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工藤会トップの2審始まる 焦点は死刑判決の行方

ナンバー2が一転「独断で指示」認める 審理をどう見る 
  • 2023年09月14日

9月13日8時すぎの福岡高等裁判所。警察官や裁判所の職員が警戒にあたっていた。

「凶暴きわまりない」ともいわれた北九州市の特定危険指定暴力団「工藤会」。

そのトップで総裁の野村悟被告(76)とナンバー2の会長、田上不美夫被告(67)の2審の裁判が始まった。

指定暴力団トップに初めて言い渡された死刑判決。

2人は2審で何を語り、裁判所はどういう判断を下すのか。


厳戒の中 2審始まる

9月13日。福岡高等裁判所では早朝から厳戒態勢が敷かれていた。

裁判所の職員に加えて、敷地周辺のあちこちに腕章をつけた警察官が立ち、法廷がある建物の10階は、傍聴券を持たない人の立ち入りが禁止された。
「危険物と見分けがつきづらい」として、スマートフォンなどの電子機器の持ち込みが禁止され、入念なボディチェックが行われた。

福岡高等裁判所が入る建物

1審の判決時以上の異例の対応をとった理由について、警察関係者の1人は、「“顔見せ”のため工藤会関係者が傍聴に訪れたり、裁判の進行を妨害したりする不測事態に備え、万全の態勢をとった」と語った。

そして午前9時55分ごろ。工藤会トップの総裁、野村悟被告と、ナンバー2の会長、田上不美夫被告が、ともに上下黒のスーツ姿で法廷に現れた。

2人が静かに席につくと、裁判長は開口一番、こう告げた。

法廷で不規則発言は禁止されています。不規則発言があった場合、即時、退廷を命じることがあります

1審判決後の経緯

裁判長の発言の念頭には、2021年8月の1審判決言い渡し直後、野村被告が裁判長に向かって「公正な判断をお願いしたけど、全然、公正じゃないね」「生涯、後悔する」という趣旨の発言をしたことがあったとみられる。

「凶悪極まりない」ともいわれ、市民を標的にした事件を繰り返してきた工藤会。

被告の発言などを受けて、福岡県警は司法関係者に危険が及ぶおそれがあるとして、警備や保護対策を強化した。

被告側は1審判決の翌日に控訴したが、およそ1年後の22年7月、1審の弁護士全員を解任。
後任には長年、死刑廃止運動に取り組み数々の著名な事件を担当してきた弁護士などが就任し、22年12月に控訴趣意書が提出され、1審判決から2年あまりを経て、2審の審理が始まることになった。

ナンバー2「独断で指示」

裁判の論点を整理しておこう。

野村被告と田上被告は、工藤会が市民を襲撃した4つの事件に関わったとして殺人や組織犯罪処罰法違反などの罪に問われている。

2人が事件に関わったことを示す直接的な証拠がない中、1審の福岡地方裁判所は、厳格な統制がなされた暴力団組織である工藤会で、野村被告の意思決定なしに犯行が行われたとは考えられないなどとして、野村被告が4つの事件に首謀者として関与したと認定して死刑判決を言い渡したほか、田上被告に無期懲役の判決を言い渡した。

2審の審理で控訴の理由を述べた弁護側は、冒頭で1審判決を強く批判した。

弁護側
「1審判決は直接証拠が全くないにもかかわらず、推認に推認を重ねたもので、近代刑事司法の大原則である証拠裁判主義を大きく逸脱しており、極めて異例にして不当なものだ」

その上で弁護側は、トップの野村被告についていずれの事件でも共謀の事実はないと、1審に続き無罪を主張した。

一方、ナンバー2の田上被告について、4つの事件のうち看護師と歯科医師がそれぞれ刃物で襲われた2つの事件への関与を一転して認め、「トップに連絡や相談もしないまま指示をして実行させた」と主張した。

田上不美夫被告

これに対し検察は、「1審の判決は合理的、常識的であって、工藤会の組織の実態に即している。田上被告の新たな主張には、野村被告の刑事責任を免れようとする強い動機がある」などと主張し、控訴を退けるよう求めた。

2審で弁護側は、4つの事件の「首謀者」について新たな主張をしており、13日の初回の審理では、漁協の元組合長が拳銃で殺害された事件で実行役とされた元暴力団員の証人尋問が行われ、元暴力団員は「自分の個人的な事件です。関係のない総裁と会長が自分のために主犯のように言われている」と述べた。

裁判のポイントは 専門家に聞く

弁護側の新たな主張について、刑事訴訟法が専門で、13日の2審の裁判を傍聴した九州大学の田淵浩二教授は、次のように指摘する。

九州大学 田淵浩二教授

「トップの野村被告への死刑判決をより軽いものにできるかが弁護側の主張の最重要ポイントになっている。2つの事件でナンバー2の田上被告が指示したという主張が認められれば、野村被告の死刑が無期懲役などに軽くなる可能性もある。
1審の事実認定が合理的かどうかの評価や、弁護側が主張する新事実を裁判所がどう認定するかがポイントになる」

今後は

野村被告の自宅に入る捜査員 2014年

野村被告の逮捕から9年が経過する中、工藤会の弱体化はいっそう進んでいる。

福岡県警察本部によると、工藤会の県内の構成員は22年末の時点でおよそ180人と、ピークだった08年末と比べ、およそ4分の1まで減っているほか、このうちおよそ半数が服役または勾留されているという。

北九州市にあった主要な事務所の撤去も相次ぎ、20年には本部事務所が解体されたほか、野村被告の出身組織でもある「田中組」の事務所も、23年4月までにすべて撤去された。

一方、近年、組織の一部が経済規模の大きい首都圏に資金獲得のために進出しているとみて連携や取り締まりを強化しているということで、福岡県公安委員会は、「暴力的要求行為が継続するおそれがある」として、全国で唯一となる「特定危険指定暴力団」の指定について、22年12月、10回目の延長を行った。

組織の弱体化が進む中、2審の判決は、警察や地域住民が目指す「工藤会の壊滅」の機運にも一定の影響を与えるとみられる。

間接的な証拠の積み重ねでトップの指示を認定した1審の死刑判決は、維持されるのか。

9月27日に予定される次の審理では、野村被告と田上被告への被告人質問が行われる予定だ。

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