2023年4月28日

【みえDE川柳】お題:鏡

天 着飾ってちょいと斜めに見る鏡/みく さん

橋倉久美子先生  毎日の化粧やネックレスをつけるぐらいなら、顔とせいぜい胸の辺りまで見ればいいだけなので、洗面所の鏡や鏡台ですむ。ところが「着飾って」となると、全身が映る鏡でバランスなども見たいし、後ろ姿も気になる。まして着物なら、帯の結び方や襟足の具合も確かめておきたいところ。かくして姿見の前で、あっちを向いたりこっちを向いたり、さらには体をひねったりということになる。
「ちょいと斜めに」という言い方から、手早く着付けを終えたお姐(ねえ)さんが仕上がりを軽く確かめている、粋な姿を思い浮かべた。
地 きれいかと訊かれて絶句する鏡/桐一葉 さん

橋倉久美子先生  「感想を聞かれた鏡が困っている」とか、逆に「鏡が忖度(そんたく)する」といった意味の句がたくさんあった。同想句は没になる可能性が高いが、表現に抜きんでたものがあると、入選につながることもある。
この句の場合、単に「困っている」で終わらせず、「絶句する」と大げさな表現をすることで成功した。嘘をつくこともお世辞を言うこともできず、さりとて本当のことを言うわけにもいかず、四苦八苦している鏡の表情が見えるようだ。

人 まだすてたものじゃないわと見る鏡/やすさん さん

橋倉久美子先生  川柳の魅力の一つは、自分の弱点や欠点をさらりと吐き出せるところにある。今回の「鏡」でも、鏡に映る自分の姿が今ひとつだという立場の句が多かった。そんな中、この句は「まだすてたものじゃない」と、ポジティブに言ってのけた。このずうずうしさ、楽天的なところも、また川柳ならではである。
もっとも、「まだ」と言うからには、「もうだめかと思っていたけど」という気持ちも根底にあるのだろう。気持ちの微妙な揺れ動きが、話し言葉を使ってうまく表現されている

 

 

<入選>

お風呂場の鏡曇ったままで良い/松山敬子 さん
剃り残し見つけドヤ顔する鏡/福村まこと さん
うつすけど録画機能はない鏡/せいじ さん
絶景を二倍楽しむ水鏡/なるほどマン さん
手鏡で友達になる春の月/よっちゃん さん
病み上がり今日は鏡をスルーする/ムギ さん
鏡拭くそれでも消えぬ顔のシミ/はぐれ雲 さん
はねている髪を鏡のせいにする/汐海 岬 さん
歯磨きをジッと見つめている鏡/だんでらいおん さん
以上にも以下にも映さない鏡/戴 けいこ さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子 先生

 445句のご投句をいただきました。
「眼鏡」を初めとする字結び(意味に関わりなく題の文字を用いること。「鏡(かがみ)」の題に対して、「眼鏡」は「鏡」の字は使っているが「かがみ」ではないので、字結びとなる)やそれに近い句は少なく、よかったと思います。一方、身近な題材だったのでかえって発想が似通ってしまったのか、「鏡の中に母(父)がいる」など、同想句がたくさんありました。
ちょっとした気付き、発見を、口語で、575のリズムで詠むのが川柳の基本です。「誰もが見て(聞いて、感じて)いるけど、まだ誰も言っていないこと」を、身近なところから探しましょう。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


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