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移住した街で届ける本と音楽 伊東の小さな店から

【#まちほんTRIP】第8回「本と音楽の店 つぐみ」(伊東) NHK静岡
  • 2024年02月22日

 

日々の暮らしを彩り、心を豊かにしてくれる本や音楽。そのどちらも大切にする小さな店が今回の目的地です。「#まちほんTRIP」第8回は伊東市にある「本と音楽の店 つぐみ」を訪ねました。
店を開いたのは東京出身で伊東に移住してきた店主。好きなものについて語れる場所を伊東に作りたいと、一歩ずつ思いを形にしてきました。本が好きな人も、音楽が好きな人も足を運びたくなる、店の魅力とは。(最後に動画あり)

本と音楽で味わう自分の時間

伊豆半島の東部、海に近い温泉地として有名な伊東市。

伊東オレンジビーチ

多くの観光客が訪れる街の中心部から、ひと駅離れた場所にその店はありました。

「本と音楽の店 つぐみ」が入るアパート

伊豆急行の南伊東駅から歩いて3分ほど。
「本と音楽の店 つぐみ」の入り口を開けると、聞こえてきたのはアナログレコードの温かみのある音。
ここでは本と音楽がそれぞれ響き合うように存在しています。

「本と音楽の店 つぐみ」店内

入って右側に並ぶ本は、エッセイや詩集などおよそ100冊をセレクト。

詩集などが並ぶ棚

一方左側には国内外のミュージシャンのレコードやCD、カセットテープなどアナログ感あふれるアイテムが置かれています。

レコードやCD、カセットテープが並ぶ

(店主)「くみこさんが好きなやつ流そう、何にしますか?」
(客) 「リラックスできる感じ」
(店主)「ネバヤン(never young beach)にしましょう」

お客さんに曲の好みを聞く店主

店内ではお客さんの好みやその日の天候、時間帯に合わせて、さまざまな曲を流しています。

レコード

心地よい音楽を聴きながら、新たな本と出会う。
興味を引く本に触れながら、新たな音楽と出会う。
ここを訪れた人だけの特権です。

本を手に取るお客さん

(客)
「自分の世界ができるじゃないですか、本を読んでいる時も音楽を聴いている時も。
自分の時間を大事にできるっていうか、それが魅力ですかね。伊東にこういった音楽のお店とかってないので、貴重です」

店の名前に思いを託して

店主の末宗奈穂(すえむね・なほ)さん、31歳です。
東京出身で、伊東に移住して1年半前にこの店を開きました。

店主・末宗奈穂さん

中学生の頃から音楽が好きで、数え切れないほどの曲を聴いてきたという末宗さん。

音楽を聞きながら作業する末宗さん

店の名前「つぐみ」は、スピッツの同名曲から取りました。この曲を聴いたときに感じる温かさや幸せな思い。それを提供できるような店にしたいという気持ちが込められています。

看板は手作り

(「本と音楽の店 つぐみ」店主・末宗奈穂さん)
「場作りっていうのにずっと関心があったし、自分にしか作れない場所があるっていうのを信じていたので。お店のコンセプトもそんな新しいものと人に出会える場所っていうことにしていて。本と音楽を通して自分を知るとか見つめ直すとか、そういうきっかけにもなってほしいなって思います」

末宗奈穂さん

自分が欲しかった場所を自分で作る

末宗さんが伊東に移住したきっかけは2020年4月、地域おこし協力隊としてこの街での活動に応募したことでした。

地域おこし協力隊のころの末宗さん
(画像提供:末宗奈穂さん)

幼い頃は家族の転勤で引っ越しが多く、どこかに腰を据えて生活できる場所を見つけたいと考えていたところ、協力隊の存在を知りました。

最初に活動した新潟では古民家の再生事業に携わりましたが、予定していたプロジェクトが急きょ中止に。当初は3年間現地で活動するつもりでいたものの、沈んだ気持ちを抱えたまま1年で地元に戻りました。

(末宗奈穂さん)
「せっかく移住もしたのに、なんでだろうとかすごくやりきれない気持ちで過ごしていたんですよ。やっぱりその時途中で諦めてしまったっていうのが自分の中でどうしても悔しくて、リベンジしようって」

もう一度地方に住んで、自分の力で何かを成し遂げたい。
そう決意した末宗さんは、伊東の地域おこし協力隊として3年間、市内の観光地や店を取材し、地域の魅力をネットで発信。

地域おこし協力隊のころの末宗さん

街への愛着とともに、ここに住み続けたいという思いが強まりました。

伊東の海

しかし一方で、自分の暮らしに欠かせない本や音楽を扱う店が、伊東には少ないことに気が付いたといいます。

手紙を書く末宗さん

(末宗奈穂さん)
「伊東にずっと住み続けたいっていう思いがあって。住み続けたいけど、こういった好きなものに触れられる場所がないのだけがすごくもったいないなって思ったので、じゃあ自分が作るしかないなと思って」

暮らしの中に本と音楽を

都会にはないゆったりとした時間の中で、本や音楽に身をゆだねてほしい。

店内

店の場所はあえて観光地から少し離れた南伊東を選びました。

店内の本棚

本の品揃えは、普段あまり読まない人にも手に取ってもらえればと、読みやすいエッセイや音楽関連の雑誌などを置いています。

エッセイなどが並ぶ棚
音楽関連の小冊子などが並ぶ棚

音楽は、自身が聴いてきた90年代以降の海外インディーズや、日本のシンガーソングライターのものがメイン。レコードからカセットテープまで、店内で試聴できる環境を整えています。

カセットテープの再生機

本と音楽のどちらも丁寧に扱う姿勢は、末宗さんの店作りそのものです。

本を整理する様子

(末宗奈穂さん)
「音楽を聴くときにメロディーもそうなんですけど、結構詩を読むというか、聴きながら詩集を読んでいるみたいな感じで聴くタイプなので、そういう意味では本も音楽も言葉を扱うものっていうので共通しているのかなって。どんな感情のときも、そばにいてくれる存在ですね」

レコードに針を落とす末宗さん

お客さんとの交流を大切に

(客)   「さっきかかってた工藤さんですか、よかったですね。ソロでやってる人ですか」
(末宗さん)「そうです。工藤将也さん、ソロの方でめちゃくちゃ好きです」

末宗さんと音楽の話をするお客さん

末宗さんは、店を訪れるお客さんとの時間を大切にしています。
地元だけでなく、時には首都圏や愛知方面からやってくる人たちと、好きな本や音楽について語り合います。

(客)
「新しい音楽を探しに来たり。音楽とっても詳しいので奈穂さんが、そのお話を伺いに来たりとか。こういうのお好きそうなのでって勧めてもらえるんですよね。そこから新しい世界が広がっていく、それがとても新鮮で毎回楽しみにしてます」

さらに、個人的な相談を受けることも珍しくないといいます。

お客さんが来店

この日は末宗さんと同じように伊東に移住し、いずれ自分の店を開きたいと考えているお客さんから、アドバイスを求められていました。

(伊東に移住した客)「私も本屋をやりたい人間なので、先輩としていろいろ話を聞いています」
(末宗さん)「何か場所を作りたいっていうふわっとした夢がある人とかも相談してくれる。自分で何か動きたいって、でもどうすればいいのか分からないみたいな方とかにも聞かれます」
(伊東に移住した客)「奈穂さん優しいので何でも教えてくれる」

お客さんから相談を受ける様子

伊東をもっと魅力ある街に

たったひとり移住してきた街で、心を込めて築き上げた小さな店。

お客さんと話す末宗さん

末宗さんの願いは、この場所を訪れた人が伊東の魅力、そして人のつながりの温かさを胸にとどめてくれることです。

末宗さんとお客さん

(「本と音楽の店 つぐみ」店主・末宗奈穂さん)
「ここで過ごす時間が安全で穏やかなものであってほしい。前向きな時もちょっと落ち込んじゃってる時も、どんな時でもこっちは受け入れるので、そんな時に思い出して来てほしいなっていう。
この店を好きになってもらいたいっていうのはもちろんなんですけど、この街を好きになってほしいっていうのが思いとしてあるので、そのためにはこの店だけじゃなくてもっとほかにもすてきなお店、魅力的なお店ができれば、街全体として足を運びたくなるような場所になるのかなって思います」

「本と音楽の店 つぐみ」店主・末宗奈穂さん

動画はこちら(2024年4月21日まで公開)↓

  • 静岡局

    甘粕亜美

    2018年入局。
    大学では小説の批評・創作を専攻。旅先では必ずその土地の本屋さんを訪ねています。

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