防衛装備品の輸出ルール緩和
なぜ“積み残し”起きたか

政府は12月22日、防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」とその運用指針を改正した。23回にわたる自民・公明両党の実務者協議でまとめた提言に沿ったものだ。一方で結論が出ず、引き続き与党で議論することになった課題もある。特に、他国と共同開発した装備品の第三国への輸出を可能とするかどうかについては両党の実務者が大筋で容認していたにもかかわらず、最終的に結論が出なかった。なぜ“積み残し”が起きたのか。その舞台裏を取材した。
(黒川明紘、佐々木森里、唐木駿太)

三原則と運用指針改正の内容

政府が22日に改正した「防衛装備移転三原則」と運用指針の内容は主に以下の6点。

①外国企業から技術を導入し国内で製造する「ライセンス生産」の装備品について、これまではアメリカに対して部品のみ輸出が認められていたが、完成品も含めてライセンス元の国や、そこから第三国に輸出することを可能に。

②「部品」の定義を定め、戦闘機のエンジンや翼といった部品については、殺傷能力のある武器には含まないとして、輸出を可能に。

③「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」という、5つの類型にあてはまり、本来業務や自己防護のために必要があれば、殺傷能力のある武器を搭載していても輸出を可能に。

④ウクライナに限られていた、防弾チョッキなど、殺傷能力のない自衛隊の装備品について、国際法違反の侵略などを受けている国に輸出を可能に。また自衛隊が保有していない装備品も輸出可能に。

⑤他国と共同開発した装備品について、第三国に対し、維持整備のための部品や技術については日本から直接、輸出を可能に。

⑥民間の業者が行う装備品の修理について、これまでアメリカ軍のみが対象だったものを、アメリカ軍以外の装備品の修理も可能に。

改正の意味は?

今回の改正が意味するものは何か。
最も大きいのは、「ライセンス生産」に限ってだが、これまで実質的に認めてこなかった殺傷能力のある装備品の完成品の輸出が可能になることだ。

PAC3

政府は早速、地対空ミサイルシステム「パトリオット」と呼ばれる、主に航空機や巡航ミサイルを迎撃する「PAC2」と主に弾道ミサイルを迎撃する「PAC3」をライセンス元のアメリカに輸出することを決めた。
アメリカ側が、ウクライナへの支援によって自国の迎撃ミサイルが不足しているとして要請してきたという。

一方でライセンス元の国から第三国に輸出する場合は「現に戦闘が行われていると判断される国へ提供する場合を除く」としていることから、アメリカから、ウクライナなどには提供されないことを確認しているとしている。

今の輸出ルール「防衛装備移転三原則」が策定されたのは2014年。
直接、人を殺傷し、または、戦いの手段として物を破壊することを目的とする、自衛隊法上の武器にあたる完成品の輸出はこれが初めてとなり、安全保障政策の1つの転換と言える。

共同開発・5類型が積み残し

一方、自民・公明両党の実務者協議で結論が出なかったことから、今回の改正には盛り込まれなかった課題もある。それがこの2つだ。

特に、他国と共同開発した装備品の第三国への輸出については、7月にとりまとめた論点整理で「大宗を占めた」という表現で、容認することで一致していた。

7月

これはイギリス・イタリアと共同開発を進める次期戦闘機を念頭にしたものだった。

自民党のメンバーの1人は必要性を強調した。

「第三国に輸出できなければ、売り込む際に、日本だけが何もできないことになる。その場合、今後本格化する3か国間での調整や協議にマイナスとなる可能性もある」(自民党の実務者メンバー)

実務者協議は内閣改造などを経て、多少メンバーが入れ替わりながらも11月以降、週1回だった会議を週2回開催し、改正に向けた提言のとりまとめを急いだ。

11月 自公の実務者協議

背景にあったのは、12月中旬に予定されていた日英伊3か国の防衛相会談。

それまでには少なくとも与党として、第三国に輸出することを可能と結論づけているという姿勢を示したい狙いがあった。

12月14日に行われた日英伊3か国の防衛相会談

なぜ公明は慎重に?

しかし事態が急変する。

公明党幹部が相次ぎ慎重な姿勢を示したのだ。

「実務者協議が意思決定をしたことではないし、党内議論のプロセスも未だに行われておらず、勝手な決めつけはすべきではない」(代表 山口那津男 12月5日)

幹事長の石井啓一や政務調査会長の高木陽介も、同様に共同開発品の第三国への輸出には慎重であるべきだと言及した。

自民党のメンバーからは憤りの声があがった。

「ちゃぶ台返しにもほどがある。この半年間は一体何だったんだ、時間を返して欲しい」(自民党の実務者メンバー)

なぜ公明党幹部は慎重な姿勢を示したのか。

11月21日、党の実務者協議のメンバーたちが、幹部へ議論の経過や提言の内容について説明をした。

その際、幹部たちが、「殺傷能力のある武器そのもの」とも言える戦闘機の輸出解禁に難色を示したという。
ある公明党幹部は振り返る。

「7月以降、メンバーから党内にほとんど説明がなく、いきなりすぎる。慎重になるのは当たり前だ」(公明党幹部)

それまでに党内で議論の場は設けられず、積極的に議論を進めてきたとは言えなかったのも事実だった。
とはいえ各種報道で実務者協議の議論は報じられており、幹部もそれを目にしていたはずだ。
関係者の1人は幹部もメンバーもお互いに真正面から議論し結論を出すことを避け続けたため、こうした事態に至ったのではないかと指摘する。

「平和の党」を看板に、集団的自衛権の行使容認をはじめ、安全保障に関する重要な政策を決定する場面で“歯止め役”を担ってきた公明党。

「これまでの政策の大きな転換となる話には、それにふさわしい議論のしかたがある。もっと丁寧に進めないと国民が議論に追いつけない」(公明党幹部)

”自民党との激しい応酬”を経てきた幹部と、実務者協議のメンバーの間には、意識の差があるようにも思えた。

膠着状態となる中、メンバーの1人はこう説いた。

「やはり輸出容認は党の信条的にハードルが高く、公明が前のめりになって自民と決めたという絵面になるのはダメだということだ。総理みずからがまず方向性を示したうえで与党が決めるという流れにならないと力学的に無理だ」(公明党の実務者メンバー)

自民党からも政府への不満が漏れた。

「政府が結論を出す時期を示すなど、もっとリーダーシップをとっていれば、こういう風にはならなかった」(自民党の実務者メンバー)

このため、岸田総理大臣と山口代表のトップ会談で決着をつけるべきだという意見もあった。

しかし最終的には「両党で一致した点を、まずは第1弾として提言にする」ということで折り合い、第三国への輸出については議論を続けるということで決着した。

第三国への輸出を容認するとどうなる

公明党が慎重な姿勢を示す、共同開発した装備品の第三国輸出を認めると何が変わるのだろうか。

国際展示会で展示された次期戦闘機のイメージ模型

今のルールでは共に開発を行った国(パートナー国)への輸出と、日本の事前同意があればパートナー国から第三国への輸出は可能だが、日本から直接、第三国への輸出はできない。

このルールを見直し、日本から第三国への輸出を可能とすると、共同開発した装備品であれば、これまで実質的に認めてこなかった殺傷能力のある完成品の輸出が、理論上は、どの国に対しても可能となる。

それは日本の安全保障政策にとって大きな転換となる。

落としどころは見いだせるか?

両党は12月13日、「第1弾」として提言をまとめ、政府に提出。

13日 自公の実務者協議で提言をまとめる

そこには共同開発した装備品の第三国輸出について
「政府が結論を出す時期を明確にした後、速やかに議論を再開する」という一文が盛り込まれた。

政府がこの議論を主導していないという不満の一端がかいま見えた。

これに対し、実務者協議のメンバーと会談した総理大臣の岸田文雄は「できるだけ早く政府として責任を持って対応する」と述べた。
そして政府の担当者は20日に開かれた自民党の会合で、来年=2024年2月末までに与党として結論を出すよう求めた。

自民党のメンバーの1人はこう話し、決着がつくことに期待を示した。

「政府側には、こちらからは何度も何度も『いつまでに決めればいいのか』と聞いていた。ようやく期限が示されてよかった」(自民党の実務者メンバー)

しかし、政府が「防衛装備移転三原則」とその運用指針を改正した22日。

公明党代表の山口はこう述べ、期限にとらわれず慎重に議論を重ねる必要があると強調した。

「党内的にも国民的にも議論が広がりコンセンサスが形成されているとは思えない」
期限ありきの議論は認めないと早くもけん制した形だ。

「公明党を説得できるほど政権の体力があるのか」(自民党内)

自民党内には、党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題を踏まえ、不安視する声もある。

年明けにも再開する実務者協議で「第2弾」の提言はとりまとめられるのか。
安全保障政策の大きな転換となる議論だけに注目される。

(文中敬称略)
(12月22日など放送)

政治部記者
黒川 明紘
2009年入局。津局、沖縄局を経て政治部。その後秋田局に異動し、2023年7月から再び政治部で防衛省を担当。
政治部記者
佐々木 森里
2015年入局。大分局を経て政治部。総理番、野党担当を経て現在は公明党を担当。
政治部記者
唐木 駿太
2017年入局。初任地は神戸局で去年の8月から政治部。総理番を経て、2023年8月から防衛省を担当。