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まるで本屋の集合住宅?みんなで作る本屋「ヒガクレ荘」静岡市

【#まちほんTRIP】第3回 NHK静岡
  • 2023年06月22日

静岡の小さな本屋を訪ねる【#まちほんTRIP】第3回は、静岡市中心部にある「本とおくりもの ヒガクレ荘」です。店内で目を引く正方形のマス目が連なる本棚は、その一マスごとに店主がいる「貸し本棚」。どんな人がどのような思いで本を並べているのでしょうか?借り手の個性が集まる「他のどこにもない本棚」、その魅力に迫ります。

個性あふれる異色の本棚を訪ねて

かつて多くの映画館が軒を連ね、文化的なエリアとして今も知られる、静岡市中心部の七間町通り。

七間町通り

その一角にある細い入り口を進むとたどり着くのが、「本とおくりもの ヒガクレ荘」です。

「ヒガクレ荘」の入り口

計1000冊を超える新刊本や古本に加えて、雑貨も扱うレトロな雰囲気。

「ヒガクレ荘」店内

記念日に「おくりもの」にしたくなる、そんなコンセプトで選ばれた品々が並びます。

店長おすすめの新刊本
「おくりもの」にしたくなる雑貨

店内でひときわ目立つのが、正方形のマス目が連なるこちらの本棚。

実はこれ、一つ一つのマス目に店主がいる「貸し本棚」なんです。縦横31cmのマス目は全部で28個。それぞれが月額料金で貸し出され、借りた人=「棚店主」がそこに自由に本を置いて売ることができるシステムです。

「貸し本棚」

並べる本の種類や入れ替えるタイミングは「棚店主」の自由。こちらはカエルに関連する本だけを並べている棚。

カエルがテーマの棚

本の中身がわからないようカバーをかけ、手書きであらすじを添えて、本を選ぶわくわく感を演出する棚もあります。

(訪れた人)
「個人で本棚を持っている感じが初めてだったので、こういう本屋さんもいいなと思いました。結構本って個人で好みが偏るじゃないですか。それをひとりひとり眺めている感じがして、テーマもいろんなものがあってすごく面白かった」

訪れた人

「貸し本棚」が店の魅力をアップ

「ヒガクレ荘」店長の小島有加(こじま・ゆか)さん、31歳です。
さまざまな個性が集まる「貸し本棚」は、お客さんと借り手で異なる魅力があると言います。

小島有加さん

(ヒガクレ荘店長・小島有加さん)
「28人それぞれの趣味嗜好がすごく分かるって感じで。お客さんにとっては人のおうちの本棚をのぞいているような気分になれたり、(棚を)借りる側としての魅力は本を通じてコミュニケーションを取ったり、自分でちっちゃい本屋をやっているみたいな感覚で運営している方が多いかな」

2020年11月にオープンした「ヒガクレ荘」。
店の名前は「本を読んでいたら、もう日が暮れてしまいそう」というフレーズと、本を通じてアパートのように隣人同士の交流が生まれてほしいという思いから名付けられました。

当初は「貸し本棚」の運営を軸にしたいと考えていたため、新刊本はほとんど仕入れていなかったと振り返ります。

オープン当日の店内
(2020年11月)

(ヒガクレ荘店長・小島有加さん)
「スタッフの中で本屋の経験をしたことがある人がいなかったので、どれくらい仕入れたらいいのかとか全く分からない状態で始めたので、不安にもならないみたいな。手探りすぎて何をしていいやらみたいな感じでした」

「貸し本棚」を最大の売りとしてスタートしたものの、店を訪れるお客さんの声はさまざま。新刊や好みの本を探しに来た人にも応えたいと、次第にエッセイやアート、絵本など幅広いジャンルの本も仕入れるようになります。

エッセイや旅の本が並ぶ棚
店内(2023年6月)

そうした中で気づいたのが、自分が仕入れた本と「貸し本棚」に並ぶ本の個性がそれぞれに補い合って、この店にしかない品ぞろえの魅力を生み出していることでした。

左:「貸し本棚」右:新刊本の棚

(ヒガクレ荘店長・小島有加さん)
「いま新刊で取り扱っている本って、例えば漫画やライトノベルとかは取り扱いが少ないんですけど、そういうのを「貸し本棚」の店主さんが置いていただくことによって、本屋としてのバリエーションが増えてくるなって感じます」

「貸し本棚」に並ぶ漫画本

28個ある「貸し本棚」は現在すべて埋まっていて(※2023年6月時点)、20代から70代まで幅広い年齢層の「棚店主」が思い思いに本を並べています。

「貸し本棚」を眺める客

さらに最近は使い方にも変化が。
売りたい本だけでなく、自分で作ったZINE(個人で作る雑誌)やフリーペーパーを置くなど、このスペースを表現の場として活用する人も増えているのです。

31cm四方の本屋 営む楽しみ

およそ1年前から「貸し本棚」を借りている、根本里苗(ねもと・りな)さんです。

根本里苗さん

お気に入りの本に加えて、自分で書いた文章を載せたフリーペーパーなどを置いています。

(根本里苗さん)
「日常の中で気になった言葉を1個テーマにして、中に3つぐらいですかね、文章を載せていて」

フリーペーパーを見せる根本さん

ふだんは事務系の仕事をしている根本さん。幼いころから本を読むことが好きで、本に関わり続けたいという思いから棚を借りたと言います。

(根本里苗さん)
「本当は本に関わることがしたいと漠然と思っていたんですけど、会社で事務をやってるのですぐに本を作るっていうことに結びつかなかったんです。でもぽろっと「本作りたいんですよね」って小島さんに言った時に、フリーペーパーから始めてみたらっていうそのひと言で作り始めて」

店長・小島さんと根本さん

自分の作品をこの棚に置けばお客さんに見てもらえる、それが制作のモチベーションにもなっています。文章の中で紹介している本を同じ棚に置くなど、小さな工夫と自己表現を楽しんでいます。

根本さんの棚

(根本里苗さん)
「本当に小さい本屋さんを始められたってすごく嬉しい気持ちになりました。始める時に思ったし、今も棚の入れ替えをする時は思います。本好きな人は自分の読んだ本とかおすすめの本をみんなに知ってほしいっていう気持ちもあると思うので、本棚を持って本屋さんできたって思う時の喜びの1つだなと」

根本さん

本が好きな人同士のつながりを作る

棚の借り手同士のつながりを作ろうとする取り組みも進んでいます。

「ヒガクレ回覧板」

コロナ禍の中でお互いを知ってもらうために始めたフリーペーパー「ヒガクレ回覧板」では、毎回テーマを決めて「棚店主」から募集した文章を掲載。

「積読」がテーマの「ヒガクレ回覧板」

「積読」がテーマの回では、
「なんで読む時間も無いのに本を買うのか…」「積読に罪悪感は不要!」。

棚店主のコラム

15人から「積読」している本やそれについてのコラムが届きました。本好きにとっては誰もが身に覚えのある「積読」なだけに、自然と盛り上がりました。
(※「積読」(つんどく)とは、買ったものの読まずに本を積んでいること)

(ヒガクレ荘店長・小島有加さん)
「棚店主さんの人数は増えていたんですけど、(コロナ禍で)実際に会っての交流が全くできない状態でした。これをやる面白さって本好きの人に出会えるというのがひとつ大きなものだと思っていたので、何か紙面上だけでもちょっと交流というか、どんな方が借りているのかってお互い分かるようなものを作りたいなと思って」

「ヒガクレ回覧板」のデザインはすべて小島さんが担当

当初は小島さんがテーマを設定していましたが、最近は書き手からテーマを募っています。
最新号の「本と飲み物のいい関係」は根本さんが考えました。

「ヒガクレ回覧板」第8号

直接会ったことはなくても、好きな本や文章から人となりを想像することが、「棚店主」同士はもちろん、フリーペーパーを読むお客さんにとっても楽しみの一つとなっています。

(根本里苗さん)
「出来上がった時にいろんな人の文章の中に自分の文章があるってすごく面白いし、それ(「ヒガクレ回覧板」)に参加してみたいなと思ったのも棚を始めるきっかけだったので、おすすめの本を紹介できたりとかそれがきっかけで話ができたりとか、すごくつながっているなっていう感じがします」

他の「棚店主」の本棚を見る根本さん

本屋を始める人が出てきてくれたら

本を通じた人と人の交流を大切にしてきた店長の小島さん。お客さんへのこまやかなサービスも欠かしません。

本を買った時期や場所を思い出してもらえるよう、新刊本につけるブックカバーは季節ごとに絵柄を自らデザイン。

季節限定のブックカバー

本と読者をつなぐ場所にいられるというやりがいを日々感じながら、これからも本が好きな人たちのよりどころでいたいと考えています。

(ヒガクレ荘店長・小島有加さん)
「本を買うっていうのは買ったときの思い出も込みだとすごく思っていて、いつどこの本屋さんで誰といた時にこの本を購入したかっていうのも、ひとつ本を買う思い出。それはネットじゃなくて、実際の本屋さんに足を運ばないと得られない体験だなと思っています。だから目標は本当に一日でも長く続けたいっていうことと、長く続けた先でヒガクレ荘がきっかけで自分も本屋を始めましたっていう人が1人でも現れてくれたら、それはすごく本望だなと思います」

「ヒガクレ荘」店長・小島有加さん

本編動画はこちら↓

  • 静岡局

    甘粕亜美

    2018年入局。
    大学では小説の批評・創作を専攻。旅先では必ずその土地の本屋さんを訪ねています。

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