ページの本文へ

静岡WEB特集

  1. NHK静岡
  2. 静岡WEB特集
  3. 街に本屋を残していくために【#まちほんTRIP】NHK静岡

街に本屋を残していくために【#まちほんTRIP】NHK静岡

静岡市葵区「ひばりブックス」
  • 2023年04月21日

 

近年、活字離れや人口減少による経営難、電子書籍の普及などにより、街なかにある本屋が次々と姿を消しています。静岡県もその例外ではありません。
一方で厳しい状況の中でも、本と人との出会いを大切にする「書店文化」を残したいと、居心地の良い空間や棚づくりにこだわる小さな本屋が、県内にいくつもあります。 
そんな場所を訪ねて歩く、新シリーズ「#まちほんTRIP」
個性あふれる本棚を探しに、街の本屋へ一緒に旅に出てみませんか?

街に本屋を残していくために 静岡市葵区「ひばりブックス」

駿府城公園の近く、通りの風景に溶け込む 一軒の小さな本屋。その歴史も2年半あまりと小さな、新刊書店 「ひばりブックス」です。

静岡市葵区鷹匠にある「ひばりブックス」

18坪のコンパクトなスペースにおよそ1万2千冊が並べられ、奥にはギャラリーとカフェも併設されています。

店内の様子
店の奥にあるギャラリー

品揃えはまさに「本好きがうなる」厳選ぶり。知名度の高い作家の本だけでなく、外国文学、絵本、アート、人文書、詩集・歌集など幅広いジャンルが揃います。子どもからお年寄りまで多い日には1日100人ほどが訪れ、思い思いに本を手に取ります。

人文書が並ぶコーナー
本を手にする客

(オープン当初から通う常連客)
「月に2度は必ず来ています。気軽に入れてゆっくり過ごせるのが魅力です。店主さんの思いの詰まった本がぎっしり並んでいて、きょうはどんな本に出会うかなってワクワクします」

オープン当初から通う常連客

大手書店閉店の衝撃 同じ地域での再出発

代表の太田原由明(おおたはら・よしあき)さん、53歳です。
本の仕入れから棚の並べ方、ギャラリーの運営までを一手に担っています。

代表の太田原由明さん

「10代のときは本しか読んでいなかった」いわゆる本の虫だったという太田原さん。
学生の時に静岡県を中心に展開する大手の戸田書店でアルバイトを始め、それから20年以上従業員として働いてきました。

大手書店で働いていたころの太田原さん

転機が訪れたのは3年前の2020年7月。
当時勤務していた戸田書店静岡本店が閉店することになったのです。店は静岡駅前の人通りの多い場所にあり、県内でも最大の売り場面積を誇っていただけに、大きな衝撃を受けました。

閉店した戸田書店静岡本店

(ひばりブックス代表・太田原由明さん)
「かなり状況が厳しいことはわかっていましたが、自分でもまさかという感じがありました。県内で一番大きな書店で、愛してくれていたお客様がたくさんいました。こういった大きな書店がなくなってしまうのは、すごく寂しい思いがありました

太田原さん

本を探しに来てくれていた人たちとのつながりを、何とか残したい。
太田原さんはそのわずか2か月後、閉店した戸田書店から1kmほどの距離にある現在の場所に「ひばりブックス」を立ち上げたのです。

オープン準備中

自ら取引先と交渉して仕入れルートを確保したり、本を並べる棚を元勤務先から格安で譲ってもらったりと、試行錯誤を繰り返しながらの再出発でした。

オープン当日(2020年9月)

(ひばりブックス代表・太田原由明さん)
「街なかからどんどん書店がなくなっていく状況だったので、その流れに抵抗したいという気持ちがありました。自分ができる範囲で、街の書店のいいところを残していきたかったんです

本を並べる太田原さん

「小さな書店がオープンするってとても嬉しい」「楽しみにしています」
本屋を開くことをSNSや店頭のポスターで発信すると、たくさんの期待の声が太田原さんのもとに寄せられました。その期待に応えたいと、自分のこだわりを反映した品揃えを実現しつつ、地域の人たちが気軽に入って来られるような店作りを目指しました。

品揃え豊かな店内

減り続ける書店 静岡でも

日本全国で減り続けている街の本屋。静岡県も例外ではありません。
日本出版インフラセンターの調査によりますと、2012年に531店あった静岡県内の新刊書店の数は、2020年には357店と10年間で3割以上減っています。新刊書店が一つもない自治体も県内に3つあり(出版文化産業振興財団 調べ)、本屋は身近な存在でなくなりつつあります。

多くのジャンルを扱う大型書店でもすべての本をカバーすることはできないため、書店の選択肢が減ることは読者が本に出会える可能性が減っていることでもあると太田原さんは言います。
 

(ひばりブックス代表・太田原由明さん) 
静岡市はとても豊かな書店文化があった街でした。それぞれの書店に個性があったので、あの本を買いたいならここに行こうという選択肢がたくさんありました。でも今は車でないと行けない距離だったり、大型ショッピングセンターの中に入っているという形で、本との距離がどんどん広がっています

本との偶然の出会いを多くの人に

実際に本屋を訪れるからこそ可能な、予期せぬ本との出会い。
太田原さんは長年の書店員としての経験を生かしながら、大手書店で働いていた時にはあまりできなかったお客さんとのコミュニケーションを大切にしています。

(店内にて)
太田原さん「詩集がこのあいだ出たんですよ」
客「そうですか!」

客と話す太田原さん

(客)
「太田原さんに聞くとやっぱり答えてくれるので、これまで読んでこなかった本とか違うジャンルの本にも、興味がわくきっかけになったりします」

訪れた客

店内に入ってすぐのスペースにある台には、自ら選んだおすすめの新刊本。

太田原さんおすすめの新刊書コーナー

壁沿いの棚では関連のある本同士を近くに並べて目に留まるようにするなど、お客さんの興味が自然と広がっていくような工夫がされています。

外国文学のコーナー
詩集・歌集コーナー

(客) 
「本って書店に来なくてもネットで買えるんですけど、こういう店主さんの一押しの本というかそういうものが並んでいると、ネットで買うよりも実際に店舗にきて手に取ってみたくなります。周りを見渡すと気になる本だらけで楽しいです」

訪れた客

(ひばりブックス代表・太田原由明さん)
「たまたま入った書店で知らなかった本と出会ってそれが自分の人生に大きな影響を与えた、そういうことがあると思うんですね。特にこの店はそういった出会いが生まれる確率が高いし、それを目的でやっているので、できるだけ自分の好奇心や感性を広げるような本と出会っていただけたらなと

ネット通販にない強みを

地域に寄り添いながら営業する街の本屋にとって最大の脅威、それがインターネット通販です。注文した翌日に自宅に届く便利さにはとてもかなわない。同じ土俵に上がるのではなく、その便利さに対抗できるものをリアルの本屋が提供できるかどうかが大事だと太田原さんは考えています。

お互い顔の見える距離感のお客さんとは1対1の関係を大事に。少女コミックの月刊誌を置いてほしいという小学生のリクエストや、婦人雑誌を置いてほしいという女性客の声を受けて、当初は置く予定のなかったそれらの本も今は毎月仕入れるようにしています。

客のリクエストを反映した雑誌コーナー

買った本がそのまま読める居心地の良いカフェ。

カフェ

アートを身近に感じられるギャラリーでの展示。

ギャラリーを楽しむ人

本の著者と読者が直接ふれ合えるトークイベント。

2023年2月に行われたトークイベント
(画像提供:太田原由明さん)

オープンからの2年半、この店を直接訪れることに価値が生まれるような取り組みを重ねてきました。

一日でも長く続けていきたい

書店経営の厳しさと奥深さ、両方を肌で知る太田原さん。
思い描く将来は、一日でも長く本屋を続けること。そして、地域の人たちが気軽に足を運べる場所を守っていくことです。

(ひばりブックス代表・太田原由明さん)
本屋という空間はとても自由な空間だと思っています。ふらっと入ってきて何も買わずにそのまま出て行ってもいいし、子どもからお年寄りまで誰も拒むことのない空間、そういう場所を守りたい。そこで少しでも自分の世界を広げるものを見つけていただく。そういう場所になれたらなと思っているので、一日でも長く続けていきたいと思っています」

  • 静岡局

    甘粕亜美

    2018年入局。
    大学では小説の批評・創作を専攻。旅先では必ずその土地の本屋さんを訪ねています。

ページトップに戻る