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個性派の本屋開業相次ぐ!書店業界変革の波が静岡にも

【#まちほんTRIP】第7回「リバーブックス(沼津)」「ヨット(三島)」 NHK静岡
  • 2024年01月18日

ネット通販に押され、身近な本屋の閉店が相次いでいる今。
このままでは街から本屋がなくなってしまうのではないか―――。

ところが静岡県内ではここ数年、個性あふれる小さな本屋が続々と新規オープンしています。

逆風が吹く中でなぜ?その勝算は?
取材を進めると見えてきたのは、出版流通システムの変化がもらたす、新規開業の大きな波でした。


大型書店が閉店した今だからこそ

 

「想定の5倍くらい、お客さん来てます」

こう話すのは、去年9月に沼津市で本屋「リバーブックス」をオープンさせた江本典隆(えもと・のりたか)さん。平日は出版社の社員として働きながら、週末に店を開いています。

 

沼津駅から徒歩15分ほどの場所

JR沼津駅から商店街を抜けた先にある店の建物は、もともと洋裁店として使われていた築70年の空き家。江本さんみずからリフォームを手がけ、古い壁や柱をそのまま残しながら、レトロ感とシックな内装が同居する空間に仕上げました。

およそ600冊が並ぶ
奥のギャラリーにはアート作品や写真集も

沼津市出身の江本さん。長年本屋を開きたいと思い続けてきましたが、本格的に動き出したきっかけは「ファンだった」という市内の大型書店の閉店(2022年5月)でした。

 

本棚は閉店した大型書店のものを受け継いだ

地元の人たちが紙の本に触れる機会を残しながら、大型書店とは違うスタイルでお客さんを呼び込めるのではないかと考えたのです。

(「リバーブックス」店主 江本典隆さん)
「本屋がなくなって悲しんでいる人がたくさんいたので、今なら本が欲しい人のニーズをすくい取れるんじゃないかと。こういう小さなスペースであれば、やっていけるんじゃないかなって」


「思わぬ一冊」との出会いを


ネットで本を探すのではなく、実際にこの場所を訪れたからこそ出会える「思わぬ一冊」を提供したい。店に置く本のセレクトには、江本さんのこだわりが強く反映されています。

目につくのは建築、旅、歴史、アート、短歌など一風変わったジャンルの本。

 

歴史や怪談などがテーマの本が並ぶ棚
本のラインナップは1か月ほどで入れ替わる

大型書店では棚の奥に埋もれてしまいがちなディープな内容のものも並べて、つい手に取ってしまうような意外性でお客さんを引きつけます。
 

(「リバーブックス」店主 江本典隆さん)
総合書店にあるようなベストセラーは置いていません。どんな方が来ても一冊くらいは気になる本が見つけられるようにというセレクトを心がけています。主観がバリバリに入った私のセレクトの本しか並んでいないので、それがお客さんに受けるとうれしいですね」

 

訪れた客

「選書が面白いのでいつもそれを楽しみに来て、来るたびについ買っちゃいます。自分ってこういうところに心ひかれるんだって、初めて気づくようなものを置いてくれているのですごく楽しいです」


地元の魅力発信基地に

 

ほうじ茶を飲みながら本を選べる

店では本だけでなく、地元で作られたクラフトビールやほうじ茶を味わうこともできます。これも現地に足を運んだ人だけが体験できるメニューです。

江本さんが思い描くのは、ただ本という「メディア」を売るだけでなく、本屋自体が地域の情報を集めてつなぐ「メディア」のような存在になること

今後は近くの商店街と協力して、肉屋の総菜や喫茶店のコーヒーを出すなど、沼津の魅力をこの店から広めていきたいと考えています。

 

クラフトビールは店の近くの醸造所で作られているもの

(「リバーブックス」店主 江本典隆さん)
「本は『お酒と本』『お肉と本』『コーヒーと本』みたいにいろいろなものとコラボできるんです。地域の方々と協力して、この沼津という街や静岡県のことをいろいろな面で発信して運営していけば、いろいろなことがこれからもっとできるんじゃないかなと思います」


開業相次ぐ個性派の本屋

過去3年間にオープンした書店

逆風が吹いていると言われて久しい書店業界。
そんな中、静岡県内ではこの3年間で少なくとも10店、去年(2023年)だけで6店の本屋が新たにオープンしています(NHK調べ)。

共通する特徴は「小規模」かつ「個性を大事にした店づくり」。

こうした動きの活発化が、さらなる出店を後押しすることにもつながっています。
そのひとつ、三島市で開業した「ヨット」を訪れました。

伊豆箱根鉄道・三島田町駅から徒歩1分ほど

店主は本のデザイナーをしていた経歴を持つ、菅沼祥平(すがぬま・しょうへい)さん。
以前から本屋を開くことに興味を持っていたものの、全国的に本屋の経営状況が厳しさを増す中、なかなか一歩を踏み出すことができませんでした。

そんな菅沼さんの背中を押したのは、地域を問わず増え始めた個性派の本屋の活動をSNSで目にしたことでした。

(「ヨット」店主 菅沼祥平さん)
「三島は本屋が少ないのでこの町で本屋を開くのは不安な部分が大半でしたが、個人の小さい書店が増えてきているということが後押しになりました。沼津や三島で同じタイミングで本屋ができたというのは全く偶然なので驚きましたが、これから一緒に盛り上げていければいいですね」

思い思いに過ごせるための空間づくり

品ぞろえの中で特に力を入れているのは、ZINE(ジン=個人やグループが自主的に制作する小規模な冊子)や、いわゆる「ひとり出版社」が出す部数の少ない本。

こうした本は印刷のしかたや使う紙の種類もさまざまで、「本づくりはとにかく自由なものであることを知ってほしい」という、デザイナー出身の菅沼さんならではの個性が光ります。

 

訪れた客

「大型書店に置いてあっても手にとらないような本が目につきやすいので、興味深くなって読んでみようかなと思いました」

 

ギャラリーでは不定期でアート展示などのイベントも


店での過ごし方ももちろん自由です。こちらは国内外のビールやワイン、ソフトドリンクが飲める立ち飲みスペース。

立ち飲みスペース

首都圏からのアクセスの良さもあり、旅行客など県外から訪れる人も混じって、本をきっかけとした交流の場になりつつあります。

神奈川から来た客

「お酒とかを飲むところがあると店員さんとその話ができるし、普通の本屋さんとは違う楽しみ方があっていいと思います」

 

沼津から来た常連客

「本買わなきゃって思って来たのに、話している時間のほうが多かったです。結構いろいろな人が来ていて、趣味趣向が違う人に会って話ができる。完全に『人間交差点』になってます。やっぱりこういう本があるから面白いって思って来る人は、どこか共通している部分があるんじゃないかな」


店で出会った人と話したり、ひとりでじっくり本を選んだり。
お客さんが思い思いのスタイルでこの空間を楽しんでほしいと、菅沼さんは考えています。

(「ヨット」店主 菅沼祥平さん)
「書店に来てどう感じてほしいという一方的な気持ちはなくて、うまく利用してほしいと思いますね。何か学びがあってもいいし、特になくてもいい。立ち寄るだけでも気持ちが晴れるような場所になればいいなと思います」


出店増加の背景に流通システムの変革

個性的な本屋が増えている背景には、どんな変化があるのか。
出版流通に詳しい専門家は、「本屋を開業しやすい環境が以前より整ってきている」と指摘します。
 

上智大学文学部新聞学科・柴野京子教授

「本屋さんを全くやっていないような人でも、インターネットで本を買うのと同じような形で本を仕入れることができるようになった。書店をやりたい人にとって、とてもハードルが下がったと思います


これまで日本の書店業界の根幹を担ってきた本の流通システムは、いま大きな変革の時期を迎えています。
 

一般的な出版流通の流れ

各地の書店は、出版社が出す本を「取次(とりつぎ)」と呼ばれる問屋を通じて仕入れるのが一般的です。出版社の数はおよそ3000社、書店の数は少なくとも1100店舗以上(2020年時点)。

これだけの数の出版社と書店が直接発注の交渉をして本を仕入れるには、お互いに膨大な手間と時間がかかるため、やり取りを仲介する取次は出版流通システムの中で大きな役割を果たしてきました。

取次から本を仕入れる契約をするためには、一定規模の売り上げ見通しや初期費用としてひと月の売り上げ程度以上の保証金(※契約内容によって異なる)を納めることなどの条件があり、個人にとっては高いハードルになっています。

 

オンラインサービス登場後の流れ

しかし近年、インターネットや決済システムの整備が進んだことにより、新たな選択肢として比較的安い料金で少部数から本を発注できるオンラインサービスが登場し始めました。これによって個人経営の小さな本屋でも本を仕入れやすくなり、新たに本屋を開業したい人を後押しする効果も生み出しているのです。


また規模の小さな本屋の開業は、都市部よりも地方で多くなっていると柴野教授はいいます。
公共交通機関が発達した都市部ではひとつの本屋がなくなっても代わりの店に足を伸ばしやすいのに比べて、交通アクセスが限られる地方では住民が本に触れる機会を失ってしまうのではないかという危機感が高まるからです。

その危機感が新たな店を立ち上げるモチベーションにつながっていると見ています。
 

 

書店開業のセミナー(2023年5月)

去年5月、「本屋を開きたい人」を対象に行ったセミナーでは、全国各地から受講の希望があり、リアルとオンラインであわせて480人が書店開業のノウハウを学びました。

大型書店の閉店が続く中で、存在感を高めている個性派の小さな本屋。この対照的な動きこそが、書店業界の将来を見通すヒントになると柴野教授は考えています。
 

(上智大学文学部新聞学科・柴野京子教授)
本屋や本が廃れたわけではなく、これまでの総合書店のようなモデルが終焉を迎えているということだと思います。『ポスト出版流通』とも言える次のフェーズの中で、小さくて個性的な新しいモデルの本屋が出てきているということなので、これから発展していく余地は十分あると思います

 

動画はこちら↓(2024年4月22日まで)

  • 静岡放送局コンテンツセンター

    鈴木翔太


    2018年入局。福井放送局記者を経て2023年から静岡放送局ニュースディレクターとして勤務。

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