【解説】衆参補選 与野党1勝1敗 この結果 どんな影響が?

与野党が対決した衆参2つの補欠選挙は、衆議院長崎4区で自民党が議席を維持した一方、参議院徳島高知選挙区では野党側が議席を獲得し、与野党の1勝1敗となりました。今回の結果をどのように見るか、衆議院の解散戦略にどう影響するのか、さらには、岸田総理大臣が打ち出した、「所得税減税の検討」も踏まえた臨時国会の注目点は何か、解説していきます。
※新たな状況分析、所信表明演説の内容などを加えて更新しました。
(森田あゆ美、山田康博)
Q.今回の衆参2つの補欠選挙、与野党双方が1勝1敗となりましたが、この結果、そして岸田政権の状況をどう見ますか?
A.もともと自民党が2議席を持っていたので、1議席を失い、与党側にはダメージだと思います。
内閣支持率が30%台にとどまる中、自民党は次の衆議院選挙に向けて態勢の立て直しを余儀なくされることになりそうです。

支持率をさらに分析してみますと、岸田政権の状況が見えてきます。
こちらのグラフのピンクの折れ線グラフは自民支持層の中の内閣支持率です。

10月は66%だったんですが、第2次安倍政権は平均83%。
その下、緑色の折れ線グラフは、いわゆる無党派層の支持率。こちらは10月は18%。
岩盤支持層があるとは言いにくい状況です。
では、選挙結果の受け止めに戻ります。
こうした中で、選挙戦の終盤では長崎でも苦戦が伝えられただけに自民党内では次のような安どする声が出ています。
「2敗すれば政局に発展するおそれもあった」(自民党内)

岸田総理は、22日夜、衆議院長崎4区で当選した自民党の金子容三氏の選挙事務所に電話をかけた際、「大切な選挙でした。そして難しい選挙でした」と振り返っています。
一方、野党側は立憲民主党の大串選挙対策委員長が「自民党の議席を1つもぎとり、非常に大きな結果だ」と話しています。
岸田政権の物価高騰対策などへの批判のあらわれだとして、政府・与党への攻勢を強めるきっかけにしたい考えです。
Q.衆議院長崎4区の補選、票数や当選者の声はどうですか?
A.こちらが衆議院長崎4区 補欠選挙の開票結果です。

自民党の新人で公明党が推薦した金子容三氏が、初めての当選を果たしました。
金子氏の父親は長崎県知事や農林水産大臣を務めた金子原二郎氏です。

金子氏は「厳しい戦いの中で勝利することができた。物価高、そして経済対策を喫緊の課題として県北における地域の現状、苦しみを私が受け止めて国に届けていかなければいけない」と抱負を述べました。
Q.では、参議院徳島高知選挙区の補選はどうでしたか?
A.こちらが、参議院徳島高知選挙区の補欠選挙の結果です。

無所属の元参議院議員で衆議院議員も務めた広田一氏が、野党4党の支援を受けて3回目の当選を果たしました。
広田氏は、これまで参議院議員を2期、衆議院議員を1期務めました。

広田氏は「政治に緊張感をつくっていこうという皆さんの思いが結集をして、一つの大きな力になって勝利することができた。物価高騰対策の一丁目一番地はガソリンの高騰対策だ。今こそガソリン税の減税をやっていかないといけない」と抱負を述べました。
今回の2つの補欠選挙は、与野党が対決する構図となり、自民党や立憲民主党などの幹部が相次いで応援に入るなど、激しい選挙戦が展開されました。
その結果、衆議院長崎4区では自民党が議席を維持した一方、参議院徳島高知選挙区では野党側が議席を獲得し、与野党の1勝1敗となったということになります。
Q.今回の結果、岸田総理の衆議院の解散戦略にも影響しますか?
A.影響は避けられないと思います。
長崎4区の補欠選挙で自民党が勝利したとはいえ、NHKの出口調査では、いわゆる無党派層からの支持で立憲民主党の候補に2倍近く差をつけられました。

今回の補欠選挙の結果を受けて、与野党の間では「解散は遠のいた」という見方を多く聞きます。
与党内からは次のような見方が出ています。
「内閣改造でも支持率は上がらず厳しかったが、年内の解散はさらに難しくなった」(自民党幹部)
ただ、このような意見もあります。
「2敗が避けられ、解散できる可能性はぎりぎり残った。1勝1敗だったので可能性が消えたわけではないということだ」(与党幹部)
また、岸田総理が先週、新たな経済対策をめぐり、「所得税の減税」を検討するよう指示したことを捉えて、こう話す自民党幹部もいます。
「解散の布石ではないか」(自民党幹部)
与野党の間では「このあと支持率が上がる保証はなく、ここで減税を掲げて解散に打って出るのでは」と警戒する声が残っているんです。
岸田総理は内閣支持率なども見極めながら、引き続き解散のタイミングを探るものとみられます。
一方、野党内からは、こういう声が出ています。
「1対1の構図に持ち込めば、いい戦いができる」(野党内)
野党間の選挙区調整が進むか、注目されます。
Q.今、話にあったように、岸田総理は20日、所得税の減税を具体的に検討するよう与党に指示したが、なぜこのタイミングだったんでしょうか?
A.岸田総理としては、国会の召集日に、与野党双方から実現を求める声がある所得税の減税に踏み込むことで、議論をリードしたい考えとみられます。

実際、全国では物価高が続き、内閣支持率は低迷しています。
国民の負担軽減に取り組む姿勢をアピールし、政権浮揚につなげたい狙いもありそうです。
自民党の閣僚経験者は次のように話していました。
「これまでの防衛増税の議論などから岸田総理には増税のイメージがついていて、それを減税で変えたいのではないか」(自民党 閣僚経験者)
一方で、その2日後の22日には衆参の補欠選挙の投開票が迫っていました。
立憲民主党の幹部はこう批判していました。
「選挙を意識したもので、露骨な駆け込みPRだ」(立憲民主党幹部)
Q.「所得税の減税」は、国民の生活に関わるだけに関心が高いと思うが、具体的にはどのような措置が検討されるのか?
A.政府内では、期限を区切って、納税額から一定の金額を差し引く「定額減税」にする案が出ています。
まさに1998年に当時の橋本政権が行ったイメージで、具体的な額や、どのくらいの期間行うかが焦点になります。

ただ与党内でも慎重論も聞かれます。
「減税は法改正が必要で時間がかかり、物価高対策としては給付金より即効性が低い」(与党内)
また、岸田政権は、2024年以降の適切な時期に行うとしている防衛増税で所得税も対象にする方針を決めていることから、今回、減税を打ち出したことに、与野党双方から次のような指摘も出ています。
「ちぐはぐで分かりにくい」(与野党内)
このため、自民党内からは、さっそく増税の実施時期は先送りするほかないという声が上がっています。減税と増税の整合性や、物価高対策への効果など今後、国会で議論になりそうです。
Q.補欠選挙の結果も踏まえて、この国会の注目点は何でしょうか?
A.やはり、経済対策が最大の焦点となりそうです。
自民党の幹部はこう話しています。
「政権として訴えるべきことを明確にし、国民の信頼を確保していきたい」(自民党幹部)

政府・与党としては、来週にも所得税の減税や給付金の支給などを盛り込んだ経済対策を策定し、臨時国会で補正予算案の成立を目指す方針です。
一方、立憲民主党の幹部は次のように話し、攻勢を強める構えです。
「力を入れて岸田政権を追及していく。政権への不満や疑問を国会でしっかりぶつけたい」(立憲民主党幹部)
こちらに野党各党の主な経済対策をまとめました。

それぞれ、現金給付や、社会保険料の軽減、消費税や所得税の減税などを訴えていて、審議を通じて実現を迫ることにしています。
Q.“経済対策”について、所信表明演説で岸田首相は何を示したか?
A.臨時国会の召集を受け、岸田総理大臣は23日、衆参両院の本会議で所信表明演説を行いました。

冒頭、防衛力強化や少子化対策など、時代の変化に応じた課題に取り組み、結果を出してきたとした上で「今後も物価高をはじめ国民が直面する課題に、不撓不屈の覚悟をもって取り組んでいく」と述べました。そして「30年来続いてきた『コストカット経済』からの変化が起こりつつある。この変化の流れをつかみ取るために、何よりも経済に重点を置いていく」と述べました。
その上で、近く策定する新たな経済対策について、「供給力の強化」と「国民への還元」を両輪とした内容にする方針を示しました。
このうち「供給力の強化」では、今後3年程度を「変革期間」と位置づけ、◇半導体や脱炭素などの先端分野への大型投資を促進するとともに、◇賃上げや設備投資に取り組む企業への減税を進めると説明しました。
そして、「国民への還元」では、急激な物価高に賃上げが追いつかない現状を踏まえ、負担を緩和するための一時的な措置として、税収の増加分の一部を国民に還元すると強調し、所得税の減税を念頭に、与党と連携して具体策の検討を進める意向を示しました。
またガソリン価格を抑える補助金や電気・ガス料金の負担軽減措置を来年春まで継続する方針も示しました。
Q.これに対して、野党側からは?

A.立憲民主党の泉代表は、記者団に対し「岸田総理大臣には、ぜひ世論の変化の流れを逃さずにつかみ取ってほしい。世論はガソリン減税を求め、増税や、現在の健康保険証の廃止はしてほしくないと言っている。岸田総理大臣が一番、変化の流れを逃しているのではないか」と指摘しました。
その上で「ここまで経済対策が遅れたのは岸田総理大臣による人災だ。国会審議では補欠選挙の期間中に所得税の減税ということばだけを表に出そうともくろんだ真意を問わなければならず、特に防衛増税や少子化対策の財源と減税との関係について明確に答えてもらいたい」と述べました。
今後の臨時国会では、野党側は新閣僚の資質なども追及する構えで、補欠選挙の結果も踏まえ、与野党の激しい攻防が展開されそうです。
(10月23日 おはよう日本などで放送)

- 政治部記者
- 森田 あゆ美
- 2004年入局。佐賀局、神戸局などを経て政治部。自民党や外務省担当を経て、現在は2回目の野党クラブ。

- 政治部記者
- 山田 康博
- 2012年入局。京都局初任。政治部では法務省や公明党の担当などを経験し、現在は自民党を担当。