所信表明 脱炭素社会実現
経済界の取り組みと課題は

菅総理大臣は26日に召集された臨時国会で、初めての所信表明演説を行い、脱炭素社会の実現に向けて「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明しました。脱炭素社会の実現に向けた経済界の取り組みと課題をまとめました。

脱炭素社会の実現に向けて経済界では、企業のイノベーションを後押しし投資を働きかける取り組みや、将来の電源構成をめぐる議論が活発になっています。

このうち経団連は、ことし6月に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指すプロジェクトを立ち上げました。

このプロジェクトでは、温室効果ガスの削減につながる企業の最新の技術などを公開し、異業種や大学などと連携する仕組みづくりを目指しています。

これまでに自動車や電機、鉄鋼など日本経済をけん引してきたメーカーをはじめ銀行や大手商社など、160余りの企業や団体が参画しています。

経団連では、参画した企業への投資を投資家や金融機関などに働きかけるとともに、環境省とも定期的に意見交換を行って、脱炭素社会の実現に向けて協力していきたいとしています。

経団連の中西会長は、菅総理大臣の26日の所信表明演説を受けたコメントの中で「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることは、達成が極めて困難な挑戦だが、経団連としてもイノベーションを通じた脱炭素社会の早期実現に一層、果敢に挑戦していく」としています。

一方、経済同友会は、2050年ごろまでに温室効果ガスを実質ゼロにすべきだとしたうえで「原子力発電の電源比率が現状の水準にとどまったとしても、削減に貢献できる」として、2030年までに再生可能エネルギーの比率を40%にまで高めるべきだと提言していて、脱炭素社会の実現に向けて経済界でも取り組みや議論が活発になっています。

削減目標の歩み

温室効果ガスの削減目標について政府は、4年前に策定した地球温暖化対策計画で、「2050年までに80%削減することを目指す」と初めて長期目標を掲げました。

そして、去年まとめた地球温暖化対策の長期戦略では、「今世紀後半のできるだけ早い時期に『脱炭素社会』を実現することを目指す」としました。

一方、海外では、EU=ヨーロッパ連合が去年12月の首脳会議で、2050年にはEU全体として温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げることで一致。

先月には、中国の習近平国家主席が温室効果ガスの排出量について「2060年までに実質ゼロを実現できるよう努力する」と表明しました。

また、アメリカ大統領選挙に立候補している民主党のバイデン氏も、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指すとしています。

こうした中、小泉環境大臣は先月の記者会見で「世界全体が今、意欲を高めて目標を掲げ、切磋琢磨(せっさたくま)していくことは間違いなく脱炭素社会の実現にとってプラスだ」と述べ、日本も、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標を掲げるべきだという考えを示していました。

“実質ゼロ”達成するには

では、この目標を達成するにはどんな取り組みが求められるのか。

初めて長期目標を掲げた4年前の地球温暖化対策計画には、すでに掲げていた「2030年度までに26%削減」という中期目標を達成するための対策も初めて示されました。

例えば、家庭分野では、2030年度までに▼照明をすべてLEDなどの消費電力の少ないものに置き換えることや、▼燃料電池を去年時点のおよそ17倍に当たる530万台まで増やすことが必要だとしています。

さらに、販売される新車のうちハイブリッド車や電気自動車などの割合はいまは4割ほどですが、これを2030年度までに5割から7割程度にまで引き上げる必要があるとされました。

2050年までに「実質ゼロ」を達成するには、こうした取り組みにとどまらず、さらなる削減につながる対策が求められることになりそうです。

また、「実質ゼロ」を達成するには、温室効果ガスの排出を抑えるだけではなく、排出されたものを回収する技術の普及も欠かせないとされています。

国内では、二酸化炭素を回収するための技術開発や、回収した二酸化炭素を地下に閉じ込める実証実験が進められていますが、広く普及するまでには相当の時間がかかると見られています。

さらに、環境省は二酸化炭素に値段をつけ、排出量に応じて企業や家庭にコストを負担してもらう「カーボンプライシング」と呼ばれる制度について、導入の効果や課題の検討を進めていますが、経済界の一部などからは慎重な意見も出ています。

専門家「簡単な目標ではない」

地球温暖化対策に詳しい東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授は、「2050年までに脱炭素社会を実現するというのは、今の社会の延長線上で達成できるような簡単な目標ではない」としたうえで、「明確な目標ができたことで、例えば、数十年稼働する火力発電所を今後、建設するときにはどんなものにする必要があるかを考えるなど、いま、取り組まなければならない課題が見えてくる。これまで以上に、一人ひとりが、温暖化対策を考えることが求められるし、抜本的な政策転換が必要になる」と話していました。

中国「称賛し歓迎する」

菅総理大臣が、26日行った所信表明演説で、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明したことについて、中国外務省の趙立堅報道官は26日の記者会見で、「中国として、称賛し、歓迎する」と述べ、評価しました。

そのうえで、趙報道官は、「気候変動の問題は、全人類が直面する問題であり、多国間主義を堅持することが必要だ。中国は、日本など関係各国とともに、パリ協定を進めていきたい」と述べました。

中国の習近平国家主席は、先月の国連総会で、中国は、2060年までに、温室効果ガスの排出量の実質ゼロを実現できるよう努力すると表明しています。

国連事務総長「指導力に感謝」

菅総理大臣が、26日行った所信表明演説で、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明したことについて、国連のグテーレス事務総長は26日、声明を発表し「とても勇気づけられる。極めて前向きな進展であり、菅総理大臣の指導力に感謝したい」として歓迎しました。

そして「この目標を達成するための具体的な政策を日本が示すことを待ち望んでいる。それは他の国々が政策を定める手助けになる」と述べて、日本が今後打ち出す具体策は各国の温暖化対策にも参考になるという認識を示しました。

そのうえでグテーレス事務総長は「日本がこの目標の達成のために必要な技術と資金を持っていることに疑いの余地はない。発展途上国に対して再生可能エネルギーの技術や資金支援に取り組むことを確信している」として、日本が温暖化対策で世界をリードすることに期待を示しました。