ページの本文へ

静岡WEB特集

  1. NHK静岡
  2. 静岡WEB特集
  3. 本屋×バイク!?「ちょっといい未来」を提供したい 掛川市

本屋×バイク!?「ちょっといい未来」を提供したい 掛川市

【#まちほんTRIP】第4回「本と、珈琲と、ときどきバイク。」NHK静岡
  • 2023年09月15日

静岡の小さな本屋を訪ねる【#まちほんTRIP】第4回は、掛川市にある「本と、珈琲と、ときどきバイク。」です。「バイクと出逢うための本屋」という少し変わったコンセプトを掲げるこの店。ただバイクの本だけが並んでいるわけでもなく、なぜこの組み合わせに?元大手バイクメーカー勤務の代表にうかがうと……、奥の深い「感性」の話に展開。その先に見据えるものは?

バイクメーカー発祥の地・遠州が縁のコンセプト

静岡県の西部、掛川市と湖西市を結ぶ天竜浜名湖鉄道。

天竜浜名湖鉄道 桜木駅

その桜木駅から歩いて10分ほどの場所にあるのが、「本と、珈琲と、ときどきバイク。」です。

「本と、珈琲と、ときどきバイク。」
(右が本屋棟、左が本の貸し出しも行う喫茶棟)

自宅のガレージを改装して作った、人が数人立てるくらいのスペースに厳選された本がずらり。

店内の様子

バイクをテーマにした本はもちろん、旅やエッセイ、漫画などさまざまなジャンルの本、およそ1500冊が並びます。

バイク雑誌などが並ぶ棚
本を手にするお客さん

(訪れた人)
「意外な組み合わせですよね。バイクに乗る人たちのすそ野を広げるっていうコンセプトだということで。本から入る、面白いですよね」

掛川市内から訪れた人

代表は元バイクメーカー勤務 異業種からの転身

代表の庄田祐一(しょうだ・ゆういち)さん、37歳です。

代表・庄田祐一さん

かつて静岡県内の大手バイクメーカーで11年間、製品の企画立案やスタイリングなどを担当するプロダクトデザイナーとして働いていました。

大手バイクメーカー勤務時代の庄田さん(2019年)

2年半前に退職し、一念発起して開いたのがこの本屋。
試行錯誤を繰り返しながら決めたコンセプトは、「バイクと出逢うための本屋」です。

開店当時(2021年11月)

(代表・庄田祐一さん)
「バイクのことを知らない方々にとって、もっとバイクっていうものの先入観をいったん払拭させて、その入り口のすそ野を広げられるような、日々のいろんな気づきの先にバイクがあると思っているので、そういった感性を磨けるような本を置いた本屋になります」

代表・庄田祐一さん

高校生の頃、本屋でバイクを特集した雑誌を読んで、その魅力に取りつかれた庄田さん。車でも自転車でもなく、バイクこそが自分の感性を刺激してくれる特別な乗り物でした。

庄田さんのバイク

(代表・庄田祐一さん)
「バイクって人の英知を結集した機械を、自分の体で操れる最大の工業製品なんじゃないかなと。ものとしての美しさですよね。機械むき出しであることに対して人が密着して乗るっていう、こんな製品他にないなと感じています。そういう乗り物ものだからこそ五感が働くのかなと。すごくアナログだけど機械はハイテクみたいな、そういう一体何をやっているんだっていう面白みはあるかなと思います」

地元の石川県からバイクメーカーへの就職を機に静岡に移り住み、会社では数多くのプロジェクトを経験。しかし自分が作りたいものと求められるものとのギャップや、お客さんの顔が直接見えないことにもどかしさを感じることもあったといいます。

庄田さん

(代表・庄田祐一さん)
「ふと自分って何のためにバイクのデザインをしてるのかなとか、何のために会社に入ったんだろうみたいな疑問を持つことが増えていきました。この先会社にいることで得られる成長と、バイクのものづくりはできなくなるけれど独立することで得られる成長とで天秤にかけて、自分の感性をピュアに発揮できる独立の道を選びました。それが私は本屋だったんです」

バイクの魅力をもっと多くの人に伝えたい。
その湧き上がる思いをかなえるための手段が、庄田さんにとっては本屋を開くことでした。

本棚の説明をする庄田さん

バイクと本屋という意外な組み合わせには、バイクに興味を持つ感性を磨く方法、それこそが本を読むことだという、庄田さん独自の考え方があります。

本とバイク

(代表・庄田祐一さん)
「バイクに乗る、乗らないを分ける境界線って何だろうって考えたときに、やっぱり何かに気付いたり感受性を磨いたり主体性だったり、そういった問いを立てる力を磨ける本の先にバイクがあるんじゃないかなと思っていて。それがバイクに乗る、乗らないを大きく分けるポイントかなっていうのが私の持論です。なので、それらの感性を培える本を扱っているのが特徴だと感じていますね」

本が好きな人も、バイクが好きな人も集う場所に

棚に並ぶ本はバイク自体がそのまま登場するものだけでなく、幅広いジャンルを扱っています。

本を手に取るお客さん

旅がテーマの本は、目的地までバイクで行く楽しみを感じてほしいという思いを込めてセレクト。

旅の本などが並ぶ棚

バイクに興味を持つ好奇心を刺激するような小説や詩集なども置いています。

小説が並ぶ棚

(訪れた人)
「ちょっと絡めてっていうか、何かちょっと指1本で引っ掛かっていればバイクじゃんっていうところが面白いなって。僕はバイクは乗らなくて、ほしいなとは思っていたんですけど全然そういう生活ではないので、どっちかっていうとバイクに乗ってる人いいなって思いながら見に来てるみたいなところはありますね」

焼津市から訪れた人

店のコンセプトにひかれてやってくるライダーもお客さんの3割ほどいて、常連も少しずつ増えてきました。

バイクに乗ってやってくるライダーのお客さん

(常連のライダー)
「最初はどういう店だろうと思って来たんだけど、(本とバイク)両方混ざっちゃったじゃんいいねみたいな。ライダーの人ってよくあるのが雨の日何していいか分からない、毎週乗ってる人って。いろいろ(店の)中で選ぶときもあるし話題の本を頼むときもある」

磐田市から訪れたライダー

気候が良く自然豊かな静岡県は、バイクが暮らしの中に馴染んでいる、恵まれた地域だと庄田さんは言います。

お店の近くに広がる風景

感性を刺激してくれる本や、バイクに興味を持つ人たちとの出会い。この場所があるからこそ生み出せる価値を大切にしています。

お客さんと話す庄田さん

(代表・庄田祐一さん)
「不特定多数の人とコミュニケーションが取れるっていう、すごくアナログなんだけどすごく人間らしいところが本屋と会社員との違いといいますか、やっぱり自分も気付きが非常に多いですし心も潤いますし、自分が人間らしさを取り戻している感覚、お客さんに育てられているような感覚に近いのかもしれないですよね」

お客さんと話す庄田さん

「ちょっといい未来」を提供できる存在でありたい

本は言語と自分の対話。バイクは外の世界と自分の対話。本とバイクの共通点は「自分と向き合う時間」だと庄田さんは考えています。

店内

自分と向き合う時間を持つことによって、心を豊かにしてほしい。
お客さんにそのきっかけを提供できる本屋であり続けたいというのが、一番の願いです。

バイクの雑誌を手に取るお客さん

(代表・庄田祐一さん)
「自分ができることって目の前の一人一人に丁寧に本を届けること。そしてその先に10年後なのかそれ以上かかるかもしれないですけども、この本と出合ったからバイクに乗りましたっていう方と一人、また一人と出会える楽しみを待つのもあります。本とバイクが人に寄与する可能性を信じて、お客さん一人一人が何かに気付いて扉を開けた時に見えるちょっといい未来っていうのを提供して、その先にバイクと出会ってもらいたい。人とバイクの可能性、未来の可能性を信じているし、それに人生をかけてみたい、かける価値があるものだと強く思っています」

代表・庄田祐一さん

↓本編動画はこちらから(公開は2023年11月15日まで)

  • 静岡局

    甘粕亜美

    2018年入局。
    大学では小説の批評・創作を専攻。旅先では必ずその土地の本屋さんを訪ねています。

ページトップに戻る