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【南阿蘇鉄道】全線開通間近!地元の人たちの思いは

シリーズ南阿蘇鉄道⑦阿蘇下田城駅
  • 2023年07月05日

ことし7月に、熊本地震からの復旧を果たし全線で運転を再開する予定の南阿蘇鉄道。
鉄道の魅力や沿線地域の人たちの思いに迫るシリーズの7回目です。
今回は「阿蘇下田城駅」を訪ねました。

[13:44] 國武 絵梨 NHK Player

温泉があった駅

阿蘇下田城駅には、昔、温泉がありました。地元の人や観光客が集う、温かい場所。
名前を、「阿蘇下田城ふれあい温泉駅」といいました。

しかし7年前、熊本地震で駅舎が被災。南阿蘇鉄道の運転休止と同時に、温泉の営業もできなくなりました。
地元の人にとって、この温泉はとても大きな意味のある場所でした。

駅前に住む、この地区の区長・今村忠継さんによると、地元のお年寄りたちが昼を過ぎるとどんどん集まり、温泉につかって、お茶を飲んで、世間話をして、夕方、帰って行く。それが7年前までの日常だったそうです。
高齢化が進み、1人で暮らしている世帯も多いこの地区。毎日温泉に訪れているかどうかを確認することで、地区の住民たちのようすを確認することができていたのだそうです。

区長 今村 忠継さん

この7年間、駅舎には鍵がかけられていましたが、今回特別に開けてもらいました。

温泉の受付や、物販のための冷蔵庫が並び、にぎやかだった室内。置かれていた台や箱などの跡だけが残り、石づくりの床の温度と相まってさみしさが漂っていました。温泉は復旧を断念。駅名も、「阿蘇下田城駅」と変わっています。

地元住民の「日常の一部」

駅前の道を突き当たったところにある床屋さん。御年86歳の緒方則雄さんがなんと現役で営んでいます。
昔は列車で遠くから髪を切りに来ていたお客さんがいたそうです。

南阿蘇鉄道の長い歴史とともに沿線で生まれ育ってきた緒方さんには、こんなエピソードがあります。
子どものころ、緒方さんは線路の近くにある田んぼに手伝いに出ていました。そこに汽車が、時間通りに走ります。緒方さんは汽車を時計代わりにしていました。
その感覚は、いまでもずっと続いているそうです。

緒方 則雄さん

7年間、緒方さんの「時計」は鳴りませんでした。そしてまもなく、早朝から夜まで汽笛の音を響かせる「時計」が緒方さんのもとに戻ってきます。

「下田城」ってなに?

駅名にもなっている「下田城」。駅舎はお城風。もちろんこれには由来があります。

この地には、その昔、「下田」さんという武士がいました。戦国時代ごろ、台頭した武将だそうです。
その下田氏が住んでいた城があったため、「阿蘇下田城」という名前がつけられ、駅舎も城風に建てられました。

その下田氏が住んでいた城跡は、駅から10分ほど歩いたところにあり、本丸の台地には下田氏の末裔とされる園田寿子さんが住んでいます。

園田 寿子さん

列車は、園田さんの家の真下を走っています。実は、本丸の台地が分断されて線路が敷かれているのです。
小さいころ、汽車が通るたびに3きょうだいで手をふっていたことが懐かしい思い出だという園田さん。全線開通後、60年以上の年月を経て、もう一度列車に手を振りたいなと話してくれました。

南阿蘇鉄道のむかしばなし

さて、ここからは恒例のむかしばなしのコーナーです。
南阿蘇鉄道がいかに地元に根付き、愛されてきた鉄道であるかを理解するために、この鉄道や南阿蘇村・高森町(=通称「南郷谷」)にまつわる歴史をひもといていきます。

今回は本題に入る前に、「阿蘇下田城駅」の駅名の話をします。今は「阿蘇下田城」で、その前は「阿蘇下田城ふれあい温泉」だったことは前述の通りです。実は、その前は「阿蘇下田駅」だったんです。

昭和3年の開業当初からこの駅は「阿蘇下田駅」でしたが、温泉を開業し、駅舎を新築した平成5年から「阿蘇下田城ふれあい温泉駅」に変更されました。
南阿蘇鉄道は、その開業当初から平成にかけて徐々に駅が増えていき、今の10駅体制になりました。しかし駅名が2度も変わったのはこの駅だけです。

「高森線鉄道唱歌」が存在した

今回の本題は、筆者がずっと書きたかった、鉄道唱歌についてです。

みなさん、もちろん「鉄道唱歌」はご存じですよね。「汽笛一声新橋の はや我が汽車は離れたり~」ではじまる歌です。新橋をスタートに、主に沿線の地理や風景を歌ったもので、明治時代の大流行歌です。
その高森線バージョンが、なんと95年前につくられていたというのです。作者がわからないので、替え歌のようなものに思いますが、この歌の存在は、どれだけ地元の人たちが待ちに待った、南郷谷を走る鉄道のおとずれをいかに喜んでいたかを現してくれるように思います。

郷土資料の「白水村誌」「長陽村誌」を参考に、高森町教育委員会から協力を得て、全30番の歌詞をまとめることができました。

「鉄道唱歌」のメロディーで口ずさんでみると、沿線の風景が情感たっぷりに伝わってきます。当時と今とでは、違うものもあるはずですが、変わらないもののほうが多いのではないかと思わせてくれる歌詞です。

歌詞は?

1 昭和の三とせ春浅み、山河新にきさらぎや、今日しも南郷貫通の、高森線は開けたり
→口語訳「昭和3年の早い春、山や川が新しく感じられるきさらぎです。今日まさしく南郷谷に開通した高森線が開かれました」

2 期待幾年諸人の、御代の恵に浴みせん、時は来たりぬ我が郷に、汽笛のうなり晴々し

(立野)
3 いざ乗り込まん立野駅、日本一の高架橋、白川鉄橋すぐなるぞ、深き谷合心して

(立野ー長陽)
4 眼下に臨む川ほとり、いらか繋ぎは旅人よ、紅葉に花に湯の名所、戸下温泉碧翠楼
5 北向山のトンネルは、長さ大凡一マイル、千古不伐の原始林、見るは帰りの楽みに
6 車窓の響く鮎返り、下れば栃木温泉場、誇りは設備と景勝よ、小山荒牧両温泉
7 まもなく着くは長陽駅、地獄垂玉栃木の、温泉客の乗り降りの、駅に繋きは春と秋

(長陽ー阿蘇下田)
8 白川畔に沿うすばし、阿蘇下田なる駅に着く、久木野に帰る里人は、茲に行李を下ろすべし

(阿蘇下田ー中松)
9 あたりに近き西の宮、下野の狩の祈祷どこ、夜泣きの貝の吉祥天、霊験しるきあらた神
10 稲の波打つ金間沖、我が乗る汽車は勢よく、南郷谷の中すう地 白水村にかかりたり
11 目標高き大銀杏、眞宗本派の正教時、左に近くおろがみて、やがて又着く駅何処

(中松ー阿蘇白川)
12 土地の其名の中松や、久木野にかけて米麦の、集まる俵数千俵、茲も沿線主要駅
13 間近に近き大森は、郷社八坂の神やしろ、一千年余の由緒ある、尊崇厚き鎮守神
14 南郷谷の登山口、一関口はこの駅に、降りれば近し八町余、易々たる道に汗も出ず
15 蘇山の展望雄大に、大矢の勝景変化あり、車窓に望む心地よさ、やがて又来る一と駅は

(阿蘇白川ー高森)
16 阿蘇白川の名も優に、夏尚ほ寒き清冽の、駅に因みの水源は、程遠からぬ道に在り
17 白水物貨の集散地、吉田新町訪ね見ん、繭取引きと畜産の、市場は殊に賑はしき
18 町の名所の群塚社、春は桜の女学校、杖引く人の鑑賞は、心まかせに面白や
19 遥かに仰ぐ清水寺、左につつく城が岳、倶利伽羅参り岳参り、皆此所よりぞ便利よし
20 白川第三鉄橋を、渡ればはやも高森の、町の繁華の偲ばるる、いらかの光り窓に満つ

(高森駅)
21 菜の花連く広原を、よぎる眺めも一入に、汽笛一声我が汽車は、高森駅に着きにけり
22 さすがに終点広大の、規模とならぶ設計は、玄関口にふさはしく、駅の精新心地よし

(高森町のこと)
23 新たに造る大道の、二線に懸かる橋の名は、昭和万代いやさかに、町の栄を称うべし
24 古き歴史の森の町、尋ねん史跡名勝は、御矢村神社祖母神社、穿戸の羅漢珍しき
25 山手の高森公園は、自然がなせし展望台、外輪山の風光も、ここに収まる美しさ
26 吉野に並ぶ桜木に、1日千本見事なる、眺めも町の遊覧地、いざや見て行け家づとに
27 寺は由緒の含蔵寺 高森城主の菩提どこ 町の名所の一つとて発車のあわい詣で置け
28 左にそびゆる根子岳は阿蘇随一の剣峰よ 町より道を色見路に取れば苦もなく距離近し
29 野尻草部柏行き、皆自動車の定期あり、行くも帰るも速やかに、文化の機関ぞ有難き
(全体)
30 五百余万の資を投じ、此の11哩全通す、ああ御恵に潤ほひし、我等が歓喜と幸栄は

なお、「鉄道唱歌」にも九州を歌う歌詞がありますが、それとは完全に別物です。
また、別の郷土資料には、「高森線開通記念の歌」と題して、15番までの歌詞が載っています。6番までは今回記載したものとほとんど同じなのですが、全く違う歌詞もあります。当時を知るご存命の方にお会いすることができなかったため、この「高森線鉄道唱歌」がどのように用いられていたのかは調べきることができませんでした。ご存じの方、是非お便りで教えてください!

(過去の記事は下のリンクからご覧ください)

番組では、みなさんの南阿蘇鉄道にまつわるエピソードを募集しています。旧国鉄時代の思い出でも構いません。
「わたしと南阿蘇鉄道」というテーマで、自由にお寄せください。お待ちしています!
投稿フォームはこちらから↓
https://forms.nhk.or.jp/q/V97ZMAES

  • 北条与絵

    阿蘇支局・記者

    北条与絵

    平成31年入局
    熊本初任地
    熊本市政担当後、阿蘇支局2年目。阿蘇の大自然を駆け回るのが大好き。

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