【南阿蘇鉄道の旅】長陽駅で、待ってます。
- 2023年07月14日
7月15日、南阿蘇鉄道は熊本地震からの復旧を果たし全線で運転を再開します。
NHKでは、シリーズで鉄道の魅力や沿線地域の人たちの思いをお届けしています。
今回は「長陽駅」です。
いつも、なにか、素敵なことが
からっとよく晴れ、青空の広がる休日。長陽駅を訪れると、明るい声が聞こえます。
「街を歩く心軽く 誰かに会える この駅で~♪」
そう。「オーシャンゼリゼ」のメロディーに乗せた替え歌です。(本家は駅ではなく道です)
ここ、長陽駅はそのメロディーと歌詞にふさわしい、心が躍る駅でした。
ホームに座ってカフェ時間
築95年。南阿蘇鉄道の前身、「高森線」の開業当初から変わらない、趣のある駅舎。ホームには木造りの椅子やつくえ、そして子どもたちが遊べる遊具。公園や、庭先のような穏やかな光景が広がります。
ここは、長陽駅であり、駅舎カフェ「久永屋」でもあります。
名物はシフォンケーキ(久永屋では資本といっています)。そして夏の間は、かき氷です。
線路側を向いて置かれた椅子にすわって、ぼーっとしながら甘い物を食べる。なんだかずっとここにいたくなってしまう・・・。そんな至福の時間をもとめて、長陽駅には多くの観光客が訪れます。
そんな空間を演出しているのは、「久永屋」の店主、久永操さんです。
不通の区間にあるこの駅で、地震から1か月後に営業を再開し、これまで復興の進む地域と鉄道を見続けてきました。
下手したら廃線になってたかもしれないなと思ったことも正直ありました。
7月15日に列車を迎えることができるのをほっとしています。
全線開通を目前にした、6月25日。朝8時に、地元の人たちが駅に集まりました。
この日は地区の住民による、一斉清掃。これまで7年間、定期的に清掃を続け、駅を守り続けてきた住民たち。小雨の降るなかでしたが、その手際はとても良く、ホームや駅舎まわりに生えた草だけでなく、線路の枕木のあいだに生えた草もどんどん刈り取っていきます。
小学生から90代まで。80人以上が、7年ぶりに走る列車が気持ちよく通れるように、と懸命に取り組んでいました。列車が走らなくてもきれいなホームが保ち続けられるのは、地元の人たちの愛のたまものです。
この地域は、熊本地震でも大きな被害を受けました。
集まった人の多くが、避難生活や仮設住宅での生活を経験しています。鉄道が復旧するまでのこの7年間、一生懸命前に向かって進みながら、徐々に復興に向かう南阿蘇鉄道を心の支えにしていた人も少なくありません。
きっとこれからも、熊本地震という記憶をともに抱えながら、地元の人たちは、地震前よりも一層身近に、南阿蘇鉄道と生き続けるのだなあと感じました。
やっぱりこの鉄道というのは、当たり前でなくて、いろんな人の思いが入っていて。
運転手もそうだけれど、いろんな人が協力して走れているんです。この風景というのはずっとあと100年でも200年でも残していけたらいいと思うので、地域の人たちも南阿蘇鉄道と一緒に動かしてるという思いでやっていきたい。
オーシャンゼリゼのメロディーに乗せ、ウクレレを持って陽気に歌うのが久永さんのスタイル。
いつも、なにか素敵なことに出会える長陽駅に、一緒に行ってみませんか。
『おー南阿蘇久永屋』
街を歩く心軽く 誰かに会える この駅で
素敵な あなたに 声をかけて
こんにちは僕と行きましょう
オーみなみあそ〜の オー長陽駅
いつも 何か素敵な ことが あなたを待つよ 南阿蘇
南阿蘇鉄道のむかしばなし
さて、ここからは恒例のむかしばなしのコーナーです。
南阿蘇鉄道がいかに地元に根付き、愛されてきた鉄道であるかを理解するために、この鉄道や南阿蘇村・高森町(=通称「南郷谷」)にまつわる歴史をひもといていきます。
今回は、南阿蘇鉄道と「観光」に関するお話です。
汽車に乗って、温泉に行く
南阿蘇の観光といえば?そう、南阿蘇鉄道。と、「温泉」ですね。
南阿蘇には、地獄温泉、垂玉温泉、栃木温泉、白水温泉など、様々な泉質の温泉が多数あります。いまでこそ簡単には歩けないので、車で行く人がほとんどですが、かつては鉄道で長陽駅に来て、そこから向かう人が多数いました。一番の最寄り駅はここなんですね。
「阿蘇下田城駅」の記事で紹介した「高森線鉄道唱歌」のなかにも、温泉の名前が多数出ていましたね。7番の詞では、「まもなく着くは長陽駅、地獄垂玉栃木の、温泉客の乗り降りの、駅に繋きは春と秋」とあります。
さらに、当時は阿蘇山麓への登山客もこの駅に多く集まりました。いまでは阿蘇市にある登山口からのぼる人がほとんどですが、車道が整備される前は南郷谷側からの登山客も多かったそうです。その昔、山から下山してくる観光客が、走る汽車に向かって上から荷物を投げ入れて、自分は身軽に下山し、汽車に走り乗った・・・なんで光景を見たことがあるという話を、沿線で取材している最中に聞きました。ちょっと想像できないような面白い話ですが、本当なんでしょうか??
とにかく、この駅舎は地元の人や観光客でにぎわう場所で、近くには食堂や観光案内所など多数のお店があったそうです。
しかし、車社会になるとともに、長陽駅を利用して温泉に行く人は少なくなり、お店も徐々に少なくなっていきました。
こうしたなか、地域を盛り上げようと尽力してきたのが、今村四四郎さん(88)。
長陽駅を起点に地域を盛り上げようと、駅の前にある案内板を作った、約15年前の区長さんです。戦前から変わらないこの趣のある駅舎を使いたいと、多くの映画の撮影でも使われたんだと、誇らしげに話してくれました(俳優の的場浩司さんが若い頃に来てエキストラで参加したのが一番思い出深いそうです)。
今村さんは、乗り降りする客が減っても、地域とともに在り続けてきたこの鉄道と駅舎を、守っていきたい。後世に残していきたいと考え、大切に管理してきました。
今村さんたち地域の人にとって、95年間変わらない長陽駅の駅舎こそが、誇りであり、守りたいものです。それを若い世代である久永さんが管理して、使って、かつてのように多くの人が集まる駅にしようとしている。嬉しいことだと語ります。
観光としての南阿蘇鉄道
かつて、観光のための足として使われていた南阿蘇鉄道(高森線)。いまではこの鉄道自体が観光の目的になりました。そして、全線開通によって、熊本地震やコロナで減少した南阿蘇、阿蘇地域の観光復興に寄与することも大きく期待されています。
雄大な阿蘇五岳と田園風景のなか、そして白川渓谷にかかる橋梁を走る南阿蘇鉄道。
来て、乗って、駅に降りて、地元の人と話して。あふれる魅力を最大限に感じとってみてください。
このシリーズが、そのガイドのような役割を果たせていたら幸いです。
(これまでのシリーズは下のリンクからご覧いただけます)
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