選挙の制度がなんです
~2万人議員アンケート

日本には「地方議員」が3万人もいることをご存じですか?
今回、その全員に初めてのアンケートを行いました。回答してくれたのは2万人近く。NHKでは1か月にわたって、そのホンネをお伝えするキャンペーンを展開します。

今回は、選挙制度について。法律に問題がある、立候補しにくい状況がある、そして無投票を防ぐアイデアがあるなど、さまざまな意見をご紹介します。

カネがかかる!

公職選挙法では、資金力のある候補者が有利にならないよう、自治体が選挙運動の費用の一部(自動車・ポスター・ビラ)を負担する制度があります。しかし、何についての費用をいくら負担するかは、自治体がそれぞれ決定します。

このため「格差がある」と、不満や要望の声があがっています。

「選挙の時は市は公費負担があるのに町村はないのでとても大変である。町村も公費負担があると助かるのに市があって町はなぜないのか?」(60代女性議員)


「報酬等はそれぞれ自治体の規模によって違うことは当然ではあるが、少なくとも選挙時に於ける公費負担は同等にすべきと思っている」(70代男性議員)

「町村議会議員だけ、ポスターの経費、選挙カーの経費が自己負担になっている。供託金がないからという説もあるが、実に不合理な制度と思う。若い人、女性は立候補するときに選挙にお金がかかることがネックになっている。町村議員のポスター、選挙カーも公費負担にすべきです」(70代男性議員)

いや、市であっても負担がないぞと、60代の男性市議はいいます。
「私の市では選挙に対するポスターや選挙カーについて公的負担がまったくない。また政務活動費もない状態であり他の市と比較しても不公平と考えている。この状態では若い人の立候補が難しいと考えている」

ビラが解禁されたのに…

今回の統一地方選挙から、都道府県議選や市議選でも選挙運動用のビラの配布が認められました。しかし、ビラには選挙管理委員会が交付する証紙を貼り付ける必要があります。

40代の男性議員は、この作業のために組織力のある候補が有利になるとしています。
「公職選挙法の現代化を。証紙貼りなど現職(既成政党)有利のような参入障壁は不要」

供託金が高い!

立候補する際には、「供託金」を法務局に預ける必要があります。これは当選する見込みのない人がむやみに立候補をするのを防ぐために作られた制度で、町村議に立候補する場合は必要ありませんが、都道府県議や市議は必要です。

高すぎて新人に不利だというのは、60代の男性議員です。
「選挙では新人は期待度が高く、比較的攻める事ができ、チャンスと思います。その意味では普通に立候補しやすいが、供託金が高いと思います」

女性議員を増やすためにも、供託金を廃止すべきだと70代の男性議員はいいます。
「女性議員を増加させるには、報酬アップ、子供の世話、家族の理解、供託金を全廃することが必要である」

50代の女性政令市議は、やはり政党がバックにいる人の方が立候補しやすいという意見です。
「政党人でない人は立候補しにくい(高すぎる供託金)→供託金廃止で多くの人が立候補できるようにしたい」

逆に、町村議でも供託金が必要というのは70代の男性議員です。
「町村議会議員の立候補者にも供託金を若干課すべきと考えます。議員になれば良いという考えの議員がおり、自覚が不足している。出馬しやすい反面、当選してからやる気がみえない」

戸別訪問を解禁して!

50代の男性議員は、戸別訪問ができないことも障壁になっていると考えます。
「公職選挙法が複雑すぎる。選挙カーに乗り、名前を連呼する立候補者の方が当選しやすいなんて、どうかしている。欧米のように戸別訪問を認めて、選挙カーと拡声器を使わない選挙戦にしていかなければならない。そうなれば、主婦も出馬しやすくなるだろう」

60代の男性議員も同じ意見です。
「戸別訪問は議員活動の本義。国際標準では当然のことで、禁止している公職選挙法は改正すべき」

70代の男性議員は、有権者との相互理解に必要だと。
「戸別訪問や議員の挨拶状などについても、ある程度許されるようにしなければ、議員と町民の間の相互理解が生まれにくい」

いや、実態は違う!と

一方、70代の男性議員は、実態は違うので厳しくしてほしいと訴えます。
「公職選挙法をもっと厳しく戸別訪問、事前運動を厳しく取りしまる」

別の男性議員は、だからこそ法律が建前に過ぎないと。
「公職選挙法は『たてまえ』が多すぎる。戸別訪問や選挙期間の設定など実態に合ったものにすべきと強く思う」

戸別訪問に限らず、選挙カーより対話が重要、と40代の女性議員は訴えます。
「選挙がハードル高い→遊説車など。日本の選挙運動を対話形式に変える必要ある。現在は一方通行」

寄付も見直してほしい?

政治家が選挙区内の人に寄付を行うことは、特定の場合を除いて禁止されています。結婚祝いや香典(政治家本人が出席して渡す場合は罰則が適用されない場合あり)、お祭りへの寄付や差し入れ、病気見舞い、入学・卒業祝い、開店祝いや葬儀の花輪、お歳暮など、いずれも禁止されています。

これについて、70代の男性議員は、厳しすぎるという意見です。
「公選法の寄付の禁止に関するものは、立候補前のその人の行動を全否定しなければならない位のきびしさを感ずる。地方議員は人間的なおつきあいの中から生まれて来るもののような気がするのだけれど、もう少し慣行になじんだものに出来ないだろうか?」

別の70代の男性議員も同様の考えです。
「公職選挙法の規定でおかしな処がいくつもある。例えば年賀状(印刷物)の禁止、選挙前リーフレット、冠婚葬祭のしばり、寄付の規定など、一般社会人としてのおつき合いや、礼を欠くものになっている。議員活動の見えにくさや、理解不足の一因といえるのではないか。なり手不足解消には、公選法の見直しが必至ではないか」

いや、そんなことをしたらもたない、というのは40代の男性議員です。
「普段の政治活動においても冠婚葬祭などお金がかかる実態であります(葬式は本人ならば香典大丈夫であるというルールをアウトに公選法を変えない限り地方議員は香典代が今でいう“半端なく”かかってしまっている実態です)」

60代の女性議員は、むしろ厳しくした方がいいと。
「公職選挙法はグレーゾーンが多すぎる。分かり易い表現にして誰でもとっつきやすくしたほうが良い」

今回のアンケートで、「公職選挙法はルールが複雑すぎるか」という問いに対し、「とてもそう思う」「ある程度そう思う」と答えた議員は、合わせて66%余り。3人に2人が感じています。

期日前投票では伝わらない

60代の男性県議は、「選挙期間」の意味が失われつつあると訴えます。
「期日前投票が増えているが、選挙期間中に投票が終わってしまう。事前活動をゆるくしないと、政策・考え方が伝わる前に終わってしまう。おかしいと思う。選挙期間の意味が問われる」

50代の男性議員も、事前の選挙活動を緩める必要があるとしています。
「若手の新人議員をつくるためには、今の公職選挙法に問題がある。事前の選挙活動ができないならば、無名の一般人は自身の政策や想いを伝える事ができない。ある程度は政策討論が選挙前にできてもいいのではなかろうか」

議員は選抜制で!

選挙を減らして、選抜制にするべきという大胆な提案をするのは、60代の男性議員です。
「私見としては大幅な選挙制度改革の必要性を感じています。今年のように選挙が多すぎると感じている人も多く、投票率の低下も招きます。
最初に市議会議員選挙を行い、当選した議員の中から都道府県議会議員と衆議院議員の選挙区議員を選出し、参議院議員は全国比例のみで選出するなどの改革をしては如何かと思います」

無投票をなくす方法

別の60代の男性議員は、立候補者が定数内でも選挙を行い、一定の得票がなければ議員になれない仕組みを導入すべきだと提案します。
「各地の選挙で定数と立候補者が同数のため無投票当選が多いように思います。同数でも投票行動が必要ではないかと思っています。選挙になれば法定得票数に達してなければ議員にはなれない。議員の質にも関与してくるのではないでしょうか」

80代の男性議員も、選挙になる仕組みが重要だとしています。
「地方議会の議員のなり手がなく、無投票の市町村が多くなっている。必ず選挙になるようなしくみが必要と考える。たとえば無投票となった場合、次の選挙は定数を削減する取決めや、町村については報酬の引き上げを実施すべきと考える」

60代の県議会議員は、1人区が問題だと訴えます。
「選挙区は極力『定数3人以上の中選挙区』にすべき。1人区、2人区での無競争が多数」

1人区については、50代の女性県議は、別の意味でなくしたほうがいいと考えています。
「一人区の解消を図るべきである。(合区にして、複数の議員により活動する方が、住民生活の向上、福祉の充実へ繋がると考える)」

「マイナス票」のアイデア

50代の男性市議は、マイナスの票も投票できるようになればいいと。
「票は積み重ねであるが、マイナス票も入れられると、議員の質も向上すると思われる」

いっそ、市民から抽選で!

いっそのこと、市民から抽選で選んだ方がいいというのは、40代の男性議員です。
「投票率が低すぎるので『選ばれていない』当選議員。陪審員制度のように議員も市民からアトランダムで抽選すればいい。議員同士は大なり小なり敵。この構図では話し合いや助け合ってよい政策を考えたりできるわけがない」

選挙戦の実態

選挙戦がこんな実態になっている、という不満の声も相次ぎました。

40代の女性議員からはこんな声も。
「何がしたいのか分からないが、当選が目的、選挙の度に所属政党がかわっても恥じる事のない『政策はマーケティング』と言ってはばからない議員が増えている」

70代の男性議員は、地域が変わらなければダメだと訴えます。
「まだまだ地域推薦などの悪弊が残っており、情熱や力量だけで当選するにはほとんど難しい。資金、縁故、組織、地域絡みが大変強いのが現実である。本当の意味で金のかからない選挙、人物本位の選挙へと、住民の意識が変わって欲しい。選挙が終わるとすぐに、またあいつが当選しとると批判めいた話しが出るが、要は、つまらない議員を選ぶ選挙民の意識改革こそが大事」

まじめな議員ほど不利!?

50代の男性議員は、まじめな議員ほど選挙では不利だと考えています。
「議員の能力、政策が選挙に反映されないしくみにもどかしさを感じています。仕事をすればするほど地域の会合や自治会、老人会等の活動に顔を出せません。一方、議会のことを何もしなくても、地域をニコニコ廻るだけで当選する議員もいます。一律で公開討論会等を聞けばある程度の能力や資質もわかると思いますが、しかける人がおりません。残念です。議員(候補者)を正しく判断できる有権者の“目”に期待しています」

ある県議もこういいます。
「タレント議員が選挙において有利であり、真面目に取り組んでいる議員にとって選挙は関門となっている」

70代の男性議員からは、こう見えているようです。
「選挙戦にエネルギーを使いすぎて、当選後の議員活動があまり見えない」

空中戦になってしまう

ある政令市議からはこんな声も。
「政令市は選挙区や有権者が多く、すべての方々の意見を取り入れることが困難。選挙も空中戦にならざるを得ない政治家としての能力よりも政党名で決められてしまう。そのため支持率の低い政党の新人は当選が難しい」

では、演説会を義務化しよう

こうした中、70代の男性議員からこんなアイデアも。
「選挙の時は、立合い演説会を義務付けるとおもしろい」

激戦の中から当選したい

最後に、60代の男性議員の声を紹介します。
「多くの方に立候補していただき、激戦の中から当選したい。議席を確保する為だけに選挙をし当選後は安穏としている議員もいる。有権者には厳しい目で投票して欲しい」

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寄せられた声をもとに、記事は随時更新していきます。一旦、集計は終了しましたが、ご意見は今後も参考にさせていただきますので、まだ回答されていない議員のかた、お待ちしております。
また、議員の方だけでなく、読者の皆様にも、地方議会の課題についてのご意見をいただきたいと思います。下の画像をクリックしていただけると、「ニュースポスト」が開きます。そちらにぜひ、「議員アンケートについて」などと書いて、投稿をお願いします。

【全議員アンケートについて】
NHKは、今年1月から3月にかけて、全国1788の都道府県・市区町村の議会と、所属する約3万2000人の議員全てを対象とした、初めての大規模アンケートを行いました。議員のなり手不足など、厳しい状態に置かれている地方議会の現状を明らかにし、「最も身近な民主主義」である議会のあり方について、有権者一人一人に考えていただく材料にしてもらおうというのが趣旨です。
約60%にあたる1万9000人余りから回答が寄せられています。集計結果をもとに、テレビ番組や特設サイト、そして週刊WEBメディア「政治マガジン」などで、統一地方選が終わる4月末にかけて「議員2万人のホンネ」と題したキャンペーン報道を行っていきます。

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