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福岡発 きつ音で悩み1/4が不登校? 「待つ」姿勢を

  • 2023年09月26日

「きつ音」と聞くと、どんなイメージが浮かびますか?

会話などでことばが出てこなかったり、つまったりする「きつ音」。
全国でおよそ100人に1人がきつ音で継続的な悩みを抱えていると言われています。

先日、九州大学病院などの研究チームは、きつ音で病院を受診した中高生のおよそ4人に1人が不登校になるなど、学校を休みがちになっているという研究結果を発表しました。

この中では、中学生以上のきつ音がある人へのサポートが不十分だということも指摘しています。
きつ音のサポートには周りの理解も不可欠。
相手のことばが出てくるのを待つ、話を最後まで聞く、「待つ」という姿勢が重要だとされています。

みずからもきつ音で学校に行けなくなった経験があり、今はきつ音がある人を支える側に立っている男性を取材しました。

                               福岡放送局 記者 小島萌衣

もどかしかった幼少期

福岡県久留米市にある耳鼻咽喉科のクリニックに勤務する森田紘生さん。
言葉によるコミュニケーションに課題がある人をサポートする「言語聴覚士」です。

森田紘生さん

きつ音がある人の検査や訓練なども担当している森田さん。
自身も幼少期からきつ音に悩まされてきた1人です。

森田さんも周囲から話し方を指摘されたり、からかわれたりすることもあったといいます。

森田さん

やっぱり、もどかしさしかなかったというか。ほかの人たちはすらすら話せているのに、なんで自分だけ、というところはありました。

「きつ音」とは?

そもそも、「きつ音」がどういうものか知っていますか?

きつ音とは、言葉を流ちょうに話せない言語障害の1つです。

 きつ音の主な症状 

     ・最初の音をくり返す「連発」 → 例)「こここここんにちは」

     ・音を引き伸ばす  「伸発」 → 例)「こーーーーんにちは」

     ・音が出しにくい  「難発」 → 例)「・・・・こんにちは」

確立された治療法はありませんが、きつ音を発症した人のうち、およそ7割は自然に治り、小学生まで続くきつ音は長期的に継続すると言われています。

そして、きつ音がある子に対して子どもの社会で起きがちなのが、
①まねをされる、②指摘される、③笑われるの3つだといいます。

特にクラス替えがあると、きつ音のある話し方を見て、新しく出会う人たちから、まねや指摘や笑いを受ける可能性があることも指摘されています。

学校に行けなくなった

森田さんも、クラス替えに悩まされてきた1人です。
在学中、クラスが変わるたびに自身の「きつ音」と向き合わされてきた森田さん。
高校2年生の時のクラス替えで友達がいなくなると、声が出ず、教室に入れなくなりました。

森田さん

自分が教室に入ったときにはグループがある程度できていてその輪の中に入るような声かけというのが自分の中ですごくハードルが高く感じて。
のどにとにかくフタをされたみたいな感じで、しゃべりたい気持ちと、ここまで出かかっているのに、どうしようもなく出なくて、なかなか最初の言葉が出てこないということはありました。

教室には足が向かず、保健室に通う日々。

最終的に出席日数が足りなくなり、通信制高校へ転校しました。

実は、森田さんのように、きつ音を理由に通いづらくなる子どもたちは少なくないといいます。

「きつ音」で受診した中高生の4分の1が不登校に?

九州大学病院の専門医で、自らもきつ音がある菊池良和助教たちの研究で、その実態が明らかになりました。

九州大学病院・菊池助教記者会見より

過去12年間にきつ音で九州大学病院を受診した中高生のうち、84人を対象に調査したところ、およそ4分の1にあたる22人が不登校になるなど、学校を休みがちになっていたのです。

そうした子は、極度に緊張したり他人から注目されることに不安や恐怖を感じたりする「社交不安症」の度合いが高いことも見えてきました。
菊池助教は、社交不安症のサインとして、「人前で話すと手足が震える」「きつ音が出た後に、気持ちが落ち込む」といったことがみられると指摘しています。

菊池助教は、きつ音の話をオープンにできる環境が重要だと指摘しています。

菊池助教

きつ音のことを『気にしなくていいよ』という風にきつ音の話をオープンにしないと、きつ音の話を本人が抱え込まないといけないと思ってしまう。そうすると、人前でどもることはいけないと強く思い、今回の結果の、きつ音が出ると落ち込むとか、反省するといったこととつながっている。なので、そういう風にきつ音のことをオープンにしていないと、きつ音の社交不安症になりやすいということです。きつ音のある子が社交不安症になりやすいという話とつながっていくのです。

きつ音は言語障害の1つですが、周りの理解で当事者の環境を大きく変えられることも指摘されています。大事なのは「待つ」姿勢。
話すのに時間がかかっても、最後まで聞き、相手が話した内容をまとめて伝えたりすると、話した相手は「伝わった」と満足感を感じるといいます。
「待つ」ことは、相手の存在を認めることにつながるのだと、菊池助教は話していました。

九州大学病院・菊池助教記者会見より

今回の研究結果を聞いて、森田さんは次のように話していました。

森田さん

自分が中高生だった当時のことを考えると、やっぱり発表の時にきつ音が出てしまったらどうしようとか、実際に症状が出て落ち込んで、きつ音が出てしまったなということで落ち込んで。また、今度話す時に余計手足が震えたり、汗かいたりとか、そういうのはあったかなと思うので、その考え方を当時、少しでも変えられていたら、こんなに苦労しなかったかなと思うところはあります。周りに対してきつ音を自分から説明して、周りに理解を求めるという考えは当時なかったので、それはすごく、もう少しこういう風にしておけば、と思いました。

サポートの充実を

また、菊池助教は小学生までは教育現場や医療面で一定のサポートがあるものの、中学生以上になると診療を行う医療機関も限られ、急激に支援がなくなるとの課題も指摘しています。

そうした中、森田さんが勤めるクリニックでは、6年前からきつ音診療を開始しました。

きっかけは、きつ音診療を行う医療機関が不足している現状に危機感を抱いたことです。
菊池助教によると、全年齢のきつ音を診療している医療機関は九州では4つほどしかないとされ、このうち、菊池助教が勤める九州大学病院は、初診まで、なんと、2年ほど待つといいます。

こうした現状に危機感を抱き、森田さんの勤務先は子どもから大人まで年齢を問わず受け入れられる態勢を整えました。

宮地院長

(はかたみち耳鼻咽喉科・宮地英彰院長)
当時は菊池良和先生のいる九州大学病院とか、菊池先生が非常勤で行かれる病院に紹介してたんですけど、それで1年待ちとか2年待ちの状態だったんですね。うちは言語聴覚士という職種がいますので、彼らの力を借りてきつ音診療ができたら、少し、早めに対応することができるんじゃないかという風に思いまして。

6人いる言語聴覚士のうち、森田さんを含め4人がきつ音の当事者として、きつ音に悩む人に寄り添ってサポートしています。
クリニックでは、同じ経験をした言語聴覚士がいることは、患者だけでなく、その家族の支えにもなっていると感じているといいます。

森田さん

自分の経験を元に、お話しすることもある、そういう時もあるので、少しでもみんなが安心して生活ができるということが自分としてはうれしいのかなと思っています。

《 取材後記 》

今回、特に気になった「中学生以上になると支援が急激に減る」という点について
菊池助教に取材してみましたが、はっきりとした理由はないということでした。
ただ、そもそも中学生以上のきつ音にあまり目が向けられていない現状があると指摘しています。

取材を通して、周りの理解の程度によってきつ音がある人の環境は大きく変わるのだと、改めて感じました。あなたの周りにいる言葉に詰まったり、最初の音が出にくい、という人はいませんか?その人は、もしかしたら懸命に話そうとしているのに、思うように話せていないのかもしれません。
「待つ」姿勢、心がけてみませんか?

  • 小島萌衣

    福岡放送局記者

    小島萌衣

    2015年入局。
    沖縄局、長崎局を経て23年から福岡局。

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