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絵本の力で人と人をつなぐ場所に 「えほんやさん」三島市

【#まちほんTRIP】第2回 NHK静岡
  • 2023年05月19日

「本と人との出会いを大切にしたい」。こだわりの品揃えや居心地のよい空間づくりでお客さんを呼ぶ、静岡の小さな本屋を訪ねます。 
【#まちほんTRIP】第2回は、三島市在住の絵本作家・えがしらみちこさんが開いた絵本の専門店です。絵本の力で人と人をつなぐ場所を作りたいと、さまざまな活動に取り組むえがしらさんの思いを、じっくりと聞かせてもらいました。

 人と人をつなぐ場所に 三島市「えほんやさん」 

源頼朝や徳川家康から厚い信仰を集めた、静岡県三島市の三嶋大社。

三島市の三嶋大社

その大鳥居から歩いて3分ほどの場所に小さな本屋があります。

三島市中央町にある「えほんやさん」

中に入ると、ずらりと並んでいるのはすべて絵本!
1冊1冊選び抜いた作品を販売する絵本の専門店、その名も「えほんやさん」です。 

「えほんやさん」の店内

表紙が見えるように壁を大きく使ったディスプレイと、足元には小さな子どもでも手が届きやすい低めの本棚を設置。15坪ほどの売り場スペースに、動物や乗り物、季節感をテーマにした絵本など、およそ300種類を取りそろえています。 

店内の絵本
母の日に関する絵本のコーナー

幅広い年代のお客さんが訪れますが、子育て世代の人たちと育児に関する会話を交わしながら、絵本を選んでもらう場面も多いといいます。

会話する店員と客

(店員) 
「赤ちゃんに話しかけるのって私はすごく難しかったんですよね、何て言えばいいかなって。この本は読んでいれば『なんだろうな?』『なんだろうね?』って話しかけられる」
 (客)
 「かわいい!しかも黄色とか色があるからいいですね」

自分がほしかった“居場所”を 絵本作家の思い

店を開いたのは三島市在住の絵本作家・えがしらみちこさん。これまでにおよそ60冊の絵本や児童書の制作に携わってきました。 

絵本作家・えがしらみちこさん

九州で生まれ育ったえがしらさんは、2012年に夫の仕事の都合で三島市に引っ越します。
生まれて間もない娘を連れて、慣れない土地での生活に孤独を感じていました。 

三島市に引っ越して来た頃のえがしらさんと娘

(えほんやさん代表・えがしらみちこさん) 
「(子どもが)病気になったらどうしようとか、何かが欲しいってなった時にすぐに手に入れられない不安とか。こっちのお店に行けばこういうのがあるよとか、そういう感覚もゼロだったので、すごい孤独って思いました」  

三島市の中心部

そんな時、ふらっと入った街の食器店で忘れられない経験をします。

(えほんやさん代表・えがしらみちこさん)
 「食器を買い足そうと思ってレジに並んだら、私が赤ちゃんを抱えていたので、店員さんに『子育て支援カードある?』って聞かれて。『いや、ないです』って言ったら『あ!引っ越してきたばっかりなんだね』って言われて。『そうです』って言ったら『またいつでもおいでね』って言ってくれたのが…。あ、泣きそう今でも。すっごく嬉しかった」  

「またいつでもおいでね」。その一言で心の支えとなる場所ができたと言うえがしらさん。
この経験をきっかけに、子育て中の母親や父親が気軽に立ち寄れる、心のよりどころのような場所が街に増えてほしいと思うようになりました。

2014年に絵本作家としてデビュー。幼いころから絵を描くのが好きだったこと、そして娘と一緒に読む喜びを感じられる絵本の魅力に気づき、自ら作品をつくりたいと思ったのがきっかけでした。 

制作の様子

次第に絵本のイベントに招待される機会も増え、全国の本屋を訪れるようになります。えがしらさんはそこで出会った光景から、絵本の専門店こそが子育て世代の人たちの“居場所”になれるのではないかと考えました。

2017年1月 子どもの本専門店でのイベント (東京)

(えほんやさん代表・えがしらみちこさん) 
「お母さんが子連れで来て、子育ての話を店長とちょこっとして『それならこういう本がいいかも』とお勧めされているのを見て、あ、私にもああいう場所がほしかったって思いました。絵本はお母さんやお父さんと子ども、読む人と聞いてくれるみんな、書き手と読んでくれる誰かもつながるので、みんなをつなげてくれるものだと思っています」

自分がほしかった“居場所”を今度は街の人たちのために。
三島市に移住してから6年後の2018年、「えほんやさん」がオープンしました。 

2018年10月 オープン初日の「えほんやさん」

今の気持ちを大切に 絵本で伝えるメッセージ 

普段は自宅で絵本の制作を行っているえがしらさん。 代表作のひとつが『あめふりさんぽ』。

『あめふりさんぽ』(えがしらみちこ・講談社)

水彩絵の具を使った透明感のある絵が特徴です。 

(えほんやさん代表・えがしらみちこさん)
「その時の空気感、言葉にできないような匂いとか、触った感覚とか、そういうふわっとしたものを感じとってほしい」

ストーリーは、日々の子育てや娘との会話から発想を膨らませているそうです。

(えほんやさん代表・えがしらみちこさん) 
「娘と話している中で、ん?と思ったり、私が言わないような言葉だなってひっかかったことをノートにメモしたりとか、もっとこういう世の中になったら素敵だなって思ったことをちょっと膨らましたり。花が咲いてきれいだなとか、天気よくて気持ちいいなとか、今の気持ちいい、楽しいを大切にしてほしいっていうのがにじみ出ればいいかなと思っています」 

 店に足を運んでもらうことの価値 

「えほんやさん」は代表のえがしらさんと店長を務める妹の福江寛子(ふくえ・ひろこ)さんの二人三脚で、店作りを進めてきました。 

店長・福江寛子さんとえがしらさん

子育て中の母親や父親が足を運ぶきっかけ作りとして、絵本の読み聞かせを行う「おはなし会」を開催。 

「おはなし会」の様子

絵本作家のトークイベントや親子で参加できるワークショップも定期的に計画し、コロナ禍の中でもオンラインで続けてきました。 

トークイベントの様子
オンラインでイベントを行う様子
6月に出産予定の女性

(6月に出産予定の女性) 
「ふらっと立ち寄れるじゃないけど、散歩がてら入れる気軽さはすごくいいなと思いました。私自身絵本はよく買ってないから、それをアドバイスしていただけるのはすごくありがたいなと思います」

3児の父親

(3児の父親)
 「子どもが英語を習っているので連れて行って、ふらっとしてたら楽しそうな店があったので寄ってみました。絵本が好きなので、また子供を連れて来ようかなと思います」 

おもいでシール

こちらは買ったときの思い出を書いて絵本に貼れる「おもいでシール」。
インターネットではなく、実際の店で本を買うことに価値を感じてもらうための工夫です。 

(えほんやさん代表・えがしらみちこさん) 
「インターネットで買ったものって私覚えてないんですよね。でも本屋さんで買うと、ここで選んだとか誰がそばにいたとか、すごく覚えているので。どこかに行って買うっていうのも体験で、その人を構成する要素になるなって思ったので、そういうのを一個一個大切にできると見えてくるのかなって。
こういう場所があってよかったって話はちらちら聞くことがあって、すごくありがたいなって思うのと、絵本が好きな人たちが集まってくるので、だんだんつながりが強い人たちが増えてきた感じはしています」

 三島の街とともにこれからも

えがしらさんの絵本の中には、三島市の街の風景も登場します。 

三嶋大社 『あのね あのね』(えがしらみちこ・あかね書房)より
三島市の商店街 

正岡子規や島崎藤村をはじめ、多くの文豪が訪れたことでも知られる三島市。
文学とゆかりの深いこの街で、書店文化を守りながら、人と人がつながる場所を一歩一歩つくっていきたい。「えほんやさん」が描く未来です。 

(えほんやさん代表・えがしらみちこさん) 
「三島由紀夫もこの三島から名前を付けたとか、文化的な街なので、もともとあるいいものが集まってわーって花開いたら素敵だなって。
畑を耕して種が芽を出すには時間がかかるけど、目の前のやれることを地道にやっていったら、何かがきっかけでもっと盛り上がったりできるんじゃないかなと。
子育て中のお父さんお母さんとか、子供がいなくても、疲れちゃったっていう方がふらっと来て、ここが好きって言ってくれる人がちょっとでも増えたらいいなと思っています」

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