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岐路に立つ市民マラソン

地方大会で明暗分かれる
  • 2024年04月19日

 

ランナー人口はおよそ900万人と言われ、皆さんの周りでも、市民マラソンを走ったことがあるという人もいるのではないでしょうか。ところが、その市民マラソンは、今、岐路に立っています。ことし2月の「高知龍馬マラソン」など、昨年度、全国の都道府県が主催または共催する市民マラソンのおよそ4割で、定員割れになっていたことがNHKの取材でわかりました。
特に明暗が分かれているのが、地方都市の大会。なぜ定員割れが起きているのか、その原因に迫ります。
(高知放送局記者 竹村知真/福井放送局記者 大畠舜)

47都道府県すべてにフルマラソンの大会

3月31日、福井県で行われた「ふくい桜マラソン」。
福井県は全国で唯一、フルマラソンの大会がありませんでしたが、これで、47都道府県すべてに大会がそろいました。

ふくい桜マラソン

2週間ほど前に北陸新幹線の金沢・敦賀間が開業した効果もあり、参加者は1万3000人以上。エントリーの段階で、県外からの参加者が6割以上を占めました。コース上では、福井名物のソースカツ丼も提供されました。

ソースカツ丼

エイド(補給食)も全部食べました。このあとも福井のおいしいもの食べて帰ろうかなと思います。(大阪から参加した女性)

福井は人も温かいし、食べ物もおいしいし、景色もきれいで大好きなところになりました。来年も絶対来ます。(神奈川から参加した女性)

観光や宿泊など、大会の経済効果はおよそ15億円。市民マラソンは地域振興策の1つになっています。

観光客でにぎわう

厳しい地方大会

ところが、とりわけ地方都市の市民マラソンの大会で、定員割れが相次いでいます。いずれも去年11月の「東北・みやぎ復興マラソン」はエントリーが定員の77%、長野県の「松本マラソン」は定員の55%にとどまりました。さらに、「ひろしま国際平和マラソン」は参加者の減少などを理由に、2019年の大会を最後に再開できないまま、およそ40年の歴史に幕を下ろしました。

苦境に立つ大会の1つが、高知龍馬マラソンです。太平洋の雄大な景色を一望できるコースが魅力で、ことし2月の大会が10回の記念大会でした。

太平洋を望む高知龍馬マラソン(2024年2月)

しかし、1万2000人の定員に対し、エントリーは9300人余りで、2年連続の定員割れ。こうした都道府県が主催または共催する市民マラソンだけを見ても、昨年度開催された25大会のうち9大会で定員割れしていました。 

<定員割れとなった県が主催・共催するフルマラソンまたはハーフマラソンの市民大会>
                                 (昨年度)
・宮城県「東北・みやぎ復興マラソン」 ・岐阜県「ぎふ清流ハーフマラソン」
・愛知県「名古屋ウィメンズマラソン」「名古屋シティマラソン」
・三重県「みえ松阪マラソン」     ・鳥取県「鳥取マラソン」
・徳島県「とくしまマラソン」     ・香川県「香川丸亀国際ハーフマラソン」
・高知県「高知龍馬マラソン」

定員割れの要因はランナーたちが口にしたのが、参加費の高騰です。

参加費がちょっと高いから参加するのをやめたっていう友達は多いです。参加費が高いから、出るならものすごく練習して出ないともったいないとか、観光を兼ねて来ないともったいないと言っていた友達もいます。(ランナー)

若干、1万3000円は高いかなと思いますね、やっぱり1万円までかなと。(ランナー)

タイムを狙っている人にとってはあまり関係ないかもしれませんが、『ちょっと挑戦してみよう』という人にとっては、しんどい思いをして、参加費もあがるときついものがあると思います。(ランナー)

高知龍馬マラソンと、大都市の東京マラソン、大阪マラソンの参加費を5年前と比較すると、1万円程度だった参加費は1.5倍程度に値上げされました。参加者によっては、さらに開催地までの旅費や宿泊費もかかります。

参加費は5年前の約1.5倍に

何にお金がかかる?

なぜ、参加費が上がっているのか。その要因が、人件費や燃料費の高騰です。高知龍馬マラソンでは、フィニッシュ地点から高知駅などへバスでピストン輸送。今回は、70台の大型バスを運行しました。

フィニッシュ地点から大型バスでピストン輸送

また、コースに配置された550人の警備員や救護所など、主催者は経費を削減できないものが多くあるとしています。

定員割れによって、ことしの高知龍馬マラソンは見込み額でおよそ1500万円の赤字に陥りました。そこで、主催者の1つ、高知県も異例の対応。去年12月、赤字分を補てんする補正予算を組む事態となったのです。

コロナ禍が明けたと言っても、すぐには体作りがついていかないというランナーもかなり多かったことが、こういう結果につながっているのではないかと受け止めている。ほかの市民マラソンの状況や、あるいは今回の大会で参加していただくランナーの皆さんの声をできる限り聞いて、もう少し分析をした上で、来年以降の龍馬マラソンの開催のあり方について検討していきたい。(高知県・浜田知事)

浜田知事

県などで作る実行委員会は、来年の大会から定員を2000人減らし、経費削減を図る計画です。

定員割れは率直に残念に思っています。定員を見込んで収支計画を立てているので、定員を大幅に下回った場合はどうしても収支不足になってしまいます。一方で、救護所の数を増やしたり、参加者に満足いただけるようにサービスを充実させたりすることを加味すると、参加費は今の金額が正直ギリギリのラインです。今後は、例えばランナーの皆様にお配りするパンフレットをこれまでの紙から電子化することによって経費を削減するといったことをやっていきたいです。(高知県スポーツツーリズム課・谷内康洋課長)

高知県スポーツツーリズム課 谷内課長

魅力を上げるには?

全国で相次ぐ定員割れ。スポーツジャーナリストで、市民マラソンの運営にも関わっている増田明美さんは、ランナーの安全を守るためにも、参加費の高騰はある程度はやむをえないとしています。

なぜ、1万円を超えて高くなったかの説明はもっとしたほうがいいと思います。安全に安心に走るっていうのが一番大事なことなので、それをちゃんと確保するそれを保証するとなった時にはお金がかかる。(増田明美さん)

一方、全国に大会が林立する中で継続するには、「選ばれる大会」にする創意工夫が必要だと指摘します。

大切なのは“差別化”だと思いますよ。東京マラソンの“ミニ版”のような都市型マラソンばかりが増えると、ランナーは飽きてしまうと思います。その土地を、マラソンを走りながら味わえて、エイドやみなさんの応援、太鼓が響くといったオリジナリティーを高めて、ここに来てもらおうというような、魅力ある大会にするための工夫が大事だと思います。
マラソンは、私は“旅”だと思っています。フルマラソンの大会が47都道府県に出来た今、いろいろなところに行って観光名所を走ることで、人生を豊かにすることが出来ると思います。(増田明美さん)

増田明美さん

創意工夫でランナー増加を

全国各地で市民マラソンの大会がある中、より多くのランナーに参加してもらうには、大会の日程も重要です。「高知龍馬マラソン」が行われた2月18日は、「京都マラソン」や「おきなわマラソン」、「熊本城マラソン」など、強力なライバルがありました。そうした意味では、「ふくい桜マラソン」は、大会の少ない3月末の日程を選択し、上々のスタートを切ったと言えます。
また、「高知龍馬マラソン」では、給水所に特産の「ゆずジュース」を置いたり、完走した全ランナーに「カツオ」を振る舞ったりと、地域色を出した大会になるよう、工夫も見られました。こうした点をさらに強化し、魅力を高めることも1つの手だと感じました。
市民マラソンは、大会の前後に2泊する人もいるなど経済効果も大きく、さらに参加者の健康にもつながります。経費削減とともにどう地域一体となって盛り上げていくか、改めて考える時期に来ています。

  • 竹村知真

    高知放送局 記者

    竹村知真

    2018年入局。旭川局、札幌局を経て、2023年から高知局で県政取材を担当。来年は高知龍馬マラソンに出てみたくなりました。

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