だからお客さんに受けるというのはとても大事なことなので、だから必死にその部分は考えます。
自分の中で「これだったらいけそうかな?」なんて思っていざやってみると全然ダメだったりとか、流している部分がドッときたりなんかすると「こういうのでお客さんは喜ぶんだな」とか。だから僕らは一方的に発信しているようですけれども、実際には大変な会話をしているような、そういう形ですね。受けを見ながら話したりするっていうのがね。

ーーそれがまた面白いところなんですかね?
(百栄さん)
やめられないところでもあるんですよ。快感もありますよ、やっぱり。
「ここを受けてくれたんだ!」とか、「ここはそんなに面白くないんだけど、クスってきてくれたら嬉しいな」と思っていたらそのまま(ねらい通りの)反応が来てくれたりすると「やった!」とか、そういうのが腹の中ですごくあるんです。
お客さんをどんどん沸かすっていう、そういう笑いもあるじゃないですか。もともとそういう笑いはあんまり得意じゃないのかなと思ってね。どちらかというとお客さんが「ふんっ」とかいう風に笑ってくれれば。あと、帰り道とかでちょっと思い出してくれるとか…。そういうのが嬉しいですね。

会話をするような意識でお客さんの反応を見ているそうです

静岡県の人が持つ“独特の距離感”が好き!

ーーこれまでの百栄さんの落語家の歩みの中で静岡県、あるいは清水、興津で過ごした日々はどう生きているって、いま、感じていますか?
(百栄さん)
これはそのままそっくりそのまま全部生きてると思いますけどね。この土地で生まれ育ってこの空気を吸って生きてきたので。お友達とかそういったことも、親や兄弟ももちろんですけども、そういう「静岡県人としての環境」というのはちょっと面白いくらいに感じてます。ほかの都道府県の人たちとはちょっと違うのかな、とかね。

ーーどんなところが違うと思います?
(百栄さん)
これはある意味失礼に聞こえるかもしれませんけど、静岡県人ってけっこう「フワフワしてる」と言いましょうか…人との「距離感」のつかみ方っていうのがあると思うんですよ。静岡独特の。それが僕は好きなんですよ。正直なことを言いますと。
なんとなくの人との交流と言いましょうか。「行こうか?」「おう、行きましょう!」とかいうわけでもなく「…うん、じゃあ…行ってみようかな…」みたいな感じの、なんかそういうぼんやりとしたよさですかね。どう考えても穏やかだと思います、静岡県人は。
あらためて、大好きです、静岡。それはもう先ほど言いましたように、年を取ってからどんどん好きになっていってるところですね。

新生活を始めた人へ…百栄さんからエール!

ーーいま、4月というのは新生活のシーズンですよね。自分の夢や目標に達することができた人もいれば「このタイミングではうまくいかなかった」とか「これからどうしていこう」とか、悩んでいる人もいると思います。
夢を追い続けて、少し時間がかかったり遠回りしたかもしれませんが、結果としてその夢をかなえることができた百栄さんから、ひとことエールを送っていただけますか?
(百栄さん)
僕も大好きだったのは古典落語だった。古典落語で入って、二つ目になった時にはちゃんと古典落語で評価もされたんです、それなりに。ところがやっぱり続けていくうちにどんどん行き詰まって、最後は寄席にも全然声がかからなくなって、さてどうしようかって考えて、それで新作の道をなんとなく発見できたといいましょうか、そういうこともありますし、自分でもとても信じられないほうに転がることがあると思うんですね。
止まって考えるのもいいんですけども、やっぱり何となく流されながらでも、フラフラしながらでもいろんな経験をたくさん積んだ方がいいと思いますし、必ず見つかると思うんですよね、自分の方向、自分の流れというものが。だからそういうのに従ってやるのがいいんじゃないかなと思います。
だから一度ここでつまづいたからといって「まあこういうこともあるだろう」くらいの感じでね、動いていけば、挑戦していけば大丈夫です!

  • 後藤康之

    静岡放送局 アナウンサー

    後藤康之

    声優志望からアナウンサーに。「NHKニュース たっぷり静岡」キャスター3年目。休日は自宅でアニメを見るか落語を聞きに寄席に行くかの2択。

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